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“予防歯科マイスター”天野教授に聞くコロナウイルス感染に対抗する「舌磨き」の重要性について

“予防歯科マイスター”天野教授に聞くコロナウイルス感染に対抗する「舌磨き」の重要性について
“予防歯科マイスター”天野教授に聞くコロナウイルス感染に対抗する「舌磨き」の重要性について
全世界で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症。収束の兆しは⾒えてきましたがまだまだ予断を許さない状況です。

こうしたウイルス感染の水際対策として、まず入口となる「口腔の健康管理」がとても大事であることがメディアなどを通じてさかんに叫ばれるようになりました。さらに、新型コロナウイルスの場合、その初期症状の1つとして “味覚異常”がみられることから、「舌の状態」とも密接な関係がある可能性も示されています。そこで今回は、味覚異常が発生する理由と、ウイルス感染予防としての『舌磨き』の重要性について、天野敦雄先生(大阪大学歯学研究科 予防歯科学 教授)にお話を伺いました。

味覚異常を発生させる理由

味覚の脳への伝達は、唾液に溶けた味物質が味覚受容体である舌の味蕾(みらい)細胞を刺激し、そのシグナルが味覚伝達神経系(舌咽神経、鼓索神経など)を通して大脳へ伝えられ、味覚中枢が味を認識する経路をたどります。この伝達経路のどこかに異常が起こると味覚異常が起こるわけです。 味覚障害の原因の半分以上を占めているのが「亜鉛不足」と言われていますが、亜鉛摂取が味覚異常に必ず効果があるとは限らないようです。また、薬剤によるもの(降圧剤・抗生物質・抗ヒスタミン剤など)、感冒、花粉症、全身疾患(糖尿病・肝臓疾患・胃腸疾患・腎臓病など)、心因性(うつ病・ストレスなど)、栄養不足などによる場合もあり、味覚異常の原因は単純ではありません。

突発性の味覚異常

通常、味覚異常には前触れがあります。最近、味がよく判らなくなってきた(味覚減退)。あるいは、変な味を感じるようになってきた(異味症)。というようにゆっくりと症状が進みます。 一方、新型コロナウイルス感染症の初期症状として報告されている味覚異常は突発性です。前触れや思い当たる疾患もなしに、ある日突然、著しい味覚異常が起こります。

味覚異常はウイルスによる味蕾細胞の障害が原因

では、新型コロナウイルス感染症の初期症状として、どうして味覚異常が起きるのでしょう。本来、さまざまなウイルスは、人間のどこかの細胞に寄生して増殖します。新型コロナウイルス感染症の場合、ACE2受容体(ACE:アンジオテンシン変換酵素)をもつ細胞に感染することが報告されています。新型コロナウイルスがⅡ型肺胞上皮に存在するACE2受容体に結合し、感染、細胞内で増殖することで、重篤なウイルス性肺炎を発症させると考えられています。ACE2受容体は、体内のいろんな箇所に存在しているのですが、 舌や口腔粘膜にも多く存在することが報告されています。新型コロナウイルスは、眼、鼻、口から感染します。特に鼻、口からの感染の頻度が高いようです。味覚異常は、舌の上に多く分布する味蕾(みらい)細胞が新型コロナウイルスの感染によって障害をうけて起こると考えられています。

「舌磨き」が重症化のリスクを減らす可能性

ウイルス感染を完全に予防することは難しいですが、ウイルス感染に続いて起こる細菌性の肺炎の発症リスクを減らすケアを普段から意識して行うことで、肺炎の重症化を防ぐことができる可能性があります。具体的には「舌磨き」を行い、舌の表面に付着している“舌苔”を取り除くことをお薦めしたいと思います。歯科に関わる皆さんはよくご存知と思いますが、舌苔は古くなった口の中の粘膜、食べ物のカスなどの汚れが集まってできたもので、細菌も多く含まれています。この舌苔がたくさん付着していると、誤嚥による細菌性肺炎のリスクが高まります。歯周病菌などの口腔細菌の出すタンパク分解酵素がインフルエンザウイルスの感染を促進させることがあります。新型コロナウイルスの感染も、舌苔の細菌が促進している可能性も考えられますが、まだ科学的な証明はありませんので、今後の研究が必要です。

「舌磨き」の方法と有効なツール

舌の表面には舌乳頭とよばれるザラザラした小さな突起が多数存在します。実際に味を感知する器官である味蕾(みらい)は、この舌乳頭の部分に集まっています。味蕾はとてもデリケートな器官ですので、優しくなでるように磨いてもらうよう指導してください。一度にたくさんの汚れを取ろうとして力を入れすぎてはいけません。特に、今まで舌磨きを定期的に行っておらず、舌苔が厚い層になって付着しているような方の場合、舌の粘膜が弱くなっていますので、やさしく除去しないとすぐに舌乳頭を傷つけてしまいます。また、高齢の方は舌が乾燥してひび割れていたりしますから、マウススプレーなどを使って舌の表面に水分を十分加えてから行ってください。 一回でキレイにしようとするのではなく、就寝前の1日一回でいいですから、少しずつキレイにしていく意識で、定期的に行っていただくことが大事になります。舌磨きには、手磨き用の「舌ブラシ」をお薦めすることが一般的ですが、日常の歯磨きに電動歯ブラシをお使いの方などの場合は、舌磨きに特化した替ブラシを揃えているブランドもありますので、そちらも参考になさってください。余談ですが、舌を磨くと味がよく判るようになって、食事が楽しくなります。 日本歯科医学会連合のHPに「新型コロナウイルス感染症について」というテーマでアップされていますので、詳しくはそちらをご参照いただければと思います。 (日本歯科医学会連合HP http://www.nsigr.or.jp/

最新情報は学会HPをチェック

“新型コロナウイルスは本当に歯科医院で感染するリスクが高いのか”という疑問については、現在、日本口腔衛生学会で調査中です。例えば、大阪では約5,500軒の歯科医院がありますが、実際にコロナウイルスで感染した歯科医師はわずか2人という話です(2020年5月19日現在の未確認情報)。さらにその感染されたお2人も診療中に感染したわけではないようです。歯科医師や歯科衛生士は、院内で常時手袋、マスク、ゴーグルを着用しているので、ウイルスの感染予防になっているのかもしれません。歯科医師や歯科衛生士は、一般の方より日常的に口腔内を清潔に保っていることも理由の一つである可能性もあるでしょう。こうした調査データも近い将来に明らかになると思います。日本口腔衛生学会では、「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症対策の検討」というテーマで情報を随時更新していますので、開業医の先生方もぜひ参考になさってください。 (日本口腔衛生学会「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症対策の検討」 http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/news_20200518.html

著者天野 敦雄

大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学 教授

略歴
  • 1984年 大阪大学歯学部 卒業
  • 1987年 大阪大学歯学部 助手
  • 1997年 大阪大学歯学部附属病院 講師
  • 2000年 大阪大学大学院歯学研究科 教授
  • 2010年 大阪大学大学院歯学研究科副研究科長
  • 2015年 大阪大学大学院歯学研究科長/歯学部長
  • 日本口腔衛生学会
  • 大阪大学歯学会
  • 国際歯科研究学会日本部会(JADR)
  • 国際歯科研究学会(IADR)
  • 日本歯周病学会
  • 歯科基礎医学会
  • 日本細菌学会
  • アメリカ細菌学会(ASM)
  • 日本歯科医学教育学会
天野 敦雄

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