TOP>コラム>地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第3回:京都府歯科医師会での奮闘~警察歯科・災害対策委員会に入ってからの6年間~

コラム

地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第3回:京都府歯科医師会での奮闘~警察歯科・災害対策委員会に入ってからの6年間~

地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第3回:京都府歯科医師会での奮闘~警察歯科・災害対策委員会に入ってからの6年間~
地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第3回:京都府歯科医師会での奮闘~警察歯科・災害対策委員会に入ってからの6年間~
約6年前、京都府歯科医師会(以下、京都府歯)から警察歯科・災害対策委員会への所属の打診を受けた際、たいした経験もなく不安ばかりではあったが即座に「Yes」の返答をした。もちろん前回まで(第1回第2回参照)に既述した、東日本大震災における歯科医療救護活動に携わったことや検視業務を間近に感じたことが大きかったことは言うまでもない。この時の経験を地元のため、地域のために役立てたいという思いが私の気持ちを前に進めた。案ずるより産むが易し、と信じて大海に飛び込むことにした。今回はここでの活動について書いてみたい。

委員会は6名で構成され、京都府歯会長からの要請により警察歯科医関係や災害分野の案件を検討する。毎月(多いときには隔週)、自院での診療後、歯科医師会館にて20時過ぎから行われ、場合によっては23時を回るまで議論が行われる。数多くの案件を記載した資料が事前にメールで送られてくるため、それを読み込んでから委員会に臨むが、慣れるまでは書かれている内容の意味もわからず、苦痛だった。

検討事項の例を少し挙げると、
・京都府警との協調について(警察歯科医の委嘱や警察内での歯科に関する講演についての検討など)
・京都府歯会員への警察歯科医関係・災害分野に関する研修会・講演会企画についての検討
・京都府や京都市との災害対策についての検討(合同避難訓練など)
・警察歯科医や法歯学に関係する学会への参加検討(発表も含む)
などがある。


警察学校にて委員会メンバーが法歯学の講義をする

たとえば、警察歯科医の研修会をしましょう、そして内容はこのように、といった詳細を委員会として結論付けて答申すると、京都府歯が最終決定を下し実施する。数年にわたって複数回同様の研修会を実施するうち、徐々に多くの歯科医師会員が警察歯科医分野の知識や技術を習得するようになった。




委員会メンバーが中心となり、擬似遺体を使用しての身元確認研修会。
講師は京都府立医大法歯学講座の先生にお願いした。

また、地震や台風などの自然災害時を想定した模擬訓練も企画し、京都府警や福岡県歯科医師会より講師を招いて講演や研修も実施した。はじめは参加者に戸惑いもあるが、地図に描かれた仮想避難所を見渡しながら話し合いを始めると、真剣な議論が各テーブルで続く。いつ来るかもわからない未来の災害に向けて、気持ちがひとつになっていく……まさに9年前の東日本大震災の時に、現地で私が実際に体感した雰囲気だ。これまで大きな災害の少ない京都府においても、こうした取り組みを繰り返すことにより、現在では参加してくださる歯科医師数も確実に増え、参加者のモチベーションが上がってきていることを肌で感じている。




自然災害時における模擬研修の様子。
京都府警や福岡県歯科医師会にも指導を続けていただくことで、参加者は確実にレベルアップしている。

そして、警察歯科医が集まる学会に参加することも多い。ここでは経験豊富な警察歯科医の発表をはじめ、各都道府県警察の検視業務活動、災害時の救護活動について新たに学び、お互いに親睦を深めることもできる。すでに起きた事件や災害時の経験を分かち合い、そしてまだ起こっていない事案にどう対処するかを考え、話し合うことが大事なのである。


岐阜で行われた警察歯科医会全国大会にて

思いがけない問題に直面した時、狼狽して体だけでなく、気持ちも内にこもらせてしまうのか否か……私の答えは「否」である。一開業医としては経験の少ない警察歯科医の世界、災害対策方面での歯科の参加。足がすくむ思いではあったが、不安はあっても逃げることなく前進を続けた。結果、京都府のため地域のため、その分野の仲間の先生たちとともに少しずつ成長できていることを実感している。すばらしい先輩にめぐり合い、よい後輩にも恵まれていると感じる。私の選択は間違っていなかったと思う。

最後に医療人として、避けられない問題についても触れておきたい。新型コロナウイルスの感染拡大は留まるところを知らず、2020年4月下旬に入る頃には国内感染者数が1万人を突破し、世界では250万人を超えている。さまざまな対策、施策を実行しながらも衰える兆しが見えない。解決の明確な糸口が見えないなか、Stay Homeで人々のストレスは溜まり、閉塞感は広がるばかりである。

ただ、いつか必ずより確実な打開策は出てくる。私自身、体はできるだけ外に出さないようにするが、反対に気持ちは途切れることなく、心は内にこもらず、アフターコロナに向けて準備を始めていきたいと思っている。日本全体、世界全体が仲間となり、必ずや次のステップに進んでいくものと信じている。助け合い、団結して力を合わせることができる人類のすばらしさを再確認できるものと期待している。
(続く)

安田歯科医院ホームページ
http://www.yasuda-dc.com

著者安田 久理人

歯科医師・博士(歯学)
安田歯科医院院長(京都市中京区)
大阪歯科大学非常勤講師
日本口腔インプラント学会専門医
日本歯周病学会認定医

略歴
  • 1998年 徳島大学歯学部卒業後、京都市内医療法人にて勤務
  • 2003年 医療法人弘成会 牧草歯科医院(京都府)にて勤務
  • 2005年 安田歯科医院開院。現在に至る
  • 京都府歯科医師会 警察歯科・災害対策委員会
  • 京都市中京歯科医師会副会長
  • 中京警察署担当 警察歯科医
  • 京都市立御池中学校 学校歯科医

開業医として、歯科医院で歯周病治療・インプラント治療を含めた一般治療に従事しながら、地域の学校歯科検診や歯科保健相談などを行う。 東日本大震災時、厚労省から歯科医師会を経て要請された歯科医療救護活動に赴いたことがきっかけとなり、警察歯科の分野に興味をもつ。 現在、所轄警察署の担当警察歯科医を委嘱され、依頼をうけた検視(歯)業務を行っている。 京都府歯科医師会の警察歯科・災害対策委員会に委員としても参加し、これからの警察歯科医(災害を含む)のあり方について模索する日々を送っている。

安田 久理人

tags

関連記事