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地域のために警察歯科医ができること
―京都の開業歯科医の挑戦 第4回:
警察からの身元確認業務の要請など
~警察歯科医の仕事とは?~

2020/5/12 デンタル〇〇デザイン

前回(第3回参照)紹介したように、不安な気持ちを抱きながらもはじめた京都府歯科医師会における警察歯科・災害対策委員会での活動を地道に続けていくと、知識や経験はもちろん、多くの新たな人間関係を築くこともできた。また、歯科医師会だけでなく府、市、警察や大学などさまざまな各種団体とも関わり合いをもつことができると、あらためて認識できた。こうして委員会活動に奔走していたある日、地域警察署の嘱託警察歯科医になってほしいとの要請があった。少しでも今までの経験を還元することができれば、との思いもありすぐに承諾の返事をした。

警察歯科医とは、警察からの要請を受け、事件・事故・災害時などの身元確認や犯罪捜査活動に協力する歯科医師のことである。警察歯科医という専門の歯科医師は存在せず、全国の歯科医師会に所属する歯科医師が登録制で活動を行っている。平成21年より、国費で身元確認時の歯牙鑑定謝金が支払われているが、医科のそれと比べると少ないと言われており、ボランティアに近い活動であると言ってもよいのではないかと考えている。私自身は事件や事故、災害に遭遇してしまわれた被害者、被災者のお役に少しでも立てればと、日々活動を行っている。


身元確認の流れ(日本歯科医師会ホームページより)

また身元確認や犯罪捜査への協力要請が実際にあった時のため、定期的に研修会も行っており、ときには各警察署の担当者とも協調し、歯科医師と警察官が同席して研修や実習をすることもある。研修会の最後には、お互いの立場から現状報告や意見交換をし、今後の方向性を模索し合う時間も設けている。


各署の警察歯科医と担当警察官との合同研修会

ある日、午後から休診にして大学に行く予定だったが、研究日程の都合でキャンセルとなり、時間が空いた。今とばかりに、普段ため込んでしまっている雑務を事務局で黙々とこなしていた。その時、不意に携帯電話が鳴る。周りも見えないほどパソコンに集中している状態だった自分にはじめて気がつく。我に返り電話に出てみると、警察署の担当者からだった。「身元不明遺体が出たため、歯科所見もお願いしたい」という旨の内容だったため、区切りのよいところで仕事を終わらせ、すぐさま警察署に向かう。到着したところ、すぐに担当者が奥の方へと案内してくれた。

「どうやら電車に飛び込み自殺をしたみたいなのですが、所持品がまったくないんです」。ヒンヤリとした部屋に安置されているご遺体は、お顔が判別できないほどの損傷だった。幸い歯に関しては問題ない。すぐさまデンタルチャート(歯科所見)を作成し、口腔内写真撮影を行った。前述のように身元のわかるものがないことから、かかりつけ歯科での情報と照合することはできないが、採取したデータ一式は歯科医師会経由で、各歯科医院に向けて送ることができる。


作成したデンタルチャートと、照会用写真の一部(歯や歯列状況の特徴も入れる)

結果としては後日、別の情報が入り身元確認ができたと連絡があった。歯科所見からではなかったが、無事ご家族のもとへ戻せるとわかり、本当にホッとした。

普段何もない時にでも担当警察官には随時連絡を取り、コミュニケーションを図るようにしている。するとあちらからも医院に足を運んでくれ、いろいろと話をしたりする。そうすることで、いざというときお互いがスムーズに連絡を取り合い、そして協力し合えることになると信じている。

そして、まさにその連携をスムーズに取らなければならない事案が、たいへん残念ではあるが昨年起こってしまったのである。まだ記憶に新しい京都アニメーション放火殺人事件であった……。
(続く)


安田歯科医院ホームページ
http://www.yasuda-dc.com