ある保育園での話、新しく2歳の女児が入園した。 初めての給食の時、数名の友達と机を囲んで座り、"いただきます~!"の合図で、友達は一斉に食べ始めた。 しかし女児は、みんなの食べる様子を見ていたが、急に泣き出したという。 その理由・・。 A保育士は、"保護者がいないことに気がついた"と考えた。 B保育士は、"給食が家庭の味とは違う"と考えた。 C保育士は、"ピーマンなど苦手な食材のせい"と考えた。 しかし、これらはすべて違っていた。 この理由、この女児は"食べ物を前にし、どうして良いのかわからなかった"のだ。 どうやら家庭では、いつも保護者に食べさせて貰っていたらしい・・。 そう!自分でスプーンを持って、食べた経験がなかったのである。 そこで保育園では、食べ物を手で持たせ口に運ぶことから教えたという。 最近このようなケースは、珍しくないらしい。 現在、保護者が"離乳食を口に入れ、食べさせてあげる"ことが普通の与え方になっている。 手づかみ食べをすると、"周りが汚れる"と言ってさせることもない。 "何をどれだけ食べさせるか"に気を取られ、それが愛情だと勘違いしている。 これでは、食べる意欲が育たない。 "噛まない"・"いつまでも飲み込まない"などの背景には、育児環境の変化も大きな要因である。 さて先日、ある保育所に食べる様子を見に行った。 5歳児の食事風景を見学していると、後ろで"パチン"という音がした。 振り返ると、女児が「先生!箸が折れちゃった」と言う。 その日の献立は、"レンコンのはさみ揚げ"。 レンコンの間に、ひき肉をしっかりはさみ揚げたものである。 ふつう我々は、まず箸ではさんで前歯でかじって食べる。 しかしこの女児、その方法がわからない。 そこで、プラスチックの箸を1本ずつ両手に持ち、レンコンの穴に入れて引っ張った。 これが折れた原因だ。 喉につめないよう・・食べやすいよう・・小さく切って与える。 この女児は、前歯で咬みきることを知らなかったのだ。 これでは、口の機能が育つわけがない。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
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