まだまだ足りない情報に定期的に触れられるアライナー矯正歯科専門誌
『JOURNAL OF ALIGNER ORTHODONTICS(JAO)日本版(2022年1号)』
アライナー矯正治療は、世界的にみてもその規模を爆発的に拡大させています。その理由は、患者さんにとって矯正装置装着にともなう煩わしさが少ないというところにあると思います。矯正歯科治療がより身近になり、「それならやってみようかな」と思われるのも理解できます。
ただしアライナー矯正治療はその歴史が浅く、知見や情報が不足しているのも事実です。書籍は存在しているものの、他分野のように定期的に新しい情報を収集できるツールがありませんでした。この現状において、『Journal of Aligner Orthodontics(JAO)日本版』は世界における最新情報と日本における現実的な治療に関する情報が同時に手に入る貴重な雑誌だと思います。
新刊の2022年volume2 issue1について述べると、前半のJAO英語版翻訳ページでは、PARインデックスを用いてアライナー矯正治療の有効性を評価したRamis M先生の学術論文、小児の将来的な抜歯を回避する目的で戦略的にアライナーを用いたHaubrich J先生の症例報告、重度ブラキシズム患者の咬合挙上後にアライナーを用いて歯列の改善を図ったMendoza BS先生の症例報告、同一プロトコルで重度過蓋咬合6症例を治療したReistenhofer B先生の症例報告、世界で初めてアライナーで埋伏犬歯の治療に成功したCouchat D先生の症例報告と、いずれも世界レベルのアライナー矯正治療の技術と知識をさまざまな角度からひも解く内容となっています。
また特に筆者が注目しているのは後半の日本版オリジナルページです。現在本邦におけるアライナー矯正歯科のトップクリニシャンの症例報告をつぶさに見ることができるのは、この誌面だけだと言い切っていいと思います。今号では日本のアライナー矯正治療の第一人者である尾島賢治先生が、矯正歯科治療の中でも難しいとされる開咬症例を難易度レベル別に6つに分類し、それぞれの詳細な治療経過を掲載しておられます。今号の前編ではレベル1~3を扱い、アライナーのステージング、治療のプロセスを症例別のプロトコルに落とし込んだ内容はすばらしく正に必読と言える内容です。
また岡野修一郎先生はAngleⅡ級2類症例の治療に遠隔管理システムを使用した症例報告を掲載されております。COVID-19の流行により注目されている遠隔管理システム下での経過観察の詳細な報告もさることながら、抜歯にともなうボーイングエフェクトに言及した内容は、多くの読者が悩んでいたであろう問題に答えるすばらしい論文でした。
さらにアライナー矯正治療に必要な基礎知識やアライナー矯正歯科の論文を読み解くキーワード(今号は矯正的歯の移動、隣接面削合、プレッシャーエリア、PARインデックス、mento-labial角について)がまとめられており、これも日本版独自のすばらしい試みです。多くのシェーマを使用し、初学者に配慮した内容には敬意を表したいと思います。
評者:原田和彦
(東京都・原田歯科クリニック)
Werner Schupp・英語版編集委員長
尾島賢治/菅原準二/佐本 博/岡藤範正/
岡野修一郎・日本版Local Advisory Board
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:4,950円(本体4,500円+税10%)・112頁
子どもの成長を支えるために歯科医師・歯科衛生士はもちろん、他職種にもぜひ勧めたい1冊!
『診察室でもぐもぐの発達を支える本子どもの成長にあわせた口と食、くせの観察・指導法』
本書の表紙には目を引くタイトルとイラストが描かれており、目にした瞬間,誰もが手に取り開いてみたくなるに違いない。監修・著者である大久保真衣先生が、食べることに関する多くの擬態語の中から「もぐもぐ」を選ばれたのはさすがである。
ところで、「口腔機能発達不全」という言葉が存在する以前から、保育園や幼稚園では「噛めない」「飲みこま(め)ない」といった口腔機能に関する問題が認識されてはいたが、当時は歯科の立場から適切な回答を提示することが難しい状況であった。私が大学を卒業した1987年に、日本の摂食嚥下分野の第一人者である金子芳洋先生(元・昭和大学歯学部教授)が『食べる機能の障害 その考え方とリハビリテーション』(医歯薬出版)という書籍を世に出されてから約35年経った現在、どの大学の歯学部でも摂食嚥下や食育の講義が行われており、開業医でも診察室で摂食嚥下に関する指導を行う環境が整った。そして、「噛めない」「飲みこま(め)ない」という問題を含めた哺乳期・離乳期・その後の「食」に関して具体的な説明を行えるようになった。今では小児に日常的にかかわる職種および保護者から、歯科医師・歯科衛生士がさまざまな場で助言を求められる機会が増えてきている。
本書は、小児の口腔機能の発達と発達不全にかかわる分野を網羅する以下の3章で構成されている。
1.この本で学ぶ前に(口腔機能発達不全症の概要,口腔機能発達不全に対するかかりつけ歯科医院の役割を伝える章)
