某歯科医師会での障害児診療に、ADHDを持つ5歳のA君が初診で来られた。 ADHDは、「注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害」とも呼ばれ、不注意(集中力の欠如)、多動性(じっとできない)、衝動性(思いつくままに行動する)などの症状がある。 齲蝕はないが、過蓋咬合・下顎の後退位のためで“いびき”がひどいとのこと。 そこで保護者の希望により、呼吸状態の改善のため、下顎を前方に誘導するマウスシールド型矯正装置を装着した。(図1) 注:マウスシールド型矯正装置(T4Kレーナー、プレオルソ、EF lineなど機能的矯正装置の総称) すると、翌月来院時。保護者は「夜間、誰かがトイレに立ち音がすると、必ず目を覚まします。一度、目を覚ますと1時間は騒ぐので家族は消耗していました。ところが、装置が気に入ったのか、装着した当日から 9時間ぐっすり眠るようになりました。もちろんイビキもなくなりました。さらに「幼稚園の先生は、イライラすると暴力行為をすることが多かったのですが、それも減りました。」と話された。 数か月後、地域の小学校の特別支援学級に入学した。 3か月後には担任の教師から、A君がこのクラスに入った理由について質問された。 装着による呼吸状態の改善が行動に影響したと考えられる。 このケースのように、イビキや睡眠障害をもつ小児は、本装置を好むことが多い。 本人は、呼吸が楽になることが自覚できるのだろう。 そこで、筆者は就寝時に装置を装着し下顎を前方に誘導してみた。(図2・3) 口腔機能の低下があったのだろうか、眠りが深くなるばかりでなく、夜間にトイレに行く回数が減った。 通常、日中に比べ夜間は尿量が減少する。抗利尿ホルモンは、深い眠りの時に分泌されることからも、装置の効果と考えられた。 加齢とともに夜間トイレが近くなる対策として、健康食品を勧めるCMがある。 その原因には、口腔機能低下による睡眠障害もあるだろう。 矯正治療は、歯列のみならず、呼吸を改善し笑顔を引き出す可能性がある。 もちろんこれは一つのケースで、診断なくして安易に応用すべきものではない。
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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