リグロスとサイトランスを用いた再生療法を実践したいという読者に最適な書 『Flap stabilityとSoft tissue preservationからみた歯周・インプラント治療における再生療法 リグロスとサイトランスグラニュールを中心に』
船登彰芳/片山明彦/南昌宏・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価16,500円(本体15,000円+税10%)・208頁 評者:白石和仁 (福岡県・白石歯科歯周再生クリニック) まず、著者の1人である船登先生だが、彼がもともとペリオ畑出身でペリオ好きでペリオの臨床に造詣が深いことは知っていたので「ついに書きやがったかっ!」の想いである。 本書はリグロスとサイトランスを使用した再生療法症例が満載されており、これから両材料を使ってみたい、もしくはすでに使っているが使い方がよくわからないと感じている人にとって最適な書であるといえる。 CHAPTER 1では、リグロスとサイトランスの組成から臨床的な考察を含めて、この双方の再生材料を選択使用するに至った経緯が詳細に解説されている。 CHAPTER 2では、再生療法における基本的な注意事項を経て再生療法を成功に導くための軟組織の取り扱いについての要件が記されている。 とくに南先生が書かれたFlap stabilizationの達成のための縫合において、手指感覚よりもむしろ視覚的なコントロールが重要であるというところが評者には目から鱗であった。 また、再生療法にCTGを併用した場合、創傷治癒の初期段階においてCTGが創傷部の保護と血餅形成の安定化にどう寄与しているのかが詳細に述べられており興味深い。 CHAPTER 3では、再生療法の施術時においてCTG併用の有効性を示すとともに、術後に歯間乳頭を温存するために著者らが考案した新しい術式であるVIT TechniqueとHIT Techniqueの施術方法が紹介されている。 評者もほぼ同時期にHIT Techniqueと似たような術式を考案したが、船登先生が「おわりに」で書かれている15〜19行をぜひ読んでほしい。 登る道は違えど、同じ山の頂点を目指している者たちは、段々と近づきながら、やがて山頂で出会うのだなぁと思うと感慨深い。 CHAPTER 4では、難易度の高い再生療法を行うにあたって、いかに術前の軟組織の評価が重要であるかが記され、ここでも新しい考え方である軟組織における難易度分類(Katayama・Funatoの分類)に沿ってマテリアルの選択やアプローチ方法の選択の仕方が豊富な臨床例を交えて提示されている。本章を中心となって書かれた片山先生は知見・手技ともに申し分なくいずれ日本のペリオの世界を背負って立つニューリーダーとして楽しみな存在である。 CHAPTER 5では、リグロスとサイトランスをインプラント治療に応用した多数の症例が提示され、面白い。数年前に船登先生の言っていた言葉を思い出した。 リグロスをもってして「俺はこのじゃじゃ馬を乗りこなしてみせる」だ。早々にして調教を諦めた評者にとってこの言葉は非常に頼もしく感じた。 なるほど、歯周外科において最難関課題である乳頭の再建も、VITとリグロスの併用によってある程度の目処はついたようだが、本書を見る限りリグロスはまだまだUn-controllableと感じる部分が残されているようだ。今後、著者らがこのじゃじゃ馬をどう乗りこなしていくのか注目したい。「患者本位の咬合」に到達するための私たちの道標になる1冊 『中村健太郎の補綴即解シリーズ02咬合の岳をゆく! 高くて険しい咬合を登頂するための道標』
中村健太郎・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価13,200円(本体12,000円+税10%)・164頁 評者:船木弘 (東京都・日比谷歯科医院) 術者が与えた「咬合」はその患者にとってはこれから死ぬまでの「咬合」として向き合っていかなければならない……本書で筆者がもっとも気を引き締められた文章である。 日々私たちが行う臨床では、すべての治療において上下の歯を接触=「咬合」させることで歯の機能を発揮させることを目的としている。 しかし、「咬合」は難解でわかりにくいというイメージがあるのではないだろうか。 