これまで「スタッフに愛される歯科医院づくり」をテーマに、私の想いをお話してきました。最終回となる今回は"努力を形に変えるために"注意したい点についてお話ししたいと思います。仕組みやシステムに振り回されない(使われない)
スタッフにとって働きやすい・働きがいのある医院づくりに取り組んでいただくなかで、せっかく取り組んだにもかかわらず功を奏さない、むしろ逆効果に陥ってしまう時があります。そのような悲しい結末にならないように、どのような点に気をつけるとよいのでしょうか? 組織の安定のためにさまざまな仕組みやシステムを導入していただくことがあります。とても大切なことですが、その仕組みやシステムに振り回されてしまうことはありませんか?たとえば、「月に一度スタッフと面談をする」というルール。本来の目的は、スタッフの希望や不満を把握するためであったり、医院側が求めている業務と本人が頑張っている業務との乖離を防ぐためであったりしますが、双方に目的意識がない状態で行うようになると、「なんとなく気まずいだけの時間」や「診療を圧迫する無駄な時間」と捉えられかねません。このような現象は以下のようなさまざまな場面で起こりえます。 ・受講したセミナーの内容を身につけさせるために課したレポート提出が原因で、レポートを書くためのメモに集中してしまい、大切なエッセンスを聞き逃してしまう状態 ・作業動線を考えて決めた収納場所を、状況が変わったにもかかわらず厳守し続け、逆に作業効率が落ちた状態 ・コミュニケーション能力を上げようと講座を受講し「○○の法則」などの専門的知識を得たが、どのように使えばよいかわからず逆にコミュニケーションがたどたどしくなった状態 このような状況を避けるために大切なことは、「決めるときにスタッフの心を動かす」ことではないかと思います。院長先生あるいはスタッフからの提案においては、システムや決まりごとをつくるときに、全員がまずその意味を理解し、そして多数が心からそれを必要と感じていることが重要です。院長の役目は"総合演出"
もう一つの注意点は、"スポットライトを当てること"です。前回、「スタッフの個性に合わせ得意業務を割り振る工夫を」とお話ししましたが、ただ任せるだけでは「都合よく押し付けられている」と感じられてしまうかもしれません。スタッフの個性に合わせた業務を割り振ったならば、そのことについて明確に評価すること、そして医院内外に公開して評価される機会をもつことが効果的です。以下はその1つの例です。 某医院で「華道」を学んでいるスタッフがいました。そこで院長先生は、予算を組んで医院の待合室のお花をそのスタッフに任せることにしました。そのうえでSNSに「今月もスタッフ○○がきれいなお花を活けてくれました。皆様お気軽にお越しください。」と投稿。医院に訪れる患者さんより「きれいなお花ね~、お勉強されているの?」「来月は何のお花を使うの?」など声をかけられるようになり、地域の患者さんとの交流から"患者さんの健康を守りたい"という気持ちを強くするようになりました。もちろんそのスタッフはその後も楽しんで"お花係"を継続されています。心が通い合う喜びを
歯科医院のスタッフは、歯科診療を仕事として行うために集まっています。しかし、「仕事」というつながりだけでは乗り越えられない壁にぶつかるときもありますね。世代や考え方の違いで違和感を覚えることもあるかもしれませんが、もし院長先生が上手に「心が通い合う喜び」を示してくださったならば、きっとスタッフから何十倍にもなって"愛"が返ってくることでしょう。 スタッフは、いつも院長先生を見つめているのです(了)。
著者西依亜矢
株式会社DentalHygeia 代表取締役社長・歯科衛生士
略歴
- 九州福祉医療専門学校(現・九州医療専門学校)歯科衛生士科卒業。福岡県の開業医に勤務後、医療法人季朋会王司病院歯科(山口県)にて、有病者・障がい者歯科や訪問歯科・ターミナルケア等を学ぶ。
- その後異業種への転職(住宅営業)なども経て、おおた歯科クリニックの開業にチーフとして参加。同所属時に、結婚・出産・親の介護とライフステージを変化させながら、副院長就任・講師業開始・スタディグループ設立(DHスタディグループHygeia)とキャリアを重ねる。
- 2018年、株式会社DentalHygeiaを設立。スタッフ教育やスタッフ採用・定着について、歯科衛生士目線でのサポートを中心に事業展開。現在は、臨床では乳幼児の口腔機能育成を中心にフリーランスとして臨床・講演活動を行う。「0歳からの健口長寿研究会」(増田純一会長、佐賀・マスダ小児矯正歯科院長)の設立メンバー。