筆者は、時系列的に乳歯列の変化を第1世代から第4世代に分けた。 まず第1世代は、乳前歯の被蓋の浅い“空隙歯列弓”である。 その後、第2世代として“閉鎖型歯列弓”が増加した。 さらに第2世代は、Ⅰ“下顎のみ閉鎖型歯列”からⅡ“上下顎における閉鎖型歯列”が増加した様に感じる。 また同時期にⅢ“乳前歯の近遠心幅径の増大”も気になり始めた。 これは、食生活などの外的要因の変化に基づくのだろう。 例えば、前歯部で咬み切り、引きちぎることが多い食生活は、おのずと被蓋が浅くなる。 同時に、上下前歯の切端が当たる力で、歯槽骨が添加され空隙歯列弓になりやすい。 一方、食物を小さく切って与えると、乳前歯で咬み切る必要がない。 これが、閉鎖型歯列弓の増加要因の一つと考えられる。 元来、脳頭蓋の成長は遺伝的要因が大きいが、顔面頭蓋には環境的要因が大きい。 捕食・咀嚼・嚥下に関わる運動は、顔面頭蓋の正常な発育を促すのである。 さて、閉鎖型歯列弓の増加は、嚥下圧とも関係が深い。 舌圧が口蓋の成長に影響を及ぼすためである。 我々は、歯列の内側の口蓋を見て、高口蓋の有無を判断してきた。 しかし、乳歯が萌出する前から口蓋は存在するのだ。 ヒトは、乳児期から一日に何度も嚥下を行う。 その数、1日に約600回。注1 単純に考えると、生後1年で約21万6000回、乳歯列の完成期する3歳では約65万回となる。 この力が、口蓋の成長に影響しないはずがない。 さて、小児歯科医の石田房枝先生は、赤ちゃん歯科ネットワークを設立し、 新生児期から口腔内の印象を採り、口蓋の変化について調べてこられた。注2 生後3目と3か月の上顎を見ると、口蓋が急速に大きくなるらしい。 この変化は、生後3か月までが著明であり、その後の成長に与える影響も大きいという。 続く 注1 嚥下回数:覚醒時350回、食事時200回、睡眠時50回 合計600回 Lear CSC, et al:AOB 10:83-89,1965. 注2“赤ちゃん歯科ネットワーク”ホームページ:https://www.babydnet.org/
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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