Dental Life Design

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むし歯の少ない町の歯科医師の日常
シーズン2:「2:7:1」

2021/11/12 デンタル〇〇デザイン

秋の夜明けは布団の重さと温もりが心地よいものだが、その朝は右脇腹の痒みで目が覚めた。シャツをたくし上げて確認すると、「虫刺され」と思われる発疹が3個並んでいた。紅葉のこの時期に犯人はいったい何だろうと、ブツブツと言いながら、夏の間手放せなかった痒み止め薬に手を伸ばした。

その日の昼休み、リクライニングチェアーに腰を下ろし、テレビは消音にして新聞を捲り、興味のある記事を探していた。ネット社会とはいうものの、指と目に馴染んだ新聞紙の感覚からはいまだに離れられない。その時ふと目を肘置きに移すと、全力疾走するアリを発見した。

どうやら今朝の痒みをつくり出した犯人はこれらしい。そういえば新聞が届く屋外の郵便受けの側面には、数日前からアリの行列がある。そして取り出した新聞を小脇に抱える私の習慣も、アリを招き入れる要因の一つだったと結論づけた。走る一匹のアリを透明の小さな容器に追い込み、しばらく観察することにした。

アリの種類は何か。「スマートフォンのカメラを向けるだけで昆虫の名前がわかるアプリがあるそうだが、このアリの標準和名までは判別できないだろう」というのはうがった見方だ。なにしろ世界には1万種以上のアリがいて、日本にも280種以上のアリがいるらしい。結局このアリはルリアリのメスということがわかり納得した。

屋外で足元を見れば簡単に見つかる身近な昆虫であるはずなのに、働きアリがすべてメスであることを知っている人にほとんど出会ったことがない。しかしアリに魅了されている昆虫学者はたくさんいる。

巣を共有する集団で社会生活を営み、しかも高度な分業制をとり、組織的に動くための情報交換を化学物質で行っている。しかも植物や昆虫との共生も得意である。受精卵は必ずメスになり、受精しなかった無受精卵は必ずオスになるという仕組みを利用し、状況に応じて産み分けもするらしい。巣の中には「女王アリ」がいて、そして巣の中に餌を運んでいるいつも私たちが目にする働きアリもまたメスである。

アリを見ると必ず「働きアリの法則(2:6:2の法則)」が頭に浮かぶ。働きアリのうちよく働いているアリは2割、普通には働いているアリは6割、働かない(働いていないように見える)アリが2割いて、何かの操作を加えそのバランスを崩してみても、その比率はまた2:6:2に分かれていくというものだ。働かないアリは、いざという時に即座に活動できるようエネルギーを蓄えているのだという説もある。「働かないで待機」ということは、高度に分化の進んだアリの社会安定のためには立派な役割なのかもしれないが、人間社会ではなかなかそうはいかない。

きっと「よく働く」に属するアリだろうと、ケースを持ち上げ眺めていると、テレビの画面に産婦人科医・高尾美穂さんが映し出されたので消音を解除した。その時彼女は、カール・ロジャースの「2:7:1の法則」について説明を始めた。途端に私の頭の中に浮かんでいた「2:6:2」という数字は「2:7:1」に置き換わった。

実は私も数年前に人間関係を表すこの法則を知り、悩みから解放された一人である。その法則は自分の周辺に10人がいるとすると、2人は気の合う人で自分の考え方や行動について無条件で賛成してくれる肯定的な人、7人はどちらでもない人、すなわちその時々で変わる人、1人は何をしてもどんなことをしても自分のことを嫌ったり、気が合わなかったりする人というものである。出会う人の10人のうち1人くらいは相性が悪い人で、嫌われてもそれが普通と考えられるようになった。割り切ってしまえば、人間関係はずいぶん楽になる。

私たちは診療所で多くの人たちを迎えることになる。時間という篩と診療所に関する情報拡散によって、最後の「1」に属する人々の割合はかなり減少するもの「0(ゼロ)」になることはない。アリの社会ではどうなんだろうと、ふと考えたりもした。

さて「2:7:1」の数字を見て、一瞬でも象牙質を浮かべたあなたは、歯科医療従事者として優秀な可能性は高い。だが、状況によっては周囲からはマニアックといわれる可能性もなくもない。私たちは20%が有機物、70%が無機質、10%が水分であるこの硬組織を前に、日々格闘しているのである。