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第9回:親知らず 年取る前に 整理しよう

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親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん
第9回:親知らず 年取る前に 整理しよう

親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん<br>第9回:親知らず 年取る前に 整理しよう
親知らず、抜くか抜かぬか、さじかげん
第9回:親知らず 年取る前に 整理しよう

抜歯の適応と、リスクとメリットのバランス

下顎の横向きの親知らずの「抜歯依頼」でいらした方に、親知らず抜歯の方法や偶発症、術後経過などをご説明していた途中で、ご質問がありました。 「この親知らずは抜かないと、前の歯の治療はできないんですか?」 "それ、どっちかというと、依頼した人に聞いてほしいんだけどな……"と思いながら、親知らずの抜歯の目的として紹介状に書いてあった、親知らずの前の歯にある親知らずが当たっている面のむし歯の治療方法についても説明しました。 結局、術後の経過がお仕事に差し障るために当面は予定をたてられないとのことでしたので、「……かくかくしかじかで、親知らずの前の歯のむし歯治療を先行していただけませんか?」という依頼の返信とともに、紹介元の歯科診療所に戻って再度相談していただくこととなりました。 時に不思議なのは、"患者さんがその気ではないのに、なんで紹介してきたのだろうか"ということと、"なんでこの患者さんは、理解もしないままわざわざ紹介状を持ってやってきたのだろうか"ということです。 まあ、きっとその時その場では、なんとなく"そっか、じゃ、病院行くか"と思ったのでしょうが、病院の予約も1カ月くらいは先になることが多いので、その間に、いろいろと考えることもあったのでしょう。 気になるので、紹介元の歯科診療所のホームページを見てみると、「できるだけ削らない、できるだけ抜かない」と書いてありました。その方針は基本ではあると思いますが、歯は抜かなきゃいいというものではないし、「できない時」には抜いた方がいいと思います。もちろん、タイミングをはかる必要性はありますが。 この方の場合は、親知らずの前の歯は既にうしろの根がむし歯で溶けてしまっていて、少なくともうしろの根は抜かざるを得ない状況と思えました。そうであれば、まず親知らずの前の歯の治療を、うしろの根はあきらめて抜いて進めて、前の根だけを小さな歯として治すことにより、親知らずとの間にスペースができて歯みがきもしやすくなり、細菌のコントロールもできて腫れなくなり、なんなら親知らずも抜きやすくなる状況となると思います。 「抜かない歯医者」をうたっていると、うしろの根を抜くという治療方針の説明はしにくいのかもしれません。でも、その時にいくつかの治療方針を提示してきちんと説明ができれば、その時点で患者さんは判断できたのではないか、とも疑いたくなってしまいます。 そして、説明の最後の定番である、「他に聞いておきたいこととかありますか?」というオープンクエスチョンに対し、「そもそも、親知らずは抜いた方がいいんですか?」という質問が! お歳の頃、50才くらい。 これから、脳梗塞になって手足が不自由になるかもしれません。その時には、歯並びが悪いところは自分で歯みがきをするのもたいへんになり、腫れやすくなるかもしれません。もしくは、心筋梗塞になるかもしれません。薬の関係で、そう簡単に抜歯ができなくなるかもしれません。 また介護を受ける日もくるでしょう。介護士さんも口腔ケアとして一生懸命歯みがきをしてくださるでしょうが、複雑な歯並びのところは、介護士さんではなかなか難しいでしょう。一生懸命やってくれるのはありがたいけど、やられる方にも負担があるかもしれません。 さらに病気にはならずとも、認知症になるかもしれません。介護を受けるのを拒否し、歯ぐきがすごく腫れて口臭もあっても、本人はそれさえも「認知」できずに介入を拒否し、気にされずに過ごされているかもしれません。 そういう方々と多々お会いしていると、もちろん、そうならないかもしれませんが、そうなったときに困らないために、若くて元気なうちに抜いておいた方がいいのではないかと思います。 ただ、過去は今さら変えられないので、いまからを考えると、「なるべく早く」という表現になります。年齢とともに、骨が硬くなって、歯がなかなか抜けなくなりますので、そういう意味においても早いうちの方が、癒着などのトラブルも減ります。 こういうこと、歯科医院で相談できて、説明してもらえたらいいのにと思ってしまいます。とはいえ、こんなことをじっくり相談しても、歯科診療所の収入は「再診料」53点と「歯科疾患管理料」100点をあわせても1,500円程度。もちろん、ここから固定経費、消耗品代、人件費、管理費その他のすべてを出すわけで、なかなかゆっくり相談はできないでしょうね……。 ともかく、必要時には、積極的に歯を抜くことを提案する歯医者さんも、いい歯医者さんかもしれません。あなただけのための、お口全体のマネジメントとしての戦略をたてて、きちんと説明してくれるなかでの抜歯の提案であれば、あながち悪くもないと思います。

著者中久木康一

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野非常勤講師

略歴
  • 1998年、東京医科歯科大学卒業。
  • 2002年、同大学院歯学研究科修了。
  • 以降、病院口腔外科や大学形成外科で研修。
  • 2009年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面外科学分野助教
  • 2021年から現職。

学生時代に休学して渡米、大学院時代にはスリランカへ短期留学。
災害歯科保健の第一人者として全国各地での災害歯科研修会の講師を務める他、野宿生活者、
在日外国人や障がい者など「医療におけるマイノリティ」への支援をボランティアで行っている。
著書に『繋ぐ~災害歯科保健医療対応への執念(分担執筆)』(クインテッセンス出版刊)がある。

中久木康一

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