私は、高校時代バスケットボールに打ち込んでいました。高校最後の大会、後半始まってすぐにポジションがセンターのチームメイトにアクシデントが発生。泣きながらベンチに走り寄ってきたので見ると……人差し指が反対向きに曲がっていたのです。慌てた監督は「亜矢!あとは任せた!」と、けがをした選手と病院に向かいました。そのあとの私は交代の選手を決め、動揺するチームメイトに声をかけ、フォーメーションなどの指示を出し、得点を取り、守り、タイムアウトのタイミングを考え……まさしく「選手兼任監督」でした。翌日は知恵熱が出るほど頭と体を使い、高校最後の大会は文字どおり燃え尽きました(笑)。 多くの院長先生のお悩みに寄り添うようになって、この高校最後の大会のエピソードをよく思い出します。高校生ならば私のように知恵熱を出して燃え尽きて済みますが、先生方は燃え尽きるわけにはいきません。歯科医師として、上司として、経営者として……時には経理や事務の作業まで。先生方は多くの役割があるため多忙であり、その1つ1つのスキルを向上させていくことは並大抵のことではありません。 院長先生はいわば「選手兼任監督」それも"エース"です。その院長先生が監督としてもエースとしても成果を出すには、①チーム全体のスキルアップ、②監督・コーチ陣のスキルアップ――この両輪が必要です。しかし、すぐに診療の質の向上につながるものではありません。特に②に関しては、手つかずの医院が多いのではないでしょうか。本当は最優先に考えたい「管理職の育成」
多くの歯科医院では、勤続の長い・または業務スキルの高いスタッフを管理職に置きます。これは、院長からの信頼が大きい判断基準になるからで、間違いではありませんがそれだけでは十分とはいえません。管理職には、高いコミュニケーション能力や分析力・セルフマネジメント力やコーチング力など、さまざまな能力が必要になります。少し大変だなと感じられるかもしれませんが、このようなスキルをもつ管理職スタッフがいると、たくさんのメリットがあります。 ①診療に集中できることで疲労軽減 診療をしながらもいつも全体の把握をしなければならないのは、かなりの集中力を使います。管理職スタッフがうまく機能すると、小さな指示はスタッフ間で完結しますので、ドクター業務に集中しやすくなり、疲労も軽減されます。 ②患者さんの定着率向上 コミュニケーション能力が高く、視野が広い、院長に近い経営者目線の管理職スタッフがいることで、患者満足度が高まり集患・増患の効果が期待できます。 ③スタッフの退職リスクの軽減 上記のような管理職スタッフがいることで、一般スタッフの負担軽減やストレスの緩和、また院長との間で信頼関係が構築されるまでの橋渡しを行えるなど、さまざまなポイントで退職のリスクを減らすことができます。歯科衛生士不足が深刻な現在、これは大きなメリットといえます。 歯科医院のリーダーはだれか――。それは、やはり院長先生です。しかし、診療という視点以外でもしっかりと院長を理解してくれるスタッフがいるのといないのでは天と地ほどの差があるといっても過言ではありません。 先生が歯科医師をもっと愉しむために……。「(表向き)スタッフにリーダーの椅子を明け渡す」という戦略もスタッフに愛される歯科医院づくりの1つではないでしょうか?
著者西依亜矢
株式会社DentalHygeia 代表取締役社長・歯科衛生士
略歴
- 九州福祉医療専門学校(現・九州医療専門学校)歯科衛生士科卒業。福岡県の開業医に勤務後、医療法人季朋会王司病院歯科(山口県)にて、有病者・障がい者歯科や訪問歯科・ターミナルケア等を学ぶ。
- その後異業種への転職(住宅営業)なども経て、おおた歯科クリニックの開業にチーフとして参加。同所属時に、結婚・出産・親の介護とライフステージを変化させながら、副院長就任・講師業開始・スタディグループ設立(DHスタディグループHygeia)とキャリアを重ねる。
- 2018年、株式会社DentalHygeiaを設立。スタッフ教育やスタッフ採用・定着について、歯科衛生士目線でのサポートを中心に事業展開。現在は、臨床では乳幼児の口腔機能育成を中心にフリーランスとして臨床・講演活動を行う。「0歳からの健口長寿研究会」(増田純一会長、佐賀・マスダ小児矯正歯科院長)の設立メンバー。