さあ、この「新バイブル」を手に,今から開業準備を始めよう!
『一度読めばわかる! 1億円歯科医院の作り方 開業編』
全国に6万8千件ある歯科医院のうち、どれほどの医院が「成功している」といえるだろうか。無論、売上だけが医院の質、価値、社会貢献度を表しているわけではないが、よく挙がる数字に「年商1億円」という基準がある。その基準を満たしている医院は日本全国に5%程度といわれている。では、どうしたら年商1億円を上げられるのだろうか?
本書は、開業前の若手歯科医師を対象としているが、開業後の院長、勤務医にも応用できる具体的なポイントがまとめられている。はじめから年商1億円をめざすために、医院の開業地、求人、スタディグループ、診療システム、機器、借入金融機関などあらゆる角度から考察がなされ、読者が自分の条件に合わせて選択を行うことで、自分の1億円歯科医院が作れるようになる。
著者らは、10年も前から「1億円歯科医院の作り方」というセミナーを開催し、多くの1億円歯科医院を生み出している。長年の経験からくるノウハウはぜひ真似したいことばかりで、すぐに飛びつきたくなるが、評者としてはとくに前半3つのCHAPTERが重要であると感じた。
「開業前から明確な目標数値を把握しよう」「開業前に身につけておきたいスキル」「なぜ,開業するのか?─開業地の選び方と、院長への告白─」の3つのCHAPTERは、開業云々以前に院長の人としての要素の重要性が語られており、開業を人生に置き換えながら読んでいただきたい内容が多く含まれている。目先の利益を気にし、何かに急かされ、つい蔑ろにしてしまうような重要なことがまとめられており、本書中に登場する「心の歯周病」とは言い得て妙であった。
後半の「求人を制する者は開業を制する?」「1億円歯科医院のシステム構築」「1億円歯科医院での機器、内外装の選び方」「1億円歯科医院のさまざまな選択」の4つのCHAPTERでは、売上げを伸ばすための実践的な内容が紹介されている。キーワードは「開業前から」。本書を通して、開業準備には院長自身が重要な要素であると感じた。
「心の歯周病」にならないよう、己の刃を研ぎ続ける必要があることを再確認できた。
すべての歯科医師に経営の目は必要だと思う。なぜなら、経営には、治療計画の組立て、家庭,趣味など、何事においても人生を豊かにする共通のポイントがあると感じるからである。そのエッセンスが散りばめられた本書を、ぜひすべての歯科医師に読んでいただきたい。『開業編』につづき、『経営編』の刊行も予定されているようで非常に楽しみである。それまでに評者も着々と「1億円歯科医院」開業へ今できる準備をしていきたい。
今すぐできる最高の自己投資として、人生を豊かにする経営の目を育てはじめる。著者陣の長年の実績に裏付けられた「開業の新バイブル」を手にし、ともに1億円歯科医院を作りませんか?
評者:小野里 優
(群馬県・明治歯科診療所)
田中健久/今井健二・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:4,950円(本体4,500円+税10%)・108頁
口腔粘膜疾患に悩んでいるすべての方がたに読んでもらいたい1冊!
