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砂糖の害を論じる学会でお菓子が出るのはなぜ?

砂糖の害を論じる学会でお菓子が出るのはなぜ?
砂糖の害を論じる学会でお菓子が出るのはなぜ?
2016年9月、ハンガリーの首都プタペストで行われた The European Association of Dental Public Health の学会に行きました。そこで、私はカリオロジーの小セミナーに参加してみました。トピックは糖類のことでした。2015年にWHO(世界保健機関)が糖類摂取ガイドラインを出してからというもの、カリオロジー界ではこの話題がよく取り上げられていました。
Guideline: sugars intake for adults and children
https://www.who.int/publications/i/item/9789241549028


世界一美しいと言われているハンガリーの国会議事堂

糖類に関してPhDプロジェクトを進めているイギリスの大学院生が演者の中のキーパーソンでした。あるトピックについて、世界でもっとも詳しい人はPhD学生であるというのは一般的で、彼女の講演も質疑応答も素晴らしかったです。後の懇親会で、私はたまたま彼女の隣に座りましたが、砂糖の入った甘い物は食べていませんでした。周囲の参加者が目を丸くして、恋しくないのか、と聞いていましたが、笑顔で「全然」とのこと。

可笑しかったのが、その懇親会でも、セミナー中の休憩時間にも、私たちの前には山のような甘いお菓子が並べられていました。糖類の害をさんざん学んだ参加者たちが、「見てよ、これ」と、茶化しながらも、自分のお皿に甘い甘いスイーツを取っていました。かくいう私も。おそらく、砂糖の誘惑に負けなかったのは、あのPhD学生だけだったでしょう。


砂糖の害についての小セミナーの休憩時間

なぜこういう現象が起きるのでしょうか。それは糖類の中毒性にあります。一説によると、喫煙くらい断つのが難しいとのことです。歯周病の主なリスクファクターが喫煙だと明らかになった頃、ある学会で「喫煙は脳の病気だ」と言った演者がいました。現代人の糖類の過剰摂取も「脳の病気」かもしれません。

ちなみに、このWHO糖類摂取ガイドラインで総エネルギー量を一般的な成人の2,000カロリーとして換算すると、1日あたり25g未満です。これには砂糖の他にも、蜂蜜・シロップ・果汁・濃縮果汁中に天然に存在しているものも含みます。アイスクリーム1個でアウトです。根本的に発想を変えなければ、中毒になってしまっている大人たちには守るのは無理でしょう。

スウェーデンでは、今、知識階級の子どもたちは赤ちゃんから、極力砂糖を摂らないように気を遣っているようです。まだ中毒になっていない赤ちゃんから予防するというわけですね。今はまだ、知識のある親に限られていますが。かつてアルコール中毒が問題になった時、平日には飲酒しないという習慣が社会全体に定着しましたので、砂糖についても同じように行動変容が普及するかもしれません。砂糖の消費量が一人あたり一年間あたり15キログラムを切ると、齲蝕の有病率がガクッと減るそうですから、もし、WHOの糖類摂取ガイドラインが守られるようになると、齲蝕の減少傾向はさらに拍車がかかるでしょう。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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