Dental Life Design

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歯科に求められている高齢者医療を考える
VOL.6(最終回) 高齢者歯科における
現在の問題点と今後の展望

2020/9/17 デンタル〇〇デザイン

かかりつけとして定期的に通われていた高齢者の方が、突然来院が途絶えた時に、皆さまの歯科医院ではどうされていますでしょうか。多くの歯科医院では、本人や家族に電話連絡をされるのではないかと思います。そして以下のようなやり取りがなされるのではないかと想像できます。

本人や家族:「少し体調を崩して……、よくなったら連絡してうかがいます」
受付:「それでは、体調がよくなりましたら御連絡くださいね。お大事になさってください」

はたしてこの患者さんは、体調が良くなり通院できるようになるのでしょうか?もちろん、回復し来院される方もいらっしゃると思いますが、体力が回復せずに自宅で通院困難な状態で過ごしておられたり、入院や施設に入居となっていたりする方も多くいらっしゃるのが現実です。

「体調が良くなったら来てください」は「体調がよくなるまでは来ないでください」と受けとられかねませんし、実は歯科が訪問するなど本人や家族は考えも及ばないのです。そして、来院できない方はそこで口腔管理が途切れ、次に受診する時には口腔内の状態が劣悪になっていることがほとんどです。

歯科が関わっていない、この「歯科受診空白の期間」こそが、高齢者歯科における大きな問題点ではないかと思っています。あれほどしっかり管理されていた口腔内は、あっという間に多くのプラークや舌苔が付着します。根面カリエスや歯冠・補綴物の脱離による残根状態となり、歯周病の進行による動揺歯が増加します。義歯の不適合や破損、中には義歯を紛失と、見るも無残な状態になっていきます。また、口腔機能全体が衰えることにより嚥下障害や栄養摂取量の低下がみられ、最終的には低栄養に陥ってしまう方もおられるのです。

このように、空白の期間が長ければ長いほど状態が悪くなるため、われわれ歯科医師は、なんとかこの期間をつくらない、もしくは最小限にとどめる努力をしなくてはいけません。そして、ここで大切なことは「つなぐ」という意識をもつことです。
たとえば「体調を崩されたのですね。お口の健康を保つために、お家にうかがい診察することも可能ですので、いつでもお気軽に御連絡ください」といった一言を添えたり、定期的に電話で現状をうかがったり、口腔体操などの情報と一緒に、訪問歯科診療の情報を組み込んだパンフレットを作成し、訪問歯科診療の存在を認知してもらうなど、医院単位で「つなぐ」ことができます。訪問歯科診療を行っていない医院については、地域の訪問歯科診療を行っている医院に引き継ぎ、患者さんを「つなぐ」ことができます。また、地域単位では、担当者会議や地域の勉強会などで歯科の定期受診の重要性を広めることが重要です。なぜなら、今の時代においても歯科受診は、症状があるときのみが必要とされ、定期受診の重要性について医療介護従事者に理解がいきわたっていないのが実情だからです。
したがって、定期受診の重要性について理解していただくことにより、かかりつけ歯科医をもたない方においても、他職種から「つなぐ」ことができれば、「歯科受診空白の期間」の短縮につながります。他にも手段としてはまだまだあると思いますが、いずれにしても「つなぎ」をしっかり意識し、人生100年時代における一生涯のかかりつけ歯科医としての役割を果たしていただきたいと思います。
さて、本連載も今回で最後となりますが、これから日本は今後20年かけて高齢者が増加し、世界でも未知の領域に突入していきます。歯科は多くの全身疾患や認知症、フレイル、低栄養、健康寿命などとの関与がこれまで明らかになっていますが、今後さらに多くの研究がなされ、歯科医療のすばらしさが広がっていくでしょう。歯科は、医療全体の中では小さな領域かもしれませんが、間違いなくブルーオーシャンでしょうし、それに対して歯科業界全体が力を合わせれば、この日本の高齢者の健康を輝かせることができるすばらしい領域になり得ると信じています。 本連載が、皆さまの高齢者歯科臨床の引き出しの一つとなり、それが高齢者の幸せにつながれば幸いです(了)。