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医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第11回 歯科を知ると診療が変わる

医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第11回 歯科を知ると診療が変わる
医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第11回 歯科を知ると診療が変わる
医師をはじめとする医科医療者は、その教育課程で歯科口腔の知識や経験を得る機会が少ないと思います。そもそも歯科口腔および歯科口腔疾患が自分たちの守備範囲で全身疾患や全身の健康に関連しているという認識が少ないように思います。

網膜に映っていても、見えていて、さらに認識しているとは限りません。しかし、ちょっとした興味と気づきを得ると見えてくることがあります。

たとえば頭部外傷、頭痛やめまいなどの診療で欠かせない頭部CT検査(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)です。撮影する範囲と解剖学的基準面を決めるためにスカウト画像(Scout Image)を撮影します(スカウト画像を撮影せずに、外見上の基準点から撮影する方法もあります)。

頭部CT検査時の基準線には、OML:Orbitomeatal base line――眼窩外耳孔線(眼窩中心と外耳孔中心を結ぶ線)、RBL:Reid’s base line――Reid基準線/ドイツ水平線/人類学的基準線(眼窩下縁と外耳孔上縁を結ぶ線)などがあります。


写真1:以前からの頭痛と頭痛時の嘔気を主訴に受診された21歳女性の頭部CT検査時のスカウト画像。

写真1は、以前からの頭痛と頭痛時の嘔気を主訴に受診された21歳女性の頭部CT検査時に撮影されたスカウト画像です。問診にて、生活に支障のある比較的強い頭痛であること、月経周期や雨天など天候との関連が疑われ、片頭痛(Migraine)の可能性が高いと判断、アセトアミノフェンと片頭痛に効果の高いトリプタン製剤を頓服として処方しました。一度も頭部CT検査を受けたことがないということで、近隣病院放射線科へ依頼して頭部CT検査を撮影、頭蓋内に明らかな異常は認めませんでした。

そもそも、頭部CT検査時のスカウト画像を詳細に観察・読影している医師はごく少数派とお断りしておきます。もしかしたら読影対象ではないという認識の医師の方が大半かもしれません。

歯科医師・歯科衛生士がこの画像みれば、上下顎の智歯に眼がいくのではないでしょうか。この患者さんの場合、口腔内視診でも両側下顎の半埋伏智歯が確認できます。上顎は完全に埋伏していて視診では確認できません。

一般的な医科医師には、私のように口腔内視診で半埋伏智歯があるかどうか確認し、智歯抜歯歴を問診で確認する習慣はありません。

CT検査時のスカウト画像で上下顎の智歯の状況を確認。下顎半埋伏智歯が近心に傾斜し、7番に接触していることを確認したので、一度歯科(口腔外科)医師を受診して今後の対処について相談するようお勧めしました。


写真2:片頭痛で通院加療中の41歳女性の頭部CT検査時のスカウト画像。

写真2は、片頭痛で通院加療中の41歳女性の頭部CT検査時のスカウト画像です。片頭痛を繰り返すためトリプタン製剤を頻繁に服用、さらに片頭痛予防効果のあるロメリジン塩酸塩を定期服用されていました。頭痛が強いため、一度頭部CT検査をお勧めして撮影した際のものです。

この画像で、下顎水平埋伏智歯で7番に接触し圧迫していることが確認できます。CT撮影問診にて上顎の智歯抜歯後であることは確認済み。下顎の埋伏智歯は一部露出していましたので認識はしていました。

かかりつけ歯科医院でも、下顎智歯は「いつか抜歯したほうが良いですよ……」と指摘はされていたようですが、そのままとなっていました。この状態の下顎水平埋伏智歯は抜歯した方が良いこと、さらに片頭痛が改善する可能性もあることなどをご説明して、抜歯を検討いただくようお勧めしました。

その後、近隣の病院歯科・口腔外科にて両側下顎智歯を抜歯されました。抜歯後1か月くらいしてから受診された時に「最近、頭痛がないんです」とうかがいました。頓服のトリプタン製剤はほぼ使わなくなり、片頭痛予防薬のロメリジン塩酸塩は減量して中止することができました。

もちろん、現時点では、歯科口腔と片頭痛の関連については、報告はあるものの十分なエビデンスは見いだされていないかと思います。

自験例で、このほかにもTCH(Tooth Contacting Habit)がある方で、TCH是正指導により片頭痛が改善したケース、埋伏智歯を抜歯したタイミングで片頭痛が改善したケースを少なからず経験しています。

医科と歯科が十分に情報交換できれば、このようなケースに気づいていただけるかもしれません。頭痛診療において頭部CT検査をすることは日常的であり、私はスカウト画像で智歯はじめ口腔に注目することで診療が変わるのではないかと期待しています。

医科と歯科が互いの診療範囲や疾患に興味をもち、情報交換することにより、診断・治療に役立つのはもちろん、口腔の健康と全身の健康における新たなエビデンスを見出しえると確信しています。

著者細田正則

ほそだ内科クリニック 院長・医師・医学博士

略歴
  • 1964年 米国ミシガン州生まれ
  • 1990年 京都府立医科大学卒業
  •     医師免許取得
  •     京都府立医科大学第三内科(現在の消化器内科)入局
  • 1998年 京都府立医科大学大学院修了 医学博士号取得
  • 2011年 ほそだ内科クリニック 開院
所属学会・専門医など
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本消化器病学会認定消化器病専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
細田正則

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