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閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第3回:睡眠歯科治療をすると何が良くなる?

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第3回:睡眠歯科治療をすると何が良くなる?
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第3回:睡眠歯科治療をすると何が良くなる?
歯科では、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA;Obstructive Sleep Apnea)に対して主に口腔内装置 (OA;Oral Appliance)の中でも下顎前方牽引装置(MAD ; Mandibular Advanced Device)治療を行います。

日本呼吸器学会から出されている睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020では、どのようなOSA患者にOA療法が有効ですか?という質問に対し、「CPAP治療の適応とならない軽症から中等症の症例、あるいはCPAPが使用できない症例で、行うことを提案する」というステートメントを出しています。


図1 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020。参考文献2より引用。

米国はどうでしょうか? 2017年、米国歯科医師会(ADA ; American Dental Association)は、米国睡眠学会(AASM)/米国睡眠歯科学会(AADSM)による睡眠時無呼吸の治療における歯科医師の役割に関する方針声明を公的に承認しました。この方針では、睡眠歯科治療を歯科医師の診療範囲内であると位置付け、すべての歯科医師に睡眠時無呼吸治療へ参加を促す内容となりました。

具体的には、歯科医師は睡眠時無呼吸の治療を行う義務はありませんが、すべての患者に対して睡眠時無呼吸のスクリーニングを行い、その結果を各患者の診療カルテに記録することが求められるようになりました。また、スクリーニングで睡眠時無呼吸が疑われた場合、患者に睡眠時無呼吸の可能性を伝え、適切な診断と治療のために専門外来へ紹介しなくてはならないと明記されました。

さて、歯科で行う口腔内装置治療の効果にはどのようなものがあるのでしょうか? AASMおよびAADSMは、睡眠歯科治療の効果で期待できるものに、いびきの減少、無呼吸低呼吸指数(AHI)と酸素飽和度低下指数(ODI)の低下、日中の過度の眠気の減少等があることを発表しました。


図2 睡眠歯科治療の効果。参考文献1より引用。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020では、生活の質(QOL)および高血圧を改善することがわかりました。また興味深いことに、CPAP治療とOA治療において降圧作用はほとんど変わらないという結果が報告されました。


図3 CPAP治療とOA治療における降圧作用。参考文献3より引用。

睡眠時無呼吸は慢性疾患であり、CPAP 治療やOA治療は、おのおのの装置を装着しているときのみ効果がみられます。そのため、CPAPとOAの効果を比較するときは、治療の効力(Efficacy;理想的な状況の下で,どれだけ効果があるのかを示す)だけではなく、装着に対するアドヒアランス(コンプライアンス)の高さを加味した治療の有効性(Effectiveness;現実的な状況の下で、どれだけ効果があるかを示す)を考慮しなくてはいけません。Sutherlandらの報告4によると、CPAPとOAを比較したところ、CPAPの場合、その効力は高いがコンプライアンスは低い、OAの場合、その効力は CPAPほど高くはないものの、コンプライアンスは高く、結果的に「有効性」という観点から見た場合、あまり差異はないということが示されました。

睡眠歯科治療を希望する患者さんのなかに、「CPAPを適切に使えなくて困っている」と訴える方が多く見受けられます。この有効性を考慮すると、CPAPを使用したくないと考えている患者さんが場合により、OA治療を通じてCPAPとほぼ同等の治療効果を得られるという可能性も十分にあるといえます。

参考文献 
1.	宮地舞.歯科医師のための睡眠時無呼吸治療.東京:クインテッセンス出版,2022.
2.	日本呼吸器学会.睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.
3.	Bratton DJ, Gaisl T, Wons AM, Kohler M. CPAP vs Mandibular Advancement Devices and Blood Pressure in Patients With Obstructive Sleep Apnea: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 
        2015 Dec 1;314(21):2280-93.
4.	Sutherland K, Phillips CL, Cistulli PA. Efficacy versus Effectiveness in the Treatment of Obstructive Sleep Apnea:CPAP and Oral Appliances. Journal of Dental Sleep Medicine 2015; 
        2(4):175-181.

著者宮地 舞

DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA
歯科医師

経歴
  • 2015年 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
  • 2016年 東京医科歯科大学歯学部病院第二総合診療部 臨床研修終了
  • 2018年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 保存修復分野プリセプタープログラム修了
  • 2020年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 口腔顔面痛・睡眠歯科学専門医コース修了
  • 2020年 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学病院 歯系診療部門 口腔機能系診療領域 義歯科 
  • (専)快眠歯科(いびき・無呼吸)外来 
  • 2023年―現在
  • 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
  • 摂食嚥下リハビリテーション学分野 
宮地 舞

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