「歯科医師として勤務するだけでなく、いずれは自分の医院を開業したい」と思っている歯科医師は少なくありません。
開業を決意してから、実際に始めるまでの具体的な手順や準備期間について詳しく解説します。
歯科医院を開業する前に知っておきたい前提知識
歯科開業を目指すなら、今から紹介する業界の前提知識を押さえておきましょう。
全国にある歯科医院の数
街を歩くと必ずと言っていいほど目に入る歯科医院。 実際、どの程度全国に存在するのでしょうか。
医療施設動態調査平成29年1月末概数によれば、2018年5月での歯科医院の数は、約69,000軒で、これはコンビニの約55,000軒を14,000軒ほど超えています。
この歯科医院数を見ただけで、「市場はいっぱいだ」「新規開業しない方がいい」と歯科医師を諦めるのは早計です。
厚生労働省が発表した「医療施設動態調査(平成 30 年 2 月末概数)」によれば、歯科医院は関東地方や近畿地方の都市部に集中しており、地方では1,000軒以下の都道府県がほとんどです。
また都市部でも差別化をするなど工夫次第でチャンスがあります。
歯科医院の開業にかかる準備時間の目安
実際に開業する段階での準備期間は、人によってさまざまです。
「歯科医院を開業しよう」と決めたとしても、すぐに開業する人もいれば、しっかりとキャリアを積んでから開業する人もいます。
空間デザインや医療機器、広告・宣伝などをこだわって1年間、資金繰りの不安から働きながら進めて半年間、コンサルや家族、歯科医師仲間など周りの力を借りてスピーディに3ヶ月間、といった具合です。
数年後に開業すると決めてから、「海外の歯科を学ぶために留学しよう」「矯正専門の歯科医になるため勉強しよう」「家族の理解や応援を得よう」と、着実に準備をしてからでも遅くはありません。
スケジューリングに関わる要素は、
・現職の退職時期
・賃料
・準備期間の生活費
・初期費用の確保
・スタッフの雇用
・内装
・外装工事
・自分のキャリア(年齢)
などです。
「〇月〇日までにスタッフの雇用を終わらせる」というように具体的な期日設定をすれば、計画的に準備を進められます。
開業時期はいつがベストか
「開業時期をこだわらなくとも、年中いつでも開業したらいい」という考え方は、実は危険かもしれません。
例えば、注意したい事は8月開業です。
8月は年間を通して最も暑く、患者さんが歯科医院に通う優先度は自然と下がります。
また、8月1日に開業すると、すぐにお盆休みを迎えます。
旅行や家族で過ごす人が多いため、この期間中に歯医者へ通院する方は少ないでしょう。
さらに、スタッフを休ませなければ、「お盆すら休めない」という不満が開院早々溜まってしまいます。
こういった理由から8月の開業はあまりおすすめできません。
1月のお正月休み、5月のGWといった長期休暇のタイミングも注意しましょう。
また、現職や家族の状況なども考慮して時期を定めた方が良いでしょう。
開業を成功させるには、できるだけ多くの応援者の力が必要です。
ただし、「環境が100%整ってから開業しよう」と考えていては、いつまでも先延ばしになってしまうので、何年後といった大まかな開業時期は決めておくことをおすすめします。
歯科医院開業までの手順
「1年後に開業したい」と決めてから、具体的にどういった準備の手順が必要になるかを解説します。
なお、それぞれの手順で紹介している必要な期間は、あくまで目安です。
開業地・テナント決め
開業で最も大切な事は、開業地・テナント決めです。
前述の通り、歯科医院は全国に数多くあります。
その中で開業を成功させるためには、入念な診療圏調査を行いましょう。
地域の人口数や年齢、家族構成、都市機能(ベッドタウン・ビジネス街など)などを含めた調査をします。
例えば、自分が専門とする症状になりやすい年齢層がいない地域で開業しても、強みを活かせません。
テナントの間取りも重要です。
同時に診る患者数、使用する治療機器によって、必要な間取りも変わります。
理想とする開業地やテナントを決めたら、物件を探します。