『常在菌との共存を考慮した 口腔粘膜疾患の診断・治療・管理』
読了後、この書籍はありきたりの口腔粘膜疾患の本ではないと感じた。日常臨床において口腔粘膜疾患の悩みにしっかりと答えてくれる内容であることは間違いないが、それだけに留まらず超高齢社会のなかで歯科医療を行うわれわれのあり方についても考えさせられたからだ。
著者の山城崇裕先生は、2000年に九州大学歯学部を卒業後、九州大学病院顔面口腔外科を中心に、約14年間にわたり病院歯科口腔外科での研鑽を重ね、2016年にやましろ歯科口腔外科(福岡県福津市)を開業されている。口腔外科専門医として口腔外科を標榜していることもあり、口腔外科分野の悩みを抱えた患者が多く訪れる歯科医院である。地域の歯科医院からの信頼も厚く、口腔外科関連の紹介患者が後を絶たない状態であり、地域を支える歯科医院でありながら1.5次医療機関さながらの役割も果たしている。
本書はその状況を物語るかのように、単著でありながら数多くの症例写真によって口腔粘膜疾患が解説されている。典型的な口腔粘膜疾患から稀な症例までが多数供覧されており、評者が実際に悩んでいた口腔粘膜疾患がちょうど掲載されていて、さっそく役に立った。
本書の1つの特徴は、タイトルにもあるように常在菌との共存を意識する大切さを強く訴え、診断や治療だけでなく管理するという視点で書かれている点である。ここが他書と大きく異なる部分であると感じた。治療のためとはいえ、安易な抗菌薬長期服用・ステロイド長期服用などによって、今まで保たれていた口腔内常在菌のバランスが容易に崩れてしまい、日和見感染や新たな感染を起こすことにつながる。そのため、医療者側にはそれを発生させないための努力が必要であり、その対応策や工夫も示されている。また、著者は急性期病院への訪問診療を行っており、その際の口腔ケア症例も提示している。口腔ケアにおいても口腔内常在菌のバランスを考慮して管理することで、患者がより良い人生の最期を送れるようにとの著者の姿勢は、口腔外科医専門医としてだけでなく、地域に根ざした開業歯科医として、さらには医療人としての矜持が感じられる。
もう1つの特徴は豊富なイラストである。口腔粘膜だけでなく口腔内の多くの細菌も描かれており、例えば口腔カンジダ症の場合には、口腔粘膜と細菌がどのような状態になっているのかがイラストで表現されており、そのイラストによる視覚的な情報が本書の内容をより理解しやすくしている。そして圧巻なのは、それらすべてのイラストは著者がみずから描いていることである。
今までも有意義な口腔粘膜疾患の書籍はたくさん存在しているが、読了後に大きな感動を覚えたのは個人的に本書が初めてといっても過言ではない。口腔粘膜疾患に悩んでいる歯科医師はもちろんのこと、勤務医や研修医そして歯科衛生士など多くの方がたに読んでもらいたい。
評者:鈴木宏樹
(福岡県・篠栗病院)
山城崇裕・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:8,800円(本体8,000円+税10%)・168頁
"矯正臨床のエビデンスとは何か"についても深く考えさせられる一冊
別冊ザ・クインテッセンス『臨床家のための矯正YEARBOOK 2021─成長期の叢生を考える』
叢生は多くの現代人に認められ、審美的改善やう蝕・歯周病予防などを期待して矯正治療を求める患者は多い。とくに近年では、保護者の子どもへの歯並びに対する関心の高まりのためか、子どもが有する叢生を心配して相談を希望する保護者が増加しているようだ。そのような相談に応えるべく、いわゆる早期治療として拡大装置などを使用して歯列(顎)の拡大を手がける歯科医師が多く見受けられる。早期に歯列(顎)の拡大を試みる歯科医師の中には、将来的に抜歯による矯正治療を回避することを期待する者もいる。
一方、早期の段階でのアプローチに懐疑的な歯科医師もいる。このような現状があるためか「数軒の歯科医院に矯正相談に行ったが、それぞれの先生から違うことを言われ、どうしたらよいかわからなくなった」と戸惑っている保護者に遭遇することがある。早期治療での叢生への対応の違いが生じる理由は、叢生のみならず上顎前突や反対咬合への対応についても言えることであるが、未だそれら不正咬合に対応する治療指針の拠り所となる確固たるエビデンスがないためである。
巻頭トピックスにおいて、東京医科歯科大学名誉教授の黒田敬之氏が述べられているように、現状ではわれわれ歯科医師は矯正臨床において、診断、治療方針、治療術式の科学的根拠を探ることなく、経験豊富で、腕の立つ上手な先達の指導・助言に従って治療を進めているのであろう。
