歯科医院を始める際に、欠かせないのが開業資金です。
独立開業をする場合、技術があっても資金が無ければ開業できません。
開業に必要な資金を事前に把握しておくことで、開業前に適切な準備を進めることができます。
今回は、その内訳や資金調達、資金繰りのポイントについて解説します。
歯科医院の開業に必要な資金の内訳
歯科医院の開業資金は、目安として5,000万円ほど必要といわれています。
まずは歯科医院の開業に必要な費用の内訳について、項目別に解説します。
医療機器費用
希望する医療機器の数やグレードによって費用は変わりますが、目安は1,200万円~1,500万円ほどです。
項目 |
費用相場(万円) |
歯科診療ユニット |
250~500/台 |
エアーコンプレッサー |
30~50 |
バキュームシステム |
50~70 |
滅菌器 |
30~50 |
レントゲン設備(デジタル) |
500~1,000 |
その他の医療機器 |
100〜200 |
この他に、待合室やトイレ、洗面台、受付などで使用する備品も必要となるでしょう。
また、電子カルテや予約システムを利用する場合は、導入費用に100万円~200万円、月額費用に数万円が必要になる可能性もあります。
内装・外装工事費用
歯科医院を開業するために内装・外装工事を施します。
内装・外装工事には多くの費用がかかります。
一般的な店舗と異なり、歯科医院の開業に適した設備工事が必要になるためです。
たとえば、歯科診療ユニットに給排水の配管を行うためには「床上げ工事」、レントゲン室の設置を行うために「放射線の防護工事」などを実施しなければなりません。
規模によりますが、1,500万円~2,000万円の費用がかかります。
一例としての金額は下記の通りです。
項目 |
内容 |
費用相場(万円) |
仮設工事 |
養生、足場組み、解体費など |
50 |
大工工事 |
床・天井軸組、間仕切など |
150 |
X線防護工事 |
X線室鉛板貼など |
100 |
建具工事 |
各部屋のドア、引き戸など |
180 |
仕上げ工事 |
クロス貼り、塗装など |
150 |
家具工事 |
受付カウンター、流し台、戸棚など |
200 |
空調、換気工事 |
エアコン、換気扇など |
170 |
給排水、医療配管、衛生器具工事 |
給排水、エアー・バキューム配管、トイレ、洗面器、水栓など |
150 |
電気工事 |
スイッチ、コンセント、照明器具など |
160 |
その他工事 |
ガス、防災、電話、TV、外装・外構など |
100 |
諸経費 |
- |
100 |
物件費
開業地の物件を賃借するためには、契約費用がかかります。
たとえば、東京で家賃40万円のビルテナントを賃借する場合は、一例として下記の費用がかかります。
項目 |
費用(万円) |
敷金 |
300 |
前家賃 |
40 |
礼金 |
80 |
保証会社契約料 |
40 |
仲介手数料 |
40 |
合計 |
500 |
テナントではなく戸建ての物件を希望する場合、土地代や建築代がかかるため、費用はさらに高くなります。
広告費その他
歯科医院の開業を知らせる広告費とは、ホームページ作成やチラシ配布などにかかる費用です。
目安として、100万円~200万円ほどかかります。
また、オープニングスタッフを集めるために数十万円もの人材募集費用がかかります。
求人媒体に条件を伝え、募集をかけましょう。
ただし、リファラル(紹介)で直接雇用するなど、工夫次第では求人媒体を利用する必要がなくなる場合もあります。
運転資金
開業後に経営が安定化するまでの必要資金です。
開業後すぐにたくさんの患者さんに通院してもらうことが理想ですが、現実はうまくいきません。
経営が軌道に乗るまで数ヶ月~半年かかる可能性もあります。
また保険診療の収入は、診療を行った月の翌々月に国から支払われます。
開業から2ヶ月間は、保健診療の窓口収入と自費診療の収入でやり繰りしなければなりません。
開業から数ヶ月は十分な収入源を確保しにくいため、ここを乗り切るために「運転資金」が必要です。
運転資金の目安は、1,000万円ほどをみておきましょう。
歯科医院の開業資金の事例
東京都で開業した場合の一例をお伝えします。
開業地や設備、スタッフ数などによって、金額は異なります。
項目 |
金額(万円) |
医療機器費用 |
1,500 |
内装・外装工事費用 |
1,500 |
物件費 |
800 |
広告費その他 |
500 |
運転資金 |
1,200 |
合計 |
5,500 |
訪問歯科医院の開業資金
昨今、日本では超高齢化社会を迎えるにあたり在宅医療のニーズも高まっています。
在宅医療とは、患者さんの自宅や介護施設などに医師・歯科医師が訪問し、診療を行うことです。
在宅医療には「往診」と「訪問診療」の2種類があります。
往診は、患者さんの容態が急変した場合に歯科医院が訪問して診療を行うことで、訪問診療は、通院できない患者さんに対して計画的に訪問し診療を行うことを指します。
在宅診療は、外来に比べて診療報酬単価が高く設定されています。
※詳しくは
こちら(厚生労働省)をご参照ください。
