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一般診療所で実践する
睡眠時無呼吸症候群の
口腔内装置治療はおもしろい!
第二回:毎日使えるものになるまで改良する

2020/1/17 臨床ライブラリ

「ちゃんと壊さないで毎日使えてるよ、ほら」

患者さんにとって半年ぶりの診療室に入るなり、笑いながら口腔内装置(以下OA:Oral Appliance)をその製作に携わった歯科技工士に見せています。私も確認すると一切の破損もなく、完成した直後と何の変化も認めません。先日紹介医(近病院呼吸器内科)の診察を受けたそうで、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)はOAのみで変わらず管理できているので、経鼻的持続陽圧呼吸療法(以下CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)は導入せず、また半年後に受診するよう指示を受けたそうです。歯科的にも特記すべき所見は認めなかったため、次回も紹介医の診察を受けた後に来院するよう指示しました。

この患者さんは、日本全国中の酒蔵を巡る旅行に夫婦で行くことが趣味で、ある日奥様から「いびきがうるさいから同じ部屋で寝たくない」と言われたのが契機となって紹介医の診察を受けたそうです。詳しく調べた結果、想定外に重度のOSASと診断され、CPAP装着を始めました。しかし旅行に行くたびにCPAPを持ち歩くことと、気持ち良くほろ酔いであっても寝る前に一旦これを準備することに嫌気がさし、紹介医にあらためて相談したところOA治療の提案を受けて、自宅からほど近かった当診療所を紹介されたのです。

私がOA製作を経験した症例においては、9割以上でNKコネクターⅡ


写真①
NKコネクターⅡ。
両端にはまっているキャップとマウスピースをレジンでつける。

を用いて多少下顎が動く設計にしています。初めて依頼を受けて製作したOAは、何も考えずにただ下顎を最大前方位としたうえ、上下のスプリントをレジンで固めて製作したものでした。しかし再診時に「こんなの朝まで入れてられない」と訴えられ、それ以降その患者さんは来院されませんでした。何がいけなかったのか、試しに同じ手技で自分用にOAを製作して装着したところ、顎が痛いうえに話すこともできなく、さらには睡眠中にもがいて無意識に外していたようで、私自身も朝まで入れてられませんでした。

そこで、気道を確保しながらも顎が痛くならない顎位を慎重に探し、OAは装着中でも話すことができるようにNKコネクターⅡを用いて下顎が多少動く設計に改良して再製作しました。すると、そのOAは装着しても顎に痛みが出現せず、睡眠中も無意識に外さずに朝を迎えることができたのです。しかも、上下のスプリントをレジンのみで固定したOA


写真②~④
上下のスプリントをレジンだけで固めたOA。
一般的な設計であり壊れにくいが、装着中は下顎を動かせない。

は顎位変更が大変でしたが、NKコネクターⅡを用いて固定したもの


写真⑤~⑦
NKコネクターを用いた当患者のOA。
下顎を少し動かすことができるので、寝言が言えるうえにあまり煩わしくない。

は、接合部だけ削って外せば容易に上下のスプリントが分かれるので、技工時間が短くなりました。現在では、さらに細かな技工操作や設計に改良が加わり、ほとんどの患者さんで終夜連日装着の成功を確認できるようになったのです。

また、外注せずにOAを診療所で作れば経費削減となり、装着までの時間も短縮できるうえ、個々の患者さんの特性を加味して臨機応変に改良を加えることもできます。こうして新たな患者さんの依頼を受けるたびに、診療所のスタッフとまるでなぞなぞ問題を解くかのごとく試行錯誤を重ねるうちに、現在では残存歯の本数や状況にあまり左右されず対応できるようにもなりました。それに加えて、ある患者さんから「もしこれが壊れたらその日は寝れないですよね?」と質問されたことを皮切りに、当診療所ではたとえ破損してもOA治療を中断せずに継続できるように、予備としてまったく同じ顎位の複製OAをサービスで患者さんに提供しています。

しかし、いくら臨床経験を積んでもなかなかこちらの思惑通りに進まない患者さんもいます。この患者さんもその1人で、何度もOAが壊れてしまい苦慮しました。それでも、ありがたいことに私はその診療所で諦めの悪いスタッフたちに恵まれたことで、あの手この手と試行錯誤を重ねた結果、前述したように半年経ってもこの患者さんのOAは壊れず、なおかつOSAS管理に貢献できていることも証明されたのです。

次回、この患者さんが来院されてからOAを使いこなせるようになるまでの一連の流れを供覧します。

参考文献
横溝一郎,星作男,高坂晋哉,大川原亨,中久木康一.
はじめよう!保険でできるOSAS患者のOA治療 医科・歯科の連携による治療の流れから技工操作,難症例の対応まで.
the Quintessence 2018;37(2)64-84