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スウェーデンの予防歯科事情

スウェーデンの予防歯科事情
スウェーデンの予防歯科事情
ノーベル賞の国、スウェーデンは歯科分野においても新しい技術や製品を生み出してきました。特に、予防歯科の分野で、長い間世界を牽引していて、早くから予防歯科に従事する職業として確立した、歯科衛生士とデンタルナースの功績によるところが大きいです。

小児は国が責任を持ち、成人は自己責任という発想

スウェーデンは北欧の中にある国で、日本よりやや広い面積でありながら、人口は日本の10分の1にも満たない約1,000万人です。気候は厳しく、そのためか、福祉、医療、セーフティーネットが充実していて、国民全員が厳しい冬を越えられるよう国が守るという発想が根底にあるのだと思います。しかし、その分、税金が高いことで有名です。 歯科医療については、22歳まで(2019年に23歳まで引き上げ)、矯正を含めて全額無料で行われます。その年齢を超えた成人については、患者さんの負担額は約7割になりますので、日本の保険制度において患者負担が3割というのに比べると、かなりの負担ですが、小児の間にしっかりと予防を根付かせ、成人になってからは自己責任という考え方です。

予防歯科の主役は、歯科衛生士とデンタルナース

予防のために歯科医院に通う人は、小児ではほぼ100%、成人では約80%です。メインテナンスの担い手は、歯科衛生士とデンタルナースです。歯科衛生士の業務範囲は日本と比べてかなり広く、日本の歯科医師とオーバラップする範囲もあります。例えば、う蝕と歯周病の検査・診断、X線写真撮影が可能で、研修を受ければ、浸潤麻酔や伝達麻酔、う蝕病変の除去も許可されています。歯科衛生士が独立開業することも可能です。 デンタルナースは、日本の歯科助手に少し似ていますが、もっと予防に特化していて、歯科衛生士が主に歯周病予防に従事するのに対し、デンタルナースはう蝕予防に関わることが多いです。

スウェーデンの歯科医院の主な特徴

スウェーデンの歯科医院は、大きく公立歯科医院(写真1,2)と私立歯科医院(写真3)に分かれます。 写真1 スウェーデンのある公立歯科医院の外観 写真2 スウェーデンのある公立歯科医院の事務所 写真3 スウェーデンのある私立歯科医院の外観 両者の割合は、都会では、だいたい半々くらい、地方では、公立歯科医院がほとんどです。公立歯科医院で働く歯科スタッフは、日本の国立大学歯学部病院に働くスタッフのように、準公務員扱いです。私立歯科医院は、日本の一般的な開業歯科医院のような形態ですが、組織化して規模が大きくなり、だんだんと公立歯科医院との差がなくなりつつあるそうです。 どちらのタイプの歯科医院でも、清掃・消毒・滅菌が徹底されています。ある私立歯科医院では、患者さんが入ったらすぐに滅菌室が見えるよう、待合室の前に設置する設計でした(写真4)。日本では、滅菌室は患者さんの目に見えないところに置かれることが普通ですが、清潔にしていることをアピールするために、敢えて滅菌室を見せているそうです。 写真4 スウェーデンのある私立歯科医院の滅菌室

予防先進国スウェーデンの課題

スウェーデンの歯科医療制度は1974年にガラリと変わりました。その当時は世界で最もう蝕の多い国の一つだったのですが、治療中心から予防中心に制度を変換させ、今では世界で最もう蝕と歯周病をコントロールしている国の一つになりました。現在、予防中心になってから生まれた人が大部分を占め、若い人の補綴は、かなり少なくなりました。 高齢者の残存歯数も増え続け、80歳の平均残存歯数は21本を超えています。インプラントも保険の中に入っているので、義歯を見ることは、ほとんどありません。しかし、高齢者で、治療中心の制度が敷かれている時に施された補綴物のやり直しが大きな課題です。どれだけ予防をしても、一度修復された歯は、一生、それをやり直し続ける必要があることがわかります。そして、全身疾患を患っている人への治療が複雑化し、特に、介護施設に入っている人たちの根面う蝕の予防と治療などが課題になっているようです。

日本の歯科衛生士さんへメッセージ

ライフワークとして、スウェーデンの歯科衛生士さんをモデルに 日本の歯科衛生士事情を調べたスウェーデンの歯科関係者から、日本の歯科衛生士数がかなり多いのに、約半分が勤務していないということに驚かれます。スウェーデンでは、定年まで歯科衛生士を続けることが普通だからです。背景には、スウェーデンでは夫婦共働きでないと、家族が豊かに生活していくことが難しく、その分、有給の育児休暇が両親に確保され、保育所も充実していることがあるでしょう。日本でも、人口減少による労働力不足のために、女性の潜在的労働力を活用しようとする傾向にあり、これからは、歯科衛生士という仕事も一生の仕事としてみなされるようになるのではないでしょうか。 60歳を超えても歯科衛生士の仕事を続けていくために、スウェーデンの歯科衛生士さんたちは、良いモデルになると思います。彼女(彼)たちは、生涯教育を欠かさず、新しい知識を臨床に応用し続けています。そして、何よりも「体が資本」なので、長年に渡る勤務を可能にするために、無理な姿勢を取らないようにしています(写真5)。 写真5 スウェーデン・マルメ大学歯科衛生士学校教官の鹿児島大学での実習風景 これから、日本人の予防歯科への期待が高まり、残存歯数が増えるに連れ、ますます必要とされる仕事なので、自分の身体の”メインテナンス”にも十分に気をつけてください。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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