診療圏調査から物件の契約までの期間は、3~4か月が理想です。
しかし、納得の行く物件と出会えずに、1年、2年と時間が過ぎる事も珍しくありません。
早い時期から物件探しを進めていきましょう。
資金計画・調達
開業地・テナント探しと並行して、「事業計画書」を使った資金計画・調達を行いましょう。
事業計画書とは、開業のコンセプトや収支計画、必要な資金の明確化といった項目をまとめたものです。
言い換えれば、「開業の成功」というゴールへの道筋を立てるためのツールです。
事業計画書を作成すれば、「何にいくらかかるか」「いつまでにいくら必要か」といった資金の数値が明らかとなります。
もし、資金繰りに不安があるなら、金融機関や国、家族や知人などから融資・借入を受ける必要も出てくるでしょう。
開業を決意してから1年以内の開業を目指すなら、事業計画書は約1ヶ月で作成し、2~3ヶ月以内に融資を受けるのが目安となります。
経営とお金は切っても切り離せない関係です。
しっかりとした事業計画書をもとに、資金計画や調達を進めましょう。
また、物件探しや融資の審査を受けるまでには、周りに独立開業する意志を早めに伝えておいてください。
内装・外装工事
次に内装・外装工事へと移ります。
機能面とデザイン面、両面から適切な内装・外装工事を行ってもらいます。
事業計画書で示した歯科医院のコンセプトに合った空間デザインにしましょう。
落ち着いたイメージを患者さんに持ってもらいたいのに、奇抜なデザインにしてしまっては、元も子もありません。
また、「治療をスムーズに行えるようスペースを確保する」「親子で来れるようプレイルームを設置する」といった機能面も重要です。
工事の契約から完了までは約3ヶ月を見ておきましょう。
機材や備品購入とスタッフ募集
工事に着手したら、歯科医院の運営で必要な機材を購入します。
治療機器は当然ながら、事務関連の用具からプレイルームのおもちゃ、電話回線、広告・宣伝用のチラシまで、幅広く準備しましょう。
また、スタッフの募集も行います。
求めるスタッフ像を求人広告会社などとすり合わせながら進めていきましょう。
この時期には、同時並行でさまざなことを行うため、抜けのないよう確認しながら進めましょう。
機材購入とスタッフ募集を内装工事の完了までに済ませておく事が理想です。
諸書類提出・申請
歯科開業まで残り1~2ヶ月。
ハード面での準備が整ったら、ソフト面での準備を仕上げていきます。
開業のために必要な諸書類の提出・申請をしましょう。
診療所解説に必要な届出書類は、以下の通りです。
提出先 |
申請・届け出書類 |
提出期限 |
保健所(都道府県知事) |
診療所開設届 |
開設後10日以内 |
保健所(都道府県知事) |
診療所X線装置設置届 |
開設後10日以内 |
社会保険事務所(都県知事) |
保健医登録申請書 |
開業前 |
社会保険事務所(都県知事) |
保険医療機関指定申告書 |
開業前 |
福祉事務所 |
各種医療機関指定申請書 |
随時 |
労働基準局 |
労災保険指定診療所申請書 |
開業前 |
また、税務関係の届け書類は、下記の通りです。
提出先 |
申請・申請書類 |
提出期限 |
税務署 |
個人事業の開廃業届出書 |
開設後1ヶ月以内 |
所得税の青色承認申請書 |
開設後2ヶ月以内 |
給与支払事務所の開設届出書 |
開業後1ヶ月以内 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書及び納期の特例適用者に関わる納期限の特例に関する届出 |
- |
青色専従者給与に関する届出書 |
開業後2ヶ月以内 |
都道府県税務事務所 |
個人事業開始届出書 |
- |
これらの諸書類を提出・申請してからが、いよいよ開業のスタートとなります。
歯科医院の開業は計画的に勧めよう
今回紹介した通り、開業するまでにはさまざまな準備が必要です。
歯科医院の開業は、単なる治療技術だけでなく経営能力・判断を求められます。
開業を成功させるためにも、なるべく早い段階で計画を練り、無理のない準備を進めましょう。