2.口腔とその成長に関する基礎知識(口腔・のどの基本構造、歯の萌出時期と歯列、食機能の発達と成長の過程の解説)
3.口腔機能発達不全・遅延のサインに気づく・対応する(歯科や家庭で気づける口腔機能発達不全・遅延のサインと対応、訓練,指導)
ここでは解剖医、小児歯科医、矯正歯科医、管理栄養士、障害者歯科医、補綴歯科医がそれぞれの観点から小児の口腔機能の発達と発達不全について解説している。さらに豊富なイラストによる説明があり、誰でも理解しやすい内容となっている。
私たちが日常で無意識に行っている「食べる」ということの基本は離乳期に獲得され、年齢とともに発達・完成していくが、その途中でコースを外れてしまうこともある。そのようなときには、習慣化する前に早期に軌道修正することが望ましい。適切な時期に軌道修正するには、小児にかかわる頻度・時間の長い歯科以外の職種の方も適宜対応ができることが重要である。ぜひ、本書を他職種の方にも勧めていただきたい。
健康寿命の延伸のためには、正しい生活習慣が重要であるが、そのひとつである「食習慣」をわれわれ歯科医療従事者が支えていくには、乳児期から積極的にかかわる必要がある。小児の指導に困ったり不安を抱いたりしている歯科医師・歯科衛生士には本書を読み、明日からの診療にどんどん活用していただきたい。
評者:米谷敬司
(千葉県・米谷歯科医院)
大久保真衣 監修・著
山本将仁/阿部伸一/辻野啓一郎/
川口美喜子/三浦慶奈/末石研二/
大多和由美/上田貴之・著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:7,920円(本体7,200円+税10%)・160頁
この1冊を通じてもう一度インプラントに対する治療の基本に帰ってもらいたい
別冊QDI『天然歯を活かしたインプラント治療─矯正・ペリオ・自家歯牙移植との共存─オッセオインテグレイション・スタディクラブ・オブ・ジャパン19thミーティング抄録集』
OJが設立されて20年が経過した。さまざまなスタディグループが集まりインプラントに関するケースをもち寄って年次大会、ミッドウインターと年に2回のディスカッションを繰り返すこと、のべ40回のミーティングを行ってきたことにより、参加するドクターの歯科治療に対するコンセプトが整理されてきたように感じられる。
今回、『天然歯を活かしたインプラント治療─矯正・ペリオ・自家歯牙移植との共存─』というタイトルをみても、歯科治療における重要性がインプラントだけではなく包括的に口腔内を診断することにより、目の前の患者に対してどのようなオプションが必要なのかをまず考え、そのうえでインプラントをどのように使っていくのかを考えないと、歯科治療が成立しないことに多くのドクターが気づいてきたからこそ必然的にこのタイトルになったのだろう。
われわれ歯科医師の最大の目的は、いかに長期にわたって天然歯を口腔内に残すかであり、安易にインプラントだけを入れれば問題が解決するものではない。歯がなくなった原因は何なのか、治療後にどうなれば安定した状態が保たれるのかを考えて最初に資料を採得し、治療ゴールを設定して、そこにたどり着くためにはどのような治療計画を立案すればよいのか、すべての歯科におけるオプションを使って考えられる最高の状態にしたい、と多くのドクターが考えているはずである。
しかし、現実的には費用の問題、時間の問題、そして日本における保険制度の問題などで治療を行ううえでの障害となるさまざまなことが現実の臨床にはある。そのなかで患者の本当の要求がどこにあるのか、それを解決するためには何が必要なのかをしっかりとプロの歯科医師として診断を行っていくことが重要であると考える。
この本のなかでは、最初に月星光博先生による自家歯牙移植に対する考察、そして歯科治療を行う際に一番多く遭遇する歯の位置の問題(矯正)、多くの成人にみられる歯周病との関係など、現在、われわれが歯科治療を行っていくうえでインプラントをそのなかでどのように位置づけしていけばよいのか、ということを示唆してくれている。
昭和の時代の歯周補綴、平成の時代のインプラント、令和の時代のデジタルと、その時代によってつねに新しいものが登場してわれわれはそれに対応し、臨床的にどのように応用していくのかを考えつづけなければならない。今現在、日本は経済的にも歯科界としても世界のなかで遅れをとっているのが現実である。保険とか自費とかではなく、本当の意味で患者にとって適切な歯科治療を行うことが国民からの信頼を得ることにつながると考える。
OJ設立20周年という節目を迎え、若いドクターから経験豊かなドクターまでこの1冊を通じてもう一度インプラントに対する治療の基本に帰ってもらいたいと思う次第である。
評者:木原敏裕
(奈良県・木原歯科医院)
瀧野裕行・監修
松井徳雄/梅津清隆/岡田素平太/白鳥清人/寺本昌司/中川雅裕/藤波 淳・編集
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:6,380円(本体5,800円+税10%)・172頁