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共通するところもある?耳鼻咽喉科医師が歯科医師に伝えたいこと

共通するところもある?耳鼻咽喉科医師が歯科医師に伝えたいこと
共通するところもある?耳鼻咽喉科医師が歯科医師に伝えたいこと
歯科と耳鼻咽喉科にはお互いに関連するところがあり、患者さんの症状を緩和するためには連携が必要です。今回は口腔内に一番近い鼻や耳に詳しい耳鼻咽喉科医から歯科医師に対して知っておいてほしい話を聞いてきました。

インタビューにご協力いただいたのは、神奈川県にある葉山かどくら耳鼻咽喉科の門倉義幸院長です。歯科にまつわる話、例えばインプラント術後に発症した副鼻腔炎の話などを伺いました。



歯科にも関係している副鼻腔炎

インタビュアー 「歯科にも深く関係している副鼻腔炎について教えてください。」 門倉院長 「副鼻腔炎について簡単にお話しさせていただきます」 インタビュアー 「よろしくお願いいたします」 門倉院長 「鼻腔の周囲には顔の中心から左右で対になっている8つの空洞が副鼻腔です。そのうち、頰の裏側にある副鼻腔が上顎洞になります。副鼻腔内はせん毛の生えた粘膜で覆われ、自然口によって鼻腔と交通しています。細菌などによって炎症が起こると自然口に狭窄や閉塞が生じ、副鼻腔が換気不全を起こします。すると副鼻腔内で細菌が増殖して粘膜の炎症が強くなり、せん毛の動きが阻害されてしまい、その結果、鼻汁などの分泌物が排泄されなくなり洞内に貯留します。これが副鼻腔炎の発症メカニズムです」 インタビュアー 「なるほど。症状としてはどういうものがあるのでしょうか?」 門倉院長 「症状は鼻閉、鼻漏、痛み(前頭部、眼周囲、頰部)、嗅覚障害等が認められます。治療は、抗菌薬の内服治療を主軸に、自然口の浮腫や狭窄を取り除くアプローチとして鼻漏吸引とネブライザー療法(抗菌薬の吸入療法)を行います。副鼻腔炎の診断にはX線検査や鼻・副鼻腔内視鏡検査を行いますが、X線では歯根部までは明確に写りません。クリニックなどの小規模な医療施設ではCTの普及率が低いこともあり、鼻内観察やX線検査のみで歯性か否かの判断は難しいのが正直なところです。内服薬やネブライザー治療後も症状が改善しない場合には手術を検討しますが、近年、手術をしても短期間で再発する『好酸球性副鼻腔炎』が増加傾向にあり、耳鼻咽喉科の領域では注目されています」 症例は69歳 男性で既往に喘息がある好酸球性副鼻腔炎と言われる難治性の副鼻腔炎の手術症例です。 ▼術前CT 他の上顎洞、前頭洞、蝶形骨洞よりも目の間にある篩骨洞と呼ばれる副鼻腔に強く病変を認めることが特徴です。 ▼手術中鼻内所見
先に鼻中隔矯正術と粘膜下下鼻甲介骨切除術が行われた状態です。まず右鼻内の映像で中鼻甲介を挟んで中鼻道側、嗅裂側に鼻茸が認められます。左鼻内にも嗅裂、中鼻道に鼻茸が認められます。鼻茸は炎症のために粘膜がポリープ状に腫脹したもので単に鼻ポリープと言ったりもします。好酸球性副鼻腔炎ではこのように両側性に鼻茸が認められます。 ▼術後副鼻腔所見
副鼻腔は薄い骨で蜂巣状に仕切られており、副鼻腔炎の手術では仕切りを取り除いて蜂巣を単洞化します。まず左鼻内です前頭洞が映し出され、内視鏡を引いていくと解放された篩骨洞、奥に蝶形骨洞、画面右側に上顎洞が観察できます。次いで右鼻内ではマイクロデブリッダーで嗅裂部の鼻茸を処理しています。マイクロデブリッダーは吸引しながら軟部組織を削り取っていく、現在の副鼻腔手術には欠かせない器具です。右副鼻腔も仕切られていた蜂巣を単洞化しています。 *(CT画像及び臨床動画の症例情報の提供) 昭和大学横浜市北部病院耳鼻咽喉科 講師 油井健史 先生 インタビュアー 「他に特徴はありますか?」 門倉院長 「他には、歯性上顎洞炎は基本的には一側性ですが、好酸球性副鼻腔炎は両側性で喘息との関わりが強い特徴があります。もし、そうした患者さんが来院された場合は、耳鼻咽喉科での検査を促してください」