「講習を受けても理解できず臨床に生かすことができなかった」、さらには「講師の先生によって言っていることが異なる」などの経験がある先生も多いかもしれない。 歯科補綴臨床の長い歴史のなかで先人たちがさまざまな咬合論を唱えてきたが、現代においても統一された咬合論は存在せず、ある論文では「咬合のドグマ」(ドグマ:独断・偏見的な意見)とも表現されている。 しかし、前述のように、1歯から咬合再構成にいたるまですべての歯科治療において「ドグマ」と表される「咬合」を避けて通ることはできないのである。 本書は、その難解な咬合を誤ることがないよう指南してくれる1冊であり、「咬合」の難しさを「岳」と表現し、「咬合の岳」をどのようなルートで登頂するかというストーリーになっている。 通常の登山でも、登頂までのルートはさまざまあるかと思うが、険しい岳であればあるほど時間をかけて調査し、綿密な登頂計画を立てて挑むことになるだろう。 それは咬合に関しても同じで、治療開始前に時間をかけて検査し、検査結果から得られた情報から的確な診断を下すことで、はじめて「咬合」という「岳」に挑む資格が得られるのである。 著者の中村先生は、幾度となく書籍のなかで「診断の大切さ」を強く説いている。これは至極当然のことのように思えるかもしれない。 近年は包括的歯科診療と称して、審美的なすばらしい治療結果が誌面を飾っていることを目にすることが多い。 私たちはそのような結果を手に入れようと術式ばかりに気を取られ、診断が疎かになってはならないということを警鐘している。 診断なくして治療は成り立たないが、検査がなければまた診断を下すことはできないということも忘れてはならない。 本書のシリーズ第1弾『咬合の謎を解く!』で咬合における検査の重要性、第2弾となる本書『咬合の岳をゆく!』を読むことで、診断の重要性とその下し方、そして咬合治療に対する向き合い方が身につくことだろう。 本書では、一貫して「術者本位の咬合」ではなく「患者本位の咬合」である患者固有の咬合に適応する「よい咬合」を見出すことを目的としている。 そして、その咬合は「著しい個人差や個体差があるため、標準的な頂上(咬合論)が存在しない」つまりすべての患者に当てはまる咬合理論は存在しないのだと説いている。 本書は難解な「咬合の岳」を登頂し「患者本位の咬合」に到達するための私たちの道標になるだろう。イラストと動画で学ぶ! マイクロサージェリーの決定版! 『ペリオドンタル&ペリインプラント プラスティックマイクロサージェリー 高精度で確かな結果を得る低侵襲テクニック』
Glécio Vaz de Campos/Cláudio Julio Lopes・著 松川敏久/髙山忠裕/田口洋一郎・監訳 南昌宏/松本和久/岡田素平太/甘利佳之/北川雄治/宮地秀彦/安斉昌照/吉本いつみ・訳 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価35,200円(本体32,000円+税10%)・368頁 評者:北村和夫 (日本歯科大学附属病院総合診療科) 本書は、ペリオドンタルマイクロサージェリーの創始者、第一人者である米国のDr. Shanelecが執筆中に他界されたため、彼を師と仰ぐブラジルのDr. CamposとDr. Lopesが彼の意思を継いでポルトガル語で出版したものを、英語版への翻訳を経て、このたび日本語に翻訳されたものである。 まず、本書はこれだけ複雑な過程を経て出版されたにもかかわらず、専門用語の統一がなされているので読みやすい。 9つの章立ては、論理的に考えつくされた構成で、プラスティックマイクロサージェリーのマニュアルとして、また、実践的な治療指針としても使える歯科臨床におけるランドマークとなる1冊である。 読者は、大きくてきれいなイラストと臨床写真、さらに18本の動画を介して、視覚的にマイクロサージェリーを基礎から学べるので、非常に理解しやすい。 記述されている内容は、科学的なエビデンスに基づいており、マイクロサージェリーの臨床的妥当性が示されている。 さらに全体をとおして、歯科治療が非外科、外科治療にかかわらず、低侵襲治療に移行していることが明確に示されている。 また、臨床でマイクロサージェリーを実践する前に習得する必要のあるスキルについて解説しているので、臨床に取り入れやすく、心強い1冊である。 ナスを用いた切開、フラップ挙上、移植片採取やラバーダムシートを用いたマイクロ縫合のトレーニング法などである。 