第Ⅰ部では著名なスタディーグループで活躍されている先生がたが症例を提示し、その先生がたの矯正治療における理念を述べるスタイルをとっている。先生がたの症例は周到な診断・治療計画のもと、良好な治療結果が得られており、学ぶべきものが多い。しかしながら、それぞれのスタディーグループ間での症例に対するアプローチの仕方は異なっており、成長期の早い段階で治療介入を試みるグループもあれば、そうでないグループもある。また、抜歯・非抜歯に対する考え方も異なっているようだ。
このように各グループ間で治療理念や手法に違いがあることは、叢生治療に対するエビデンスが確立されていないことを示したものと言える。われわれ読者は、紹介されているスタディーグループのなかから共感する治療理念や手法に従って(模倣して)臨床を進めてゆくことは可能であろう。しかしながら、冒頭で紹介した矯正相談での歯科医師間の見解の違いに戸惑う保護者を極力つくり出さないためには、各臨床手法の治療成績のデータの蓄積・比較検討を行い、エビデンスに基づいたコンセンサスを確立する必要がある。そのプロセスは容易ではなく、時間もかかるだろうが、未来の子どもたちのために、われわれはより積極的に取り組む必要がある。
本書はタイトル通り「成長期の叢生を考える」ための良い機会となるとともに、「矯正臨床のエビデンスとは何か」についても考えさせられる好機となるであろう。
評者:加治彰彦
(東京都・半蔵門ファミリア矯正歯科医院)
クインテッセンス出版・編
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:6,600円(本体 6,000円+税10%)・186頁
若い歯科医師だけでなく多くの人の臨床に役だつパーシャルデンチャーの本
『長期症例に学ぶパーシャルデンチャー 包括的医療における設計と臨床』
中川昌樹先生よりパーシャルデンチャーの本を出版するので書評を書いてほしいと依頼の電話を受けた時、まず思ったのは「難しいトピックを選んだな」だった。
評者は補綴専門医として臨床と教育に携わっているが、パーシャルデンチャーの設計を教えるのは難しい。欠損部位、顎堤、支台歯のコンディション、咬合関係が症例により違うからだ。それゆえ中川先生はどんな本にしたのかと興味津々だった。
本書を手にし、これはすごいと感動した。平均20年以上の長期経過観察から導き出された独自の理論が多くの症例写真とともにわかりやすく説明され、パーシャルデンチャーを学ぶには最適な本に仕上がっていた。内容を簡単に解説したい。
Chapter1:パーシャルデンチャー臨床の原理、原則10ヵ条が解説され、中川式の肝となる力のコントロールの重要性が説明されている。
Chapter2:知っていなければならない各パーツの機能とデザインが解説されている。この知識なしでは設計は考えられない。
Chapter3:症例の分析と診断として、中川の歯式を用いた症例分析が提示されている。既存の分析法で統合的に分析することは煩雑であり困難である。そこで著者は咬合を加味した独自の中川の歯式を考案、力のコントロールを目的とした分析を簡便かつ明確にできるようにした。
Chapter4:欠損の診断と分類および義歯床設計。ここでは中川の8タイプの欠損補綴分類を基に義歯設計を説明。それぞれの分類における力のかかり方や特徴を解説し、設計の重要なポイントを指摘。
Chapter5:包括的義歯設計と製作のシークエンス。前Chapterで解説してきた中川式の症例分析、欠損補綴分類を基に一口腔単位で設計を考える手順を説明。実際の臨床では同じ欠損部位でも支台歯のコンディションや咬合関係で設計は異なる。力のコントロールを考慮し、症例によっては健全歯であっても積極的に連結固定を行う。インプラントを併用することもある。
Chapter6:18の難症例の長期経過を紹介。各症例において治療計画の基になった分析・診断・設計を説明し、経年的な変化を解析、評価。中川式のパーシャルデンチャー臨床理論の裏づけとしている。
現在、欠損補綴はインプラントが主流となっている。なぜなら義歯補綴で患者の満足を得ることが困難だからである。本書はこの難解な義歯補綴を長期経過を基に考案した独自の解析法・分類・設計でわかりやすく解説している。若い歯科医師だけでなく多くの方に読んで臨床に役だててほしい。読めば読むほど臨床の奥深さが伝わってくるはずである。
中川先生とは東京歯科大の同級で、評者の渡米後も交流があり、彼の治療に対する真摯な姿勢と患者への思いやりを感じていたが、この本を読みそれを強く確信した。彼の臨床が詰まったすばらしい本に賛辞を贈りたい。
評者:山本英夫
(ボストン大学歯学部大学院補綴科、YAMAMOTO&ASSOCIATES)
中川昌樹・著
クインテッセンス出版
問合先:03‐5842‐2272(営業部)
定価:13,200円(本体12,000円+税10%)・224頁