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発達期における咬合の変化 その19 モンゴル遊牧民の食生活と口腔

発達期における咬合の変化 その19 モンゴル遊牧民の食生活と口腔
発達期における咬合の変化 その19 モンゴル遊牧民の食生活と口腔
前回、モンゴルは、日本と比べ被蓋が浅い小児(4歳児)が多いと述べた。
乳前歯の被蓋が、仮に切端咬合・半分以上が見えるものを正常咬合とすると、日本では24%、モンゴルでは78%となる。(図1)


どうしてモンゴルの小児は、被蓋の浅い者が多いのだろう?
遺伝な要因なのか? 環境なのか?
実は、筆者は食物などの環境要因と考えている。
その理由について、述べてみたい。
さてモンゴルの国土面積は日本の約4倍、総人口は320万人。
国土の約80%が草原で遥かかなたまで緑の絨毯が広がっている。
遊牧民は、移動式のテントであるゲルに住み、豊富な草を利用しウマ・ウシ・ヒツジ・ヤギ・ラクダを飼って暮らしていた。 (これらの家畜を五畜と呼ぶ)(図2)


“白い食べ物”と“赤い食べ物”がある。
夏は家畜のミルクを利用したチーズなどの乳製品(白い食べ物)、冬は家畜を解体した肉(赤い食べ物)を食べていた。(図3)


これは、1993年に撮影した代表的な遊牧民の口腔である。(図4)


歯垢の付着が極めて少ない歯と大きな歯列が特徴だ。
その背景には、甘い食物・軟らかい食物が極めて少なく、入手困難であったことが考えられる。
また、驚くことに歯を磨いたことがないという。
そもそも、歯ブラシが手に入らなかったのである。
当時の物価は、中国は日本の1/10、さらにモンゴルはその1/10であった。
すなわち、日本で1本100円の歯ブラシは、1万円となる計算だ。
これでは歯を磨けない。
さてもう一つの特徴は、モンゴル遊牧民は被蓋が浅い者が多いことだった。(図5)


どうして被蓋が浅い者が多いのだろうと考えた。
その際、日本の縄文人と弥生人の頭蓋骨の違いを思い出した。
同じ日本人なのに縄文人は、弥生人に比べ切端咬合が多いのだ。(図6)


これは時代背景だけでなく、食物の差にも現れるのではなかろうか。
実際、遊牧民とともに食事をすることで、答えらしきことが見つかった。   続く

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!


岡崎 好秀

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