次に、拡大視野から得られる視覚情報を診療に反映させるために、良好な作業位置、すなわち人間工学の重要性が示されている。 5章から9章は、マイクロサージェリーの臨床の解説で、わかりやすいイラストと多くの臨床例を示しながら細部まで解説されている。 読者が求めている臨床のポイントが惜しげもなく公開されている、まさに珠玉の1冊である。 5章では上皮下結合組織移植について、解剖をふまえながら詳細に解説されている。移植片を応用した歯周組織およびインプラント周囲組織の手術は、スマイルエステティックの観点からも必要性が高まっている。 6章には126頁が割かれ、審美的要求を満たすために必要なマイクロサージェリーのテクニックが25の臨床例をとおして網羅されている。審美歯周外科を学びたい先生にとって、このうえない教材である。 7章以降では、デジタルデザインとマイクロサージェリーによる審美的歯冠長延長術、インプラントマイクロサージェリー、SMILEテクニック、ペリオドンタルプラスティックマイクロサージェリーと即時歯槽堤修復法について詳細に解説されている。 最後に、本書を読破したのち、さらに知識とテクニックを学びたい先生には、監訳および翻訳に携われているこの分野で著名な先生方のハンズオンセミナー受講をお勧めする。不正咬合の非抜歯・抜歯症例を比較した本書は、新鮮でかなり興味深い! 『全顎矯正と部分矯正へのアプローチ非抜歯治療と抜歯治療の選択基準』
山地正樹/山地晃二郎・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価19,800円(本体18,000円+税10%)・336頁 評者:山﨑長郎 (東京都開業原宿デンタルオフィス) 素晴らしい臨床矯正治療の書が上梓された。私と著者は過去から現在に至るまでさまざまな局面で付き合いがあり、彼らの実直で嘘のない臨床に対し以前より深く敬意を抱いていた。 それは決して奇をてらった臨床ではなく、患者中心の慈愛に満ちて地に足のついた矯正プラス一般治療の幅広い、われわれ臨床医が理想とするものである。 また、長年地域に根差して診療していることもあり、予後の経過観察もしっかり見ることができていて、通常矯正医が考える予後をはるかに超える長期症例も提示されている。 著者の強みとして咬合があり、術前術後の咬合の改善をすべてシロナソグラフで実証し、プラスMRI・CT・エックス線写真を駆使して改善を見事に実証している。 そしてもっとも特徴的なチャプターは、われわれが一番悩む非抜歯・抜歯の選別診断を、本書ではすべての考えられる不正咬合症例に対して羅列し、各々理由づけをしている。 このような構成はかつてないものであり、非常に興味深いものである。それプラス、部分矯正もまた一般矯正医には必要不可欠であるが、本書のように並列で全顎矯正と組み合わせているのが面白い。 それでは、全体の本の構成と各章の特徴を説明してみたい。 1章は一般臨床医に向けに矯正治療を紐解く前に知っておかなければならない診断方法(基礎資料・セファロ・咬合プロブレムリストなど)を平滑的にわかりやすく説明している。 2章は5章をより理解しやすいよう、非抜歯・抜歯治療の基本的な考え方を、従来考えられていることとは少しニュアンスを変えて解説している。 3章は咬合治療の意義である。この章は著者が長年取り組んできた咬合であり、よく整理されていて読み応えがある。とくに顎関節と全身との関係性は見事である。 4章は口の体操で、とくにその意義について長年の実績からその必要性をきちんと解説・説明をしている。 圧巻は5章で、すべての不正咬合の非抜歯・抜歯症例を比較して明確な治療方針と指針を詳細な治療ステップとともに提示している。 このようなデザインは読み手としては新鮮でかなり興味深い。それと同時に部分矯正を矯正としては珍しくさまざまな症例を提示している。 一般臨床医にとって馴染みやすく必要性が高いと思われる。 最後の6章はトラブルシューティングとアセスメントで、著者の正直さを表している。私自身の経験からも長い予後の中ではいろいろなことが必ず惹起するもので、その問題点をいかに解決するかが重要である。 いずれにしても著者の真摯な臨床に対する姿勢が見事に集約された一冊である。ぜひ購読し、矯正に対する考え方をもう一度修正し、見直してもらいたいものである。 読み方は自由であるが、必ずや何らかの矯正治療のヒントが得られるものと期待している。