はじめに
このたび6回にわたって執筆させていただく歯科医師の寺中 智(あやせほりきり中央歯科口腔機能クリニック)と申します。2025年3月末に足利赤十字病院リハビリテーション科から異動して4月より当院院長として着任しました。今回、急性期総合病院のリハビリテーション歯科から地域の開業医へ転身し、多職種連携を始めて見えてきたこと、高齢者歯科医療のあり方などを綴っていきたいと思います。第1回は地域医療に従事し、多職種と関わっていく重要性について紹介していきたいと思います。地域医療構想と第8次医療計画の視点から見た歯科の役割
東京都葛飾区綾瀬の地に当クリニックを建設するにあたり、共同経営者である上野文敬先生と話すことが多かったのは「15~20年後の歯科はどうあるべきか」ということです。 2024年に厚労省が公表した地域医療構想では、急性期医療から回復期、在宅医療までの流れを円滑にすることが求められています。2024年度から始まった第8次医療計画では、「医療人材の確保」や「効率的・効果的な医療提供体制の構築」が掲げられ、特に在宅医療・介護連携、在宅における口腔・栄養・リハビリの一体的提供が推進されています。 また昨年6月から保険収載された口腔・栄養・リハ三位一体での管理、回復期等口腔機能管理の算定が可能となったため、回復期での歯科での活躍の場が増えてきました。これは国が地域医療における歯科が基幹病院や大学病院と連携し、かかりつけ機能を有して患者さんを継続的にケアすることを重要視していることがうかがえます。 我々のクリニックはこの点に注目して、地域住民の患者さんは入院しても「退院後、元気になってからまた来院してくださいね」ではなく、ADLが低下して通院が困難となっている可能性もあるので、患者さんと関わっている家族に連絡を取って訪問診療に向かうことが重要と考えており、現在実践しています。 前職の足利赤十字病院は、栃木県の第3次医療における急性期病院であったことから、病院から地域医療につなぐことが主な業務でした。しかし、これは紹介状を出していくことで、どの程度つながったかは定かではありませんでした。同僚のリハビリテーション科の医師にも尋ねると、紹介状を渡してどうなったかわからないことはよくあるとのことでした。医科でも歯科でもこの点は、今後どのようにモニタリングするかが重要となります。図1 病院と地域歯科との連携図。筆者作成。
病院と地域との口腔管理における課題
入院患者が退院時に多職種で集まる退院時カンファレンスがあります。このカンファレンスには病院主治医、看護師の他に、在宅医をはじめ訪問看護、訪問リハ、薬剤師などが参加し、退院後に入院時の経過状況を共有する場として、在宅にケア移行する時の患者さんの意思決定支援も行うこともあります。 ただ、このカンファレンスに歯科職種が参加していないことが多くあることも事実です。これは歯科職種からの視点が病院での医療チームに十分に組み込まれていない現状がまだあるからではないかと考えます。地域によっては歯科職種にも退院時カンファレンスに連絡があり参加している事例もあります。しかし、歯科が常設されている病院は約2割しかないため、特に入院患者の口腔ケアにおける知識が適切に共有されていないことが課題となっています(図2)。図2 入院患者の口腔内。経口挿管中。
薬局との連携と情報共有の重要性
異動して最初に挨拶周りで行った先は、医科クリニックだけではありません。私は地域に根づいている薬局との連携も非常に重要と考えています。多くの薬剤師側から見た歯科医師のイメージは「抗生剤と鎮痛剤の処方」という限定的なものであることが多いようです。実際、私が薬局にご挨拶の時に行った際に「特に何かありますか?」というような反応の薬局もありました。 2024年の調査によれば、薬剤師の多くは歯科医師に対して「抗菌薬や