数年前、長崎の小児歯科医である池田靖子先生は「これまで診療室で多くの子ども達の口腔を診てきましたが、このこども園は非常に不正咬合が少ないのです」。 さらに「もちろん口腔機能発達不全症の児もいますが、成長とともに健全な状態になる傾向にあります」と言われた。 どうしてこの園では、健全な歯列を持つ児が多いのだろう? どんな取り組みが口腔機能の発達を促すのだろう? 先生に聞くと、さくらさくらんぼ保育で有名な“斎藤保育”の実践園であった。 ここで斎藤保育について簡単に述べる。 創始者の斎藤公子先生は,戦後に貧しい子どもたちを集めて保育を始められた。(図1) そこでは、子どもの動き,筋肉・情緒・社会性の発達を様々な観点から捉えた保育を行っており、全国に系列の園がある。 最大の特徴の一つは「個体発生は系統発生を繰り返す」の言葉に従った保育法を取り入れたことだ。 さて、地球の誕生は約46億年前、単細胞動物の出現が約35億年前、さらに多細胞動物が約7億年前。そして,魚類から両生類,爬虫類,そして哺乳類へと進化した。 一方、母体内では受精の瞬間から、細胞分裂が繰り返され、魚類から哺乳類へと形を変えヒトの赤ちゃんとして誕生する。まさに、ヒトの体には動物の進化の歴史が刻まれている。(図2) そこで、“水や土、泥との触れ合い”、それに“金魚運動”や“両生類のようなハイハイ”などの動きを基本した体作りを行っている。 早朝から体を使った遊びや,野山を駆け回る自然保育がなされた後,室内でピアノ伴奏に合わせリズム運動が始まる。(図3・4) そこでは、走る・跳ぶ・転がる動きの中で,体幹筋が鍛えられ良い姿勢となる。(図5) 運動によりお腹が減るので,食欲は旺盛となり,心地よい昼寝となる。 また食事は,栄養のみならずよく噛んで食べるように工夫されている。(図6) さらには、“離乳食から手づかみを推奨し,食べる意欲を育む”ことを大切にしている。 では、斎藤保育で育まれた子どもたちの口腔内を覗いてみよう。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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