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医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第12回 「日々の健康管理はお口から」をすべての人の常識に

医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第12回 「日々の健康管理はお口から」をすべての人の常識に
医科歯科ボーダレスな診療を目指して エピソード2: 第12回 「日々の健康管理はお口から」をすべての人の常識に
巷では2022年の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)に、全国民に歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」が盛り込まれるという話が話題になっていますね。すべての人にとって口腔健康管理が重要であり、国家戦略として取り組むということが示されたと思っています。

「口腔の健康が全身の健康につながる」――。このことはおそらく歯科医療者では常識ですが、医科医療者はよく知らないことが多く、患者さんや一般の方々はもっと知らないと思っておく必要があります。

すべての人のすべてのライフ・ステージにおいて、お口の健康(オーラルヘルス)が重要ですが、心身の発達段階や老化の経過に応じて重要度の高いものは移り変わります。

乳児期・未就学児の時期であれば、産婦人科や小児科において、母乳の与え方・哺乳瓶の選び方、離乳食とその与え方などに伝えることは十分にできていない現状があります。小児科医は、乳幼児から未就学児の時期に小児に接しても、歯科的な視点からの口腔育成の知識・興味はほぼないように思います。

もちろん、一部の耳鼻咽喉科医や小児科医は、たとえば小児期のSAS(Sleep Apnea Syndrome)にも積極的にかかわっておられ、歯科医師と連携して診療されています。

口呼吸・鼻呼吸の習慣、いわゆる口腔習癖などはこの時期に形成されることが多く、上下顎骨や中顔面の骨の発育形成される時期であり、医科と歯科の医療者が連携してかかわることが重要だと思っています。

医院での診療の中で、参考図書を紹介しながら、お子さんの口腔育成についてお話しすることがしばしばありますが、興味をもたれる方が大半です。しかし、近隣の歯科医院でその分野に取り組んでおられる先生方が少ないのが現状です。

私が医師となった1990年代から現在までを振り返ると、集中治療室など人口呼吸器装着者、手術にかかわる周術期、抗がん剤使用中、摂食嚥下障害、高齢者施設や在宅医療など、さまざまな領域で医科歯科連携が進んできました。これらがますます発展していくことを期待します。

これから期待されるのが「予防」における連携で、「予防における医科歯科連携こそ医科歯科連携の本丸」だと思っています。私が伝えたいことを一言で言えば「日々の健康管理はお口から」をすべての人の常識にしたいということになります。さらに言うなら、口腔の健康(オーラルヘルス)において、「口腔衛生」・「口腔機能」・「口腔育成」の3つの視点から口腔の健康をとらえることが重要だと考えています。

末永く健康で暮らしたいという思いを実現するためには、口腔衛生と口腔機能の維持が重要であることは間違いありません。内科医師の私が、日々、口腔内をみて思うことがあります。

どうしてこんな歯列になってしまったのだろう?
どうしてこんな顎骨の形になったのだろう?
どうしてこの歯は内向きに倒れているのだろう?
どうしてこんなに歯がすり減っているのだろう?
どうしてこんなにたくさんの歯を喪失してしまったのだろう?

口をみるとたくさんの興味と疑問が湧いてくるのですが、歯科口腔への興味と疑問こそが、私の医科歯科連携への原動力です。

高齢者の口腔機能低下症が注目されていますが、日々の内科診療で10歳代から90歳代の患者さんの口をみていて、口腔機能低下は意外と早い年齢から低下しはじめているのではないかという仮説をもっています。

40歳ほどで、セルフケア不良かつ歯科受診もされない患者さんに出会いました。オーラルフレイルを超えて「口腔崩壊」に近づいているとさえ思いますし、糖尿病などの全身疾患がベースにあることも少なくないので、内科的なアプローチもしていきます。

高齢期になったらどうなるのか心配でなりません。この歯科受診していない患者さんに「口腔の健康」の価値を伝えて、歯科受診とセルフケアを促すことができるのは私たち医科医師しかいないという使命感さえ感じます。

口腔機能の維持という点からさらに重要なのは口腔育成ではないでしょうか。幼少期からの口腔機能発達不全が改善されないまま、青年期・中年期・高齢期と加齢を重ねた結果どうなるということは十分には示されていないようです。しかし、青年期までに形成された口腔が、中年期さらには高齢期の口腔へと続くことは間違いないわけであり、人の一生を見据えた歯科医療が実践されることを強く期待します。

本連載もおかげさまで12回目となりましたが、「内科医なのにそこまでやるか」と思っていただけたとすれば本望です。「『日々の健康管理はお口から』をすべての人の常識にしたい」を本願として、明日からも診療を続けてまいります。

著者細田正則

ほそだ内科クリニック 院長・医師・医学博士

略歴
  • 1964年 米国ミシガン州生まれ
  • 1990年 京都府立医科大学卒業
  •     医師免許取得
  •     京都府立医科大学第三内科(現在の消化器内科)入局
  • 1998年 京都府立医科大学大学院修了 医学博士号取得
  • 2011年 ほそだ内科クリニック 開院
所属学会・専門医など
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本消化器病学会認定消化器病専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
細田正則

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