Dental Life Design

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歯科に求められている
高齢者医療を考える
VOL.2 当院の訪問歯科の
現在の取り組みと
診療時に大切にしていること

2020/7/16 デンタル〇〇デザイン

私が勤務する別府歯科医院は、福岡県福岡市の中でも若い世代の増加が著しい地域に立地しています。当院は外来診療部と訪問診療部に分かれており、それぞれ専属のスタッフを配置しています。外来診療部では、予防を軸としてエビデンスベースの歯科治療を行っており、歯内療法、補綴、口腔外科とそれぞれの専門医が在籍し、さらにGPへの指導・教育を行いながら高度な治療にも対応できる診療システムを構築しています。訪問診療部では、口腔ケアを中心に歯科治療、摂食嚥下リハビリテーション、多職種と連携してミールラウンド(食事観察)を行ったうえでの食事・栄養指導を行いながら、人生の最期のステージまで「適切な食事」をサポートする取り組みを行っています。また、小児の口腔発達不全症や高齢者の口腔機能低下症への対応も着手し始め、「Long life support with dentistry」をテーマに、シームレスな歯科医療の提供をとおして「生涯自分の口で食事を楽しむことができる口腔環境をプロデュースする」ことを医院の目標にしています。

私の所属する訪問診療部は、歯科医師15名(常勤4名、非常勤11名)、衛生士12名(常勤9名、非常勤3名)、クリーンスタッフ1名、訪問事務3名の総勢31名のスタッフで診療を行っています。毎月約600名の診察を行っていますが、比較的高齢化率が低い地域にもかかわらず毎年10%ずつ増患していて、超高齢社会を物語っているのと同時に、訪問歯科への需要・期待が社会全体として高まっていることを感じています。診療内容については前述しましたが、歯科のアウトカムは栄養そしてQOLであることを念頭に、口腔ケア―歯科治療―摂食嚥下―栄養管理を包括的なものと捉えて歯科医師・歯科衛生士が一体となって日々の診療を行っています。また外部への情報発信はきわめて重要と考えていますので、施設入居者へのレクレーションや施設スタッフへの勉強会、さらには地域ケアネットワーク会議への参加、地域での講演会など、施設や社会の輪の中で歯科の専門性や重要性を広めていく活動も行っています。



さて、ここからは私が訪問歯科診療で大切にしているマインドについてお伝えします。

高齢者の方々を診察する際には、訪問診療と外来診療は分けて考える必要があります。もちろん歯を含めた口腔機能・嚥下機能の診察だけでなく、認知症も含めた全身疾患、服用薬剤、摂食状況、本人や家族を含めた生活背景、住居施設の環境、予後など、およそ私たち世代の歯学教育ではほとんど学ばなかった要素の把握が必要で、それらを重要視しなければいけないことが多々あります。つまり、外来の診療室から飛び出した訪問診療においては、より幅広い観点で、「木を見て森を見ず」から「木も見る森も見る」という医療へのシフトチェンジが求められます。木も見る森も見るようになると、人は多様性の塊だと実感するようになります。人・家族・環境・口腔機能を含めた疾患などを考慮したうえで、周りの方が納得しながら本人がどのように幸せに最期を迎えられるか折り合いをつけながら着地する「ソフトランディング」を目指すことが訪問歯科医としての役割だと思います。それを実現するためにも医科歯科連携と歯科歯科連携は必須と考えます。



最後に、私たちが現在のような豊かな生活を送ることができるのは、戦後の復興から高度経済成長を支えてきた高齢者の方々のお陰だと思います。十分な食料もなく食べることさえ苦労された時代を過ごされた方も多くいらっしゃったでしょう。その恩に報いるためにも「長寿を享受した人々の人生の総仕上げに立ち合い、食べられる環境を提供する」という気持ちが大切であると思いますし、歯科こそがそれをかなえることのできるもっとも適した職種だと確信しています。
次回は、今社会から求められている医科歯科連携とその取り組みについてお話しさせていただこうと思います。