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ウィズコロナ&
アフターコロナ時代における
歯科医院での感染予防と管理VOL1:
歯科臨床における環境設定

2020/6/5 臨床ライブラリ

2019年12月に中国・武漢で呼吸器系疾患に罹患した患者さんが急増しはじめ、日本国内ではクルーズ船内での集団感染が問題となり、瞬く間に世界中で多くの犠牲者がでるようになり、2020年3月11日にWHO(World Health Organization世界保健機関)より世界的流行であるとしてパンデミック宣言がなされました。WHOはスイス・ジュネーブに本部のある健康増進を目的とする研究機関で194の国と地域が加盟しています。医療関係者であれば、養成機関に入学した際に「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいい、・・・」と暗記なさったWHO憲章を思い浮かべる方も多いかもしれません。

「感染には感染源に直接接触することによって起きる「直接感染」(direct infection)と感染源と宿主との間に物あるいは媒介生物が介在して起きる間接感染(indirect infection)があり、感染経路には、接触感染・空気感染・飛沫感染の3つが挙げられます。「飛沫感染(droplet infection)」とは、感染源から排泄された飛沫が、直接呼吸器粘膜に到達し感染することですが 1)、「病原微生物」が存在していても、その他に「宿主」「保菌体」「入口」「出口」「感染経路」の5つの要素がつながらない限り、感染症として発症することはなく、もっとも操作しやすい感染経路を遮断することができれば重篤な問題にはなりません。

令和2年4月6日に厚生労働省医政局歯科保健課からだされた「歯科医療機関における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための院内感染対策について」という通達では、「一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 」の内容に基づき、歯科診療実施上の留意点について説明されています。その中には、処置後の歯科用ユニット周囲に対しては、細菌汚染を防止するためにラッピングや消毒薬による清拭が推奨されており、血液や唾液中の微生物を含むエアロゾルやバクテリアルエアロゾル等の汚染物飛散を低減するためには口腔外バキュームの使用が強く推奨されています 2)。歯科の臨床現場においては、初診時の3wayシリンジによるエアー乾燥・エアータービンによる歯牙切削・超音波スケーラーによる歯石除去等、飛沫によるエアロゾルやさらに微細なマイクロエアロゾルの発生が懸念され、指針に基づいて対応するためにはラッピングや清拭を実践し、口腔外バキュームを使用することになります。もちろん、汚染を最小限にとどめるためには、口腔内で使用するバキュームでできる限り効率的に吸引を行わなければならず、基本的なバキュームテクニックの習得も重要です。

今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV2)による感染症(COVID-19 corona virus disease 2019)の特徴は主に「飛沫感染」により拡大するという点にあり、そのためにマスクやフェイスシールドを用いて防御することが推奨されています。今回の病原体とされている新型コロナウイルスは、蛋白質でできた「カプシド」という殻の外側に脂質でできた「エンベロープ(envelope 封筒の意味)」という膜があり、さらにその外側に蛋白質でできた「スパイク」という棘のような突起が飛び出ています 3)。すなわち蛋白質と脂質をターゲットとして対応することが必要です。

消毒薬や個人防護具(VOL.2参照)などの医療資源が枯渇するような非常時(ウィズコロナ)と平時(アフターコロナ)では、状況に応じて、できる限りの事を実践していかなければなりません。特に歯科の診療形態の特徴として飛沫対策が求められる以上、デンタルチェアやライトなどのユニット周囲に対しては、前述の指針にあるようにラッピングまたは清拭をして環境整備を行います。平時であれば「ミクロジッド」のように界面活性剤の第4級アンモニウム塩で湿潤されたワイプ材や臨床現場で容易に入手可能な消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムで湿潤させたマイクロファイバークロス「トレシー」(以下MFC)で清拭しますが、非常時になり消毒薬が入手困難となると対応方法も変更しなければなりません。

そこで重要なことは、「科学的に考える」ということです。病原微生物がどこに存在するのかを考えれば、「飛沫由来の汚染物の中」となり、この汚染物を根こそぎ除去すれば感染リスクを低減させることができます。その際に活躍するのがMFCです。消毒薬を用いることが難しければ水道水で湿潤させます。乾燥状態よりも湿っているほうが扱いやすく、清拭表面が濡れて見えることから、拭き残しを生じにくくなります。平時でも非常時でも、清拭を行う際には、確実に汚染物を除去するために操作は「一方向でゆっくり行う」という注意が必要です。また、第4級アンモニウム塩を用いる製品を使用した後は、水道水で濡らしたペーパータオルで拭き取ります。

感染管理の目的には「コスト管理」があり、ムダムリを省いて必要なものに予算をあてます。MFCは洗浄→乾燥→滅菌という適切な処理をすることで再使用が可能です。その際には汚染物を構成している蛋白質を効率的に分解できるように、「ウルトラクレンザイム」のようなタンパク質分解酵素入り中性洗剤を使用してもみ洗いした後は、洗剤成分を十分にすすいで乾燥させてからオートクレーブで滅菌します。

アフターコロナとなっても、未知なる感染症や抗菌薬への耐性菌との戦いが予想されます。WHOやCDC(Centers for Disease Control and Prevention 米国疾病予防センター)、厚生労働省や国立感染症研究所などの研究機関から発せられる情報を収集し、医療従事者として適切にかつ柔軟に感染を予防し管理していく時代に対応していきましょう。

参考文献 1)口腔微生物学-感染と免疫-第6版 石原和幸他編著 2018年 株式会社学建書院 2)厚生労働省委託事業「歯科診療における院内感染対策に関する検証等事業」一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 2019年 厚生労働省webサイト 3)WHO_COVID-19_Coronavirus_Animation_EN 2020年 World Health Organization
近著 「よくわかる歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本