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2021年4月のピックアップ書籍

2021/3/30 歯科NEWS

患者の語りのなかから解決策を探るナラティブベースドアプローチを!
『歯列不正・不正咬合の患者が来院したら補綴的処置の選択基準と矯正治療介入のタイミング』

著者の1人である山影俊一先生は日本顎咬合学会のプログラムチェアマンの経歴があり、咬合治療における卓越したインテリジェンスとテクニックを兼ね備えた臨床家である。2013年に上梓された『補綴力を高める』(クインテッセンス出版刊)は、本格的な補綴治療をめざしている若手の歯科医師のみならず、ベテランの歯科医師にも興味をもって読まれている。 このたび、上梓された『歯列不正・不正咬合の患者が来院したら』は、矯正治療を専門とされている奥様の山影章子先生とのコラボレーションによるものであり、包括的な治療が施された長期経過の16症例をもとに、補綴処置の選択基準と矯正治療のタイミングについて論考された内容となっている。エンドやペリオへの対応もすばらしく、医院の総合力の高さが伝わってくる。 本書において特筆すべきことは、患者の語りのなかから解決策を探るナラティブベースドアプローチをエビデンスベースドアプローチと同等に考えていることである。日常臨床において、術者の考える治療方針と患者の要望が合致しないことはよくあることである。時間をかけて患者と話し合いを重ねていく過程で治療方針を決定することができれば、患者との信頼関係が確立され、術後のQOLの向上につながるものと考えられる。 本書では歯列不正や不正咬合の改善を3つに分けてアプローチしている。1つ目は永久歯列完成前後の症例で補綴治療は原則必要とせず、必要に応じて矯正医が矯正治療を行うことになる。2つ目は永久歯列完成前後の症例ではあるが、歯の先天性欠如や過剰歯などの先天的な疾患が加わる場合で補足的に補綴治療を必要とする。3つ目は主に成人の症例で多数歯に修復補綴治療が施されている、あるいは欠損が存在する場合である。骨格的な要素が強い歯列不正や不正咬合の場合は、外科的治療もオプションに加わる。症例ごとにディスカッションの項目があり、そこには臨床家にとって珠玉のヒントが散りばめられている。また、主要な参考文献が整理され、詳しく解説されていることもありがたい。 現代社会では早急に答えをだすことが求められる。この能力はポジティブケイパビリティと呼ばれ、歯科臨床においても、患者の情報をもとに敏速に診断し、適切な処置を施すことが至上命令とされ、学生の頃からこの能力を磨くように教育されてきた。しかし、患者によっては速やかな対応が難しく、時間をかけて共感しながら、治療を進めていくことが必要となることもある。答えのでない事態に出会ったとき、拙速に何とかしようとせず、そこに留まって耐えていく力、いわゆるネガティブケイパビリティが要求される。小説家や芸術家はこの能力に長けているといわれているが、歯科医師にとっても大切な要素ではなかろうか。そんなことを気づかせてくれる1冊である。 評者:岩谷眞一 (宮城県/岩谷歯科医院) 山影俊一/山影章子・著 クインテッセンス出版 問合先 :03‐5842‐2272(営業部) 定価:12,100円(本体11,000円+税10%)・172頁