たとえば、月2回訪問診療を行った場合、1回あたりの診療収入は平均20,000円~30,000円/人です。
(施設基準、各種加算算定により変動します。)
また、「在宅療養支援歯科診療所(歯援診)」として認定されると、診療報酬で優遇されます。
認定の基準は、
こちら(歯科医療情報推進機構)をご参照ください。
在宅医療を専門で行う場合は、医療機器内装・外装工事、物件費などの項目で開業資金を抑えられるため、資金面でメリットも大きいといえます。
ただし、患者さんの症状に合わせて適切な医療を提供するため「他の歯科医院との連携」や、医療機関や患者さんとのやり取りをスムーズにする「バックオフィスの充実」などに対応する必要があります。
歯科医院の開業資金の調達方法
続いて、開業資金を集める方法についてご紹介します。
自己資金
一番の理想は、自己資金ですべてまかなうことです。
開業前から目標の金額に向けて、資金を貯めておきましょう。
家族・知人からの借入
自分だけでなく、家族・知人から資金を集めます。
いくら信頼のおける家族・知人であっても、お金の貸し借りはトラブルの元。
金額や返済条件などは口頭ではなく、書面でまとめておきましょう。
融資
各種機関から融資を受けましょう。
日本政策金融公庫や福祉医療機構、民間銀行、リース会社、コンサルタント会社などから、融資を受けることが可能です。
融資金額や返済期間、金利、担保・保証人など条件は、機関によって異なります。
ただし、ある程度の自己資金がないと融資を受けることができないため、それ相応の自己資金を用意しておきましょう。
詳しく知りたい方は、下記の記事を参照してください。
【関連】
歯科医院が資金融資を受けるには?融資の種類や手順ついて解説!
助成金
助成金には、借入や融資のように返済義務がありません。
国や行政の提供している助成金を活用しましょう。
雇用関係や設備投資関連の助成金も存在します。
歯科医院の開業資金を抑えるコツ
歯科医院開業時の資金を抑えるために気をつけるべきポイント・コツをお伝えします。
居抜き物件を利用する
開業資金を抑えるために、最も効果的なのは居抜き物件の利用です。
居抜き物件とは、過去に歯科医院として使われ、設備や内装の残っている物件のことです。
居抜き物件では、設備や内装といったハード面の費用を抑えられます。
さらに、歯科医院の存在を周辺住民に知られているため、広告費も抑えられます。
一方で、条件に合う居抜き物件を探すことに手間がかかったり、以前の歯科医院のイメージが定着していたりなど、デメリットもあります。
医療機器を段階的に導入する
開業時からすべての医療機器を揃えるのが難しければ、最低限、必要な医療機器だけを揃えましょう。
経営が軌道に乗り、患者数の増えてきた段階で、必要な医療機器を増やしていくことが望ましいです。
成長ステージに応じて最適な設備投資を行なっていきましょう。
人件費を有効に使う
人件費を有効に使うというのは、開業費を抑えるために単にスタッフの給与を減らすことではありません。
前述の医療機器と同様に、段階的にスタッフの数を増やしたり、有能なスタッフを少数精鋭で雇うなど、人材登用に工夫が大切です。
人件費の有効活用には、人事や労務といった知識も欠かせません。
専門家に相談することも検討していきましょう。
歯科医院の資金繰りを健全に保つポイント
最後に、歯科医院を開業してから資金繰りや借入の返済に失敗しないためのポイントを解説します。
資金の流れを見る
歯科医院の資金繰りを考える際、預金残高から判断することは避けてください。
点ではなく線でお金の流れを見て、経営判断しましょう。
たとえば、新しく設備投資を行う際、預金残高は潤沢であったとしても、診療報酬は2ヶ月先にならないと入金されません。
場合によっては資金繰りが悪化することでショートし、黒字倒産となる可能性も考えられます。
入金>出金のバランスを保ちましょう。
余計な在庫を減らす
患者さんの治療で使う在庫を減らしましょう。
在庫がないと治療を行えませんが、多すぎても経営を圧迫します。
締め日の直前には仕入れを避けたり、不要な在庫を業者に返品したりといった工夫が大切です。
入金サイトを見直す
「入金サイト」とは、お金が入金されるまでの期間のことです。
患者さんからの入金サイトが長くなると、資金繰りが厳しくなってしまいます。
矯正や補綴などで分割払いを受け付ける歯科医院は、患者さん側に入金サイトの決定を委ねると、資金繰りが厳しくなる恐れもあります。
高額な自費診療の場合は、着手金として診療費の半分を先に支払ってもらうなどの工夫をしましょう。
歯科医院経営の安定化を目指して
歯科医院の開業資金の内訳や資金調達の方法、適切な資金繰りのコツなどを解説しました。
目的は開業することではなく、歯科医院経営を安定化させ、患者さんに価値ある医療サービスを提供することです。
開業する歯科医師は基本的に、経営の未経験者です。
経営の初心者として、謙虚な姿勢でトラブルを避け、経営を安定化させていきましょう。
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