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一般診療所で実践する
睡眠時無呼吸症候群の
口腔内装置治療はおもしろい!
第五回:無理難題から生まれるエビデンス

2020/2/26 臨床ライブラリ

「歯が少なくても無呼吸のマウスピース作れますかね?」

このように相談されれば、たとえどんな無理難題であろうとも「作れません」ではなく「作ってみます」としか言えないのが本音です。紹介医によりますと、重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)で導入した経鼻的持続陽圧呼吸療法(以下CPAP:Cotinuous Positive Airway Pressure)により良好な管理ができていたものの、最近自力装着ができなくなったため、やむを得ずこれを中止したそうです。その代わりに、OA治療を提案して患者さんの義歯を製作した診療所に依頼を出されたそうですが、残存歯が少ないからと断られてしまい、ほかに解決できそうな手段もないとのことでした。私個人の考えではありますが、相談してくる人はたいていその時点で何かしらの結論をおおまかに出しており、この人に前もって一言聞いておけば何とか解決に至るであろうと期待して話をしてくるのです。最初から私には自信がなくとも「Yes!」と返事して、成功に向けて前に進む以外の選択肢はないのです。

紹介初診時

患者さんは70代の女性で、明るい表情をみせつつも両手に杖をついてフラフラと歩きながら診療室に入ってこられました。BMI値32と肥満体型で、10年以上前から患う頸椎症と重度の糖尿病により手足に軽い痺れや脱力があるうえに、リウマチによる慢性的な関節痛もともなっていたため、日常生活のなかでは特に着替えるときとベッドで横になるときに苦労するとのことです。数か月前から今まで以上に手に力が入らなくなってきたうえに、腰と膝関節の痛みも強くなってきたため、徐々にCPAPのセッティングすらできなくなり、先日整形外科の主治医にこれを訴えて精査を行った結果、今後の経過次第では両足の切断を考慮するかもしれないと説明を受けたとのことでした。 口腔内には上下ともに大きな部分床義歯が装着されており、外すと残存歯は上下合わせて11本ですれ違い咬合を認めました 写真①、②初診時の口腔内。 このような欠損範囲が大きい症例に対して、義歯を装着した上で覆うように装着する設計のOAを製作すると、 ①義歯は寝るとき外すように指示されているので導入しにくい ②義歯装着下であると口腔内が狭くてOAを着脱しにくい ③OAの維持力が弱くなりやすい ④義歯を少し調整するだけでOAが適合しなくなりやすい こういったことが生じやすくなるため、私は義歯を外して装着する設計のOAを製作しています。この患者さんに行ったOAの製作工程を簡単にまとめました 写真③~⑱OAの製作工程。 ①印象採得 ②模型上で下顎前突位時における仮想咬合平面を設定する ③模型上で歯牙欠損部を仮想咬合平面に合わせてパテで形態を作る ④アンダーカットをパテでブロックアウトする ⑤ハードシートを圧接後、スプリントを削り取る

1週間後:再診時(OA装着開始)

⑥スプリントを試適する ⑦歯牙欠損部にリベースを填入して筋形成を行う ⑧スプリントを患者さんが着脱できるか確認する ⑨スプリント装着下で顎位を決める ⑩NKコネクターⅡ(MORITA、本稿第2回参照)をつけて完成させる ⑪患者さんが自力で着脱できるまで指導する 写真⑲~㉔ NKコネクターⅡを装着して完成させる。 写真㉕、㉖患者さんが自力で着脱できるように指導する。

2週間後:再診時(経過を確認)

⑫終夜連日OAを装着できており、顎関節症なども出現していないことを確認 ⑬紹介医に報告したうえでOSASにOAがどのくらい奏功しているか評価を依頼 患者さんより、足の切断手術とリハビリテーションで数か月入院生活になる方針が決まったと報告を受けました。そこで、整形外科主治医にも現段階における情報を提供しました。

1か月後:再診時(OA評価の結果とともに経過を確認)

→OAを装着することでOSASは重症から中等症へ軽減したとのこと 患者さんより2週間後に入院して両足切断術施行後リハビリテーションで数か月入院する方針が決定したとのことです。当診療所に通院か自宅訪問診察になるかはその時の状況で判断することとして、退院後にOSASが軽症範囲内まで改善することを目標に、OAの顎位を変更しながら経過を追う方針としました。 たとえ歯が少ないうえに手足が思い通りに動かなくとも、私たち歯科医療従事者が試行錯誤を重ねればなんとかなります。どんな条件を突きつけられようと、まずは診て、どうしたら打開できそうか、歯科医師のプライドにかけて計算し尽くした通りに設計してOAを製作するのです。何気ない日常診療のなかで、こういった経験を面倒くさがらずに積み重ねていくと、のちに自分自身でこのジャンルの医療のエビデンスを作るきっかけにもなるでしょう。そして、自分がいろいろな汗をかいている姿を恥ずかしがらずにそこのスタッフに見せることを第一歩に、共感してくれる仲間が少しずつ増えてくれると私は信じています。