うまくまとまった、濃い内容のすばらしい本
別冊QDI『OJのスペシャリストたちがおくるインプラント基本の「き」』

基本の「き」、今さら聞けないと表紙に書いてある。186頁の誌面は写真や図も半分以上と豊富であり、インプラント治療の入門書だと思い読み始めた。もちろん初心者向けの書籍であるが、かなり高度で専門的な内容も含まれており、それらも非常にわかりやすくまとめられていると感心した。評者も知らなかったことや、重要で役に立つ内容も多く掲載されている。これらを超一流の歯科医師が、各章にまんべんなく執筆されている。 まず、インプラント基本編として以下の11のチャプター「①インプラントの基礎知識、②コンサルテーション、③全身と局所の検査・診断、④治療計画と埋入シミュレーション、⑤術前準備、⑥手術の基本、⑦抜歯前後のマネジメント、⑧補綴のマネジメント、⑨術後のメインテナンス、⑩インプラント周囲炎の治療、⑪術後トラブルへの対応」がある。各チャプターを2名以上の歯科医師が担当し、偏った内容もなくさまざまなことが網羅されている。 つぎに、アドバンス編として2つのチャプター「⑫硬組織のマネジメント、⑬軟組織のマネジメント」がある。これも、各分野で第一人者の歯科医師が濃い内容を執筆している。わかりやすい症例写真や図で解説されており、大変興味深い。 「まえがき」では当時のOJ会長の石川知弘先生から「通常の歯科治療と異なるトレーニングが必要なインプラント治療は、今の若手医師に敬遠される傾向にあるが、諸外国に比べ、国内ではインプラント治療を受けた患者の割合がまだまだ低いことから潜在的な需要は高い」とある。また、OJファウンダーの小宮山彌太郎先生の「簡単なインプラント治療はない」という言葉のとおり、「たとえ1歯欠損修復のインプラント治療にも落とし穴が潜んでおり、考慮すべきことは多岐にわたる。そして、基本をわかりやすく解説することもまた簡単ではない」とある。 さらに、「あとがき」では当時のOJ副会長である瀧野裕行先生は「本書がインプラント治療を始めるきっかけとなり、悩んだときに立ち返る場所として、また経験を積んだ後には何らかの臨床のヒントが得られるようなものとなって、読者の先生方に末永く愛用いただければ幸いである」と書かれている。現OJ副会長の松島正和先生も「2000年初頭は、スタディグループや使用するインプラントシステムの違いから相互の連携が不十分で、お互いの知識や技術、包括的なディスカッションの場所がありませんでした。それらの垣根を越えて新しい形のスタディグループとして発足したのがOJでした。OJが発足して約20年が経ちます。しかしインプラント治療に取り組むわれわれの熱い心は少しも変わっていません」と書き、OJ初代会長の評者にとっても感慨深い。 その熱い心から、多くの執筆陣も心動かされて寄稿されたことであろう。この書籍が読者の価値あるもの、座右の書になると確信している。 評者:岡田隆夫 (大阪府・大阪インプラント) 石川知弘/瀧野裕行・監修 Osseointegration Study Club of Japan・著 クインテッセンス出版 問合先 :03‐5842‐2272(営業部) 定価本体:7,040円(本体6,400円+税10%)・184頁

日頃の診断に対する見直しや学び直しに大いに役立つ
『見逃しケースのなぜを解く! 歯科診断スキルアップ実践ガイド』

本書は口腔診断力を磨く絶好の良書である。われわれが携わる歯科臨床は、いうまでもなくこれまでの幾多の経験をもとに進められる。しかしこれまで経験をしたことのない症例に遭遇したときや、なかなか治療後の成果が得られない、つまり症状の軽減や治癒が得られないことで強いストレスを感じるときがある。そのようなとき、われわれはまず手元にあるテキストブックのなかに答えを見出そうと行動するが、それはあくまでテキストブックであって、一般的に通り一遍のことしか記載されていない。こんなとき、先人が苦労して手繰り寄せた答えを系統立てて整理した指南書があったらどんなによいかと感じる。本書はまさにこの指南書にあたると思って間違いない。むしろ臨床上の壁にぶつかって開くのではなく、予防的に読み込んでいくことを推奨する。 さて本書は2章で構成されており、Ⅰ章では口腔の診査・診断における確認事項を、Ⅱ章ではさまざまなケースをとおして診断力が身につくように実践的スキルを習得するうえでの傾向と対策が見事にまとめ上げられている。とくに興味深いのは、初期診断から追加の情報・所見を集め、ステップごとに紐解くように確定診断に至る論理的な構成になっている点は、これまでほとんど書物のなかで手に取った経験がなく必見である。具体的には東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科総合診療部で診断を下した5,129症例を詳細に分析するなかで、主訴・口腔所見・検査間に矛盾が生じた組み合わせ19ケースを取り上げ、介入と考察を加えてどのような最終的な診断に至ったかを示すことで、多くの学びをわれわれに提供してくれる。 評者がなるほどとうなずいたのは、本書のなかで象牙質知覚過敏という診断から歯の破折という診断に至ったケースである。評者が経験したなかで冷水による凍みを主訴に来院した患者に対し、大きなう窩もないので当初単純な知覚過敏かと思い「すぐに楽になりますよ」と知覚過敏処置をしたにもかかわらず次回来院時に冷水痛はより強くなり、咬合痛が出始めたというケースがあった。エックス線上、痛みの原因を示唆する所見も認められず、考え抜いたすえ「もしかして歯の破折が原因ではないか」と見方を変えたら、症状と診断が一致した。本書のなかで取り上げている内容が手に取るように理解できる。診断には発想の柔軟性が大切である。このほか、歯根膜の炎症由来の痛みが実は帯状疱疹であったケースなどは、一度本書で読み込んでおくと臨床の現場にすぐに活かせる。 本書は編著者の荒木孝二先生が「刊行にあたって」で述べられているように、卒直後の臨床研修医や若手の歯科医師はもちろんのこと、ベテランの歯科医師にとっても日頃の診断に対する見直しや学び直しに大いに役立つものと確信する。自信をもって推薦したい。 評者:米山武義 (静岡県・米山歯科クリニック) 礪波健一/則武加奈子/梅森 幸/新田 浩/ 小田 茂/荒木孝二・編著 クインテッセンス出版 問合先 :03‐5842‐2272(営業部) 定価:7,480円(本体6,800円+税10%)・136頁

