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2025年11月のピックアップ書籍

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「原則」と「実践」を簡潔にまとめた現代咬合学 咬合の臨床応用 アナログからデジタルまで

Michael Radu・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 11,000円(本体12,100円+税10%)・200頁 評 者 吉野 晃 (東京都・吉野デンタルクリニック) 今回紹介する『咬合の臨床応用 アナログからデジタルまで』は、昨年(2024年)に欧米で刊行された『Practical Applications in Dental Occlusion:Analog to Digital』の日本語翻訳版である。 本書の翻訳は、監訳者の熱田生氏、鮎川保則氏を中心に、池上龍朗氏、乾志帆子氏、前川賢治氏、山﨑治氏、和田淳一郎氏という咬合を知り尽くした錚々たるメンバーが担われており、それだけでも本書の価値が理解できる。一見難解な内容を、的確かつ簡潔な日本語でわかりやすく、忠実に表現された訳者の方々に、まずは心からの敬意を表したい。 著者であるDr.Michael Raduは、日本では馴染みが薄いが、欧米で40年以上にわたる臨床経験を有し、現在は米国・フロリダ州で開業するとともに、Nova Southeastern Universityの補綴科の非常勤講師を務めるなど、研究・教育活動に深く携わってることで知られる歯科医師である。 本書より、著者は咬合に関してはPeter Dawson氏に師事していることがわかり、また本書の推薦文はFrank Spear氏が寄稿している。これらのことから、GnathologyやPMSなどの米国歯科補綴学における歴史的潮流を継受しつつも、初期の厳格な咬合理論を緩和し、生理的許容範囲内での適応を広く受け入れた“咬合の現代標準”を体現しているグループに属する一人だと理解していい。 日本においても、咬合はときに“ドグマ”と表現され、コンセンサスが得られにくい分野であるが、本書の前書きにもあるように、日常臨床の多くが咬合に帰結するにもかかわらず、そのプロセスは軽視され、宗教のように教えられることで、ある種の拒絶反応と混乱をともなってきた事実は世界共通のようである。 咬合に関しては分厚く難解な書籍が多いなか、物理学に造詣が深い著者は、「もっとも簡素で反論の余地のない証拠は数学である」との考えから、“咬頭嵌合”“下顎位”などのキーワードを数理的に表現することでシンプルにし、また、わかりやすい図と種々のたとえ話を交えながら簡潔にまとめている。これらのことが、本書の特徴だといえるだろう。 本書は“原則”と“実践”をコンセプトに、理論の第一部と臨床の第二部で構成されている。著者は咬合を①「既存の下顎位を治療に使用できる場合」と、②「新たに設定しなければならない場合」の2つに分け、とくに咬合採得に関しては、下顎位に対する考え方の歴史的変遷から現在の到達点を述べたうえで、リーフゲージを使用した手法を非常に詳細に解説している。また、アナログによる手法と並行して、デジタルによる手法にも焦点を当てているが、そこではただ単にデジタルを推奨するのではなく、治療結果の障害となりえるアナログの問題点を抽出し、これをデジタルで補う技法は非常に新鮮である。ぜひ、本書を手に取って、その醍醐味を味わっていただきたい。

