一般的に、睡眠時無呼吸治療のための口腔内装置(OA:Oral Appliance)には下顎前方牽引装置(MAD:Mandibular Advancement Device、図1)と舌牽引装置があり、特に前者をOAとよぶことが多いです。MADとは上下顎の装置を装着し、下顎を前突させた状態を終夜維持することで気道の狭窄を防ぎ、夜間の呼吸を促進する治療です。図1 睡眠時無呼吸治療のための口腔内装置。参考文献1より引用。 MADは気道の狭窄を防ぐことが目的であるため、睡眠中の上気道の閉塞により呼吸障害である閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:Obstructive Sleep Apnea)が治療の対象となります。中枢性睡眠時無呼吸(CSA:Central Sleep Apnea)が優位な患者さんには、治療効果が期待できない場合があります。 MADは一般的に歯科で行われる治療であり、歯科医師はMAD製作前に睡眠時無呼吸検査(PSGまたはOCST)の結果と、口腔内及び顎関節などを含めた術前検査結果を基に、患者さんがMADに適しているかどうかを見極める必要があります。一般的に軽症~中等症の閉塞性睡眠時無呼吸に対して行われる治療ですが、中等症~重症のOSA患者さん、およびCPAPの継続使用が困難な患者さんにも有効との報告もあります。 それでは口腔内装置を選択するまでの流れをみていきましょう。 まず、チェアサイドでの術前検査を基に、う蝕、動揺歯、欠損、不良補綴、歯周疾患、顎関節の痛みなどの口腔内装置治療を妨げる、もしくは悪影響を及ぼす要因があると判断した場合は、口腔内装置製作前にそれらの治療を行います。 次に、患者さんの残存歯数、動揺歯の有無、睡眠時ブラキシズムの有無、骨隆起の有無、口腔内スペースなどを確認し、最適な口腔内装置を選択します。一般的に睡眠時無呼吸治療のためのOAでは、下顎を前突させた状態を終夜維持することで気道の狭窄を防ぐMADが選択される症例が多くなります。 MADは上下一体型と上下分離型に大別されます。上下一体型は、上下MADが強く固定されており、閉口を促して鼻呼吸を促進することができるという特長があります(図2)。しかし、上下MADを接合する即時重合レジン部は破損および変色しやすく、MADの上下位置関係の微調整(歯科タイトレーション)に時間がかかるという課題点があります。
図2 当院で使用している上下一体型(保険適用内)のMAD。 一方、上下分離型は、上下顎が分離しているため開口およびある程度の側方運動が可能です(図3)。そのため、タイプによって睡眠時ブラキシズムの習慣のある患者さんにも使用することができます。また上下MADの位置関係の調整が容易であり、ミリ単位で位置調整可能なタイプもあります。
図3 当院で使用している上下分離型(保険適用外)のMAD(ソムノデント社)。 舌牽引装置は、舌を前方位置に保持する装置で、無歯顎患者さんや歯列矯正治療中の患者さん、MADを使用できない患者さんに対して利用可能です。しかし、装着の不快感と審美性の悪さによりアドヒアランスが低いことと、睡眠時無呼吸に対する治療効果が不明瞭であるという課題があります。 現在さまざまなタイプの口腔内装置が開発されています。その患者さんに適した口腔内装置を選択するようにしましょう。 参考文献 1.宮地舞.歯科医師のための睡眠時無呼吸治療.東京:クインテッセンス出版,2022.

著者宮地 舞
DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA
歯科成増デンタルクリニック
東京医科歯科大学病院 快眠歯科(いびき・無呼吸)外来 非常勤講師
2015年、東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業。2020年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)口腔顔面痛・睡眠歯科医学専門医コース修了。現在、DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA および歯科成増デンタルクリニック勤務。東京医科歯科大学病院 快眠歯科(いびき・無呼吸)外来 非常勤講師。 米国口腔顔面痛学会および米国睡眠歯科医学会専門医。主な著書に『歯科医師のための睡眠時無呼吸治療 その基礎知識と口腔内装置治療の実践』(クインテッセンス出版刊)がある。第9回日本国際歯科大会に登壇予定。