インプラントにおける口腔内のトラブルとは

インタビュアー 「インプラントが原因で起こる口腔内のトラブルの実例を教えていただけますか?」 門倉院長 「数例ですが、歯科からの依頼でインプラントの術後に上顎洞炎を起こした患者さんを治療した経験があります。副鼻腔炎に気がつかないままインプラントを埋入すると、術後に上顎洞炎が強く出ることがあります。硬いものを食べなくなったなど諸説ありますが、近年は上顎骨が薄い方が増えているのではないでしょうか」 インタビュアー 「なるほど。では、そうならないためのアドバイスがあれば教えてください」 門倉院長 「埋入前に上顎骨が薄い場合や副鼻腔炎が疑われる場合は、耳鼻咽喉科で自然口の状態を検査することをお勧めします。万が一、術後に炎症が起きたとしても上顎洞の環境が整っていれば、重症化を防げることがあるためです」

歯科医院と耳鼻咽喉科のどちらでも問題になっている「お口ポカン」

インタビュアー 「歯科医院と耳鼻咽喉科で共通の問題になっていることはありますか?」 門倉院長 「小児歯科などで『お口ポカン』と呼ばれる小児の口呼吸は、耳鼻咽喉科から見ても改善すべき状態です。本来、耳の正常な発育には鼻から中耳腔へ空気が流れ込む必要があります。鼻呼吸が行われないと空気が耳へ抜けにくくなり、中耳炎や難聴が誘発されやすくなるのです。親御さんには、口呼吸は耳にもよくないという話を伝え、口呼吸を改善していく必要性を説明しています」 インタビュアー 「たしかに『お口ポカン』の状態を治すことは歯科医院でも行っていますね。耳鼻咽喉科の立場から見て、この現象が起きる理由は何だと思いますか?」 門倉院長 「私の見解ではありますが、口呼吸のお子さんは鼻に何かしらの問題を抱えているケースが多くあるように見えます。特に近年では日本人の2人に1人がアレルギー疾患に罹患していると言われ、早ければ2歳からアレルギー反応が出るお子さんもいるそうです」 インタビュアー 「アレルギーですか」 門倉院長 「はい。アレルギー性鼻炎の原因で多いのはダニやスギ花粉ですが、現在ではダニによるアレルギー性鼻炎とスギ花粉症については免疫療法(アレルギー体質を改善させる唯一の治療)が保険適応になりました。小児アレルギーに関する検査も指先の少量血液で判定できる簡便なキットがあります。口呼吸のお子さんで鼻炎などの症状が見られる場合は、耳鼻咽喉科からのアプローチも検討していただけたらと思います」

耳鼻咽喉科から診た口臭の原因

インタビュアー 「口臭の原因について、耳鼻咽喉科からの見解はありますか?」 門倉院長 「副鼻腔炎は副鼻腔に膿が溜まるため、その臭いが吐息と混ざると口臭になることがあります。しかし、そうした臭いを鼻の臭いと認識する患者さんが多いようですが、耳鼻咽喉科領域で口臭といえば、膿栓が挙げられます」 インタビュアー 「膿栓ですか?」 門倉院長 「膿栓の正体は、扁桃の表面の陰窩に取り込まれた細菌塊や食事の残渣などです。基本的には扁桃の表面についていて、目視できますが、陰窩の奥にある場合もあります。通常の膿栓は放置しても問題ありませんが、口臭が気になる場合や喉に違和感がある場合は、耳鼻咽喉科への受診をお勧めします」

耳鼻咽喉科では患者様の口腔内を必ず観察

インタビュアー 「歯科医師の方々に対して、何か伝えたいことはありますか?」 門倉院長 「リスク分散の意味でも、医科歯科連携に取り組んでいきたい、ということでしょうか。私たち耳鼻咽喉科医はほぼ全受診患者さんの口内を観察しています。患者さんの主訴によってはう蝕の簡単なチェックを行うケースもあります。口腔内をキレイに保つことで風邪を引きにくくなることが知られており、口腔内が著しく汚れている方は歯科への受診を促すこともあります」 インタビュアー 「口腔内が綺麗かどうかも耳鼻咽喉科医にとっては重要なことなのですね」 門倉院長 「はい。最近は高齢化が進み、ご自身での口腔内清掃を難しいと感じる方が増えています。電動歯ブラシなどを上手に活用しながら、患者さんにはキレイな口腔を保って欲しいと思っています」
インタビュアー 「では最後に、耳鼻咽喉科と歯科はどうあるべきだと思いますか?」 門倉院長 「大学病院などでは耳鼻咽喉科と歯科が連携する例が増えていますが、クリニックレベルではまだまだ少ないことが現状です。今後はクリニックレベルでも密な連携が必要であると考えています。 お互いのリスク分散の意味でも、それぞれの得意分野を活かした医科歯科連携を増やしていければと思っています」

まとめ

歯科から見たアプローチと耳鼻咽喉科から見たアプローチ。その2つがあってこそ、患者さんの口腔内の安全を保てるという見方もできます。クリニックレベルでも密に連携し、また口腔内環境を適切に保てるアイテムなどを活用しながら、患者さんのお口の健康を守っていきましょう。

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