根管治療の困ったときにこれ1冊! 実践的なコツが満載! 完全解説 根管治療トラブル攻略本 エンドのよくある24の難局面大攻略

月星太介・編著 佐久間利喜/坂本 渉・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 9,900円(本体9,000円+税10%)・136頁 評 者 泉 英之 (滋賀県・泉歯科医院) 根管治療(エンド)は、緒言にあるように、「見えないものを扱う」難しさから、だれもがいろいろなトラブルを経験したことがあるだろう。そんな日常の「困った」を、Q&A形式で丁寧に解きほぐす本書は、経験豊富な著者たちの臨床アイデアが詰まった1冊である。 合計136ページにわたって、根管治療から再治療、外傷歯までをカバーし、明日から使えるテクニックが満載である。教科書的な内容ではなく、臨床の実践的な内容が中心で、若い歯科医師にとってまさに「もう1人の相談相手」になるだろう。 本書の最大の魅力は、幅広いエンドのトラブルを網羅している点である。診断のポイントから始まり、再治療時の問題(例:メタルコアの除去やガッタパーチャのとり残し)、さらには中心結節や外傷歯の対応まで、24のトラブルをわかりやすく、体系的に説明している。 目次を見ればわかるように、PART1では根管治療時のトラブル(患歯特定、根管探索、ファイル破折など)を19項目、PART2では再根管治療の3項目、PART3では外傷関連の2項目、そして付録として明日から導入できる推奨器具の一覧がある。例えばQ1の「患歯の特定ができない」では、非歯原性歯痛のフローチャートやエンド-ペリオ病変の分類を詳述し、検査法の精度をテーブルで比較している。こうした実践的な内容が、迷いを解消してくれるだろう。 また、Q&A形式なので、どこからでも気になる箇所から見ることが可能である。忙しい臨床家にとって、辞書的な使い方が可能だ。各章は豊富な臨床写真、図表、フローチャートがあるため、ビジュアル的に理解しやすくなっている。 豊富な症例では、治療前後のデンタルエックス線写真やステップバイステップの写真を通じて、「どう治るのか」が具体的にイメージできる。ファイル破折時の除去法や、水酸化カルシウムの除去テクニックなど、よくある疑問が明日からすぐ使えるアドバイスという形で説明されており、読むたびに「これ試してみよう」と思わせる工夫がある。 さらに、付録の「根管治療の便利なツール」一覧は、材料・器具の選定に役立つ。電気歯髄診断器やコールドテストの使い方から、筆者ら推奨のファイルシステムまでを紹介しており、気になるものから臨床に取り入れてみるのも使い方のひとつだろう。 月星太介先生は緒言で『「あのとき、こうしておけばよかったな」「この考え方があれば、もっとスムーズに進んだかもしれない」と感じた知識や工夫をQ&A形式でまとめた』と書かれている。多くの先生が経験し悩んでいるであろう内容が、この書籍に詰まっており、特に若い先生におすすめしたい。経験が浅い頃の「どう対処すればいいか判断に迷う」場面を、具体的にフォローしてくれている。エンドに少しでも不安を抱えるなら、ぜひ手に取ってみたい1冊である。

歯科医院に就職した新人スタッフが直面する45の疑問に答える1冊 “知らなかった”で困らない デンタルスタッフの新社会人ワークブック

濵田真理子・監著 山上真司・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 4,400円(本体4,000円+税10%)・128頁 評 者 荒井昌海 (東京都・エムズ歯科クリニック) 早いもので、評者が開業してから23年が経過した。その間、本当に多くのスタッフと一緒に仕事をしてきた。10年以上一緒に働いた思い出深いスタッフもいれば、短期間で退職してしまったスタッフもいる。ポジティブなスタッフもいれば、ネガティブなスタッフもいた。 しかし、一緒に働いた彼女たちを振り返ってみると、どんなスタッフにも明確な共通点がある。それは、新人として迎え入れたときに「がんばろう」というフレッシュな気持ちをもっていたことと、仕事を始めたばかりの頃に「これ、どうしたらいいのだろう?」という、わからないことに対する不安な気持ちをもっていたことである。つまり、こういった気持ちはすべての新社会人が感じたものだと言える。 昨今、マニュアルを準備している歯科医院はずいぶん増えた。そのため、業務に直結する内容は、手順を記載したマニュアルを見れば理解できる。問題なのは、マニュアルには書かれていない感情的な部分や、社会常識と言われている部分である。これらは学生生活で培ったものがかならずしもそのまま使えず、新社会人として考え方を切り替えなければならない。 学生時代までは、「先輩」といっても2〜3歳上の先輩がほとんどだったが、社会に出れば10歳以上も年上の先輩たちと同僚として一緒に仕事をすることになる。入社直後はただでさえ緊張の毎日なのに、経験したことがないほど年上の先輩で、易々と質問することができない状況では、焦りだけが募ってくるだろう。 今回のこの書籍には、そんな新社会人が抱くであろう45の疑問や不安が、理想的な解決策とともに書かれている。 評者がこれらを読んでみて感じたことは、1つひとつの疑問に対して女性特有の「心理学」的な視点もふまえて書かれており、とても興味深く、また文章も読みやすいということである。評者の院長経験から見ても「そのとおり!」と感じる解決策が列挙されているので、新社会人の皆さんは自信をもってこれらを指針にするとよいだろう。 そして、同時に感じたことは、本書はすべての院長にも読んでもらいたいということである。本書に書かれたような不安な気持ちや疑問は、すべての新社会人が抱いている内容であり、本書に書かれている解決策を先に理解していれば、クリニックの運営や院内の人間関係はかなり円滑に進むのではないだろうか。 このような視点でこの本をまとめることができたのは、監著者である濵田氏の長年にわたる、真摯にスタッフと向き合った経験によるものに他ならない。何度も何度もスタッフの話を傾聴し、指導を続けてこられたその姿勢と愛情に脱帽する。これからも多くの新社会人の道しるべとなってもらいたい。 本書が、今後多くのスタッフの悩みを取り除き、院長や先輩スタッフと新人スタッフとの潤滑油になることを期待してやまない。

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