若手歯科医師だけでなく、学部学生にも読んでもらいたい高齢者義歯臨床の入門書
『スズキヒロキの食べるにこだわる高齢者義歯読本』

評者が鈴木先生を知るようになったのは、確かFacebookがきっかけではなかっただろうか。彼の精力的な活動をみていて、病院歯科という大変なフィールドで、こんなに真剣に高齢者の義歯臨床に取り組まれている先生がいらっしゃるのか!と興味をもったのが第一印象である。その後、彼は評者が元来仲良くさせていただいている先生が多く所属している九州大学の義歯補綴科に、社会人大学院生として入局し、高齢者の舌圧に関する研究を始めたと聞き、とても驚いたが、何と先日クインテッセンス出版から高齢者の義歯臨床に関する単著を執筆したと聞いてさらに驚いた。ものすごいスピードで多くの難行に挑戦し続ける彼のバイタリティは一体どこから来るのだろうか???その答は本書のなかにあるように思う。 「高齢者の義歯は食べるためのもの」、「とにかく今,食べる機能を取り戻すこと」など、高齢者にとって口腔機能をいかに早期に改善するかを重要視していることがわかる。そして徹底的に“食べやすい義歯をつくること”を実践することによって、多くの患者から感謝の言葉を受けていることが本書に記されている。自分が一生懸命試行錯誤して製作した義歯によって、患者が硬い煎餅を前歯を使いながら噛むことができ、心から喜んでもらえると、それまでの多くの苦労が報われた気持ちとなるのは、まさに義歯臨床の醍醐味ではないだろうか。そんな醍醐味の一端を本書からは感じ取ることができ、それこそが鈴木先生の原動力のひとつとなっているように読み取れる。 なお、本書にはとても大きなイラストが多く採用されていることや、短めの読みやすいトピックが、細かく分けられて各チャプターに散りばめられ、その順番も工夫されていることから、飽きることなく一気に読むことができる。文章も小難しい専門用語が少なく、平易な言葉で語られている点も若手歯科医師にとって読みやすいのではないだろうか。 とくに評者が本書を多くの若手歯科医師や卒前の学部学生にも読んでいただきたい内容は、「義歯を外すのも歯科医師の仕事」、「義歯の終活」という項目である。いうまでもなく、われわれ人間は生まれてきたからには、必ず老い、口腔機能は低下し、いずれ死を迎える。「適切な義歯を入れていれば、死ぬまで絶対に口から食べられる」と思うかもしれないが、残念ながら現実はそうではなく、義歯の製作や装着を諦めなければならない場合もある。そして、その判断を下すのも歯科医師の重要な仕事のひとつであると記されている。この厳しくも、大切な事実をなるべく早い段階で学んでおくことは、これからの超高齢社会における歯科医療にとって重要だと考えられる。 まさに、「若手歯科医師だけでなく、学部学生にもぜひ読んでもらいたい高齢者義歯臨床の入門書」ではないだろうか。 評者:松田謙一 (大阪府・HILIFE DENTURE ACADEMY) 鈴木宏樹・著 クインテッセンス出版 問合先 :03‐5842‐2272(営業部) 定価:6,930円(本体6,300円+税10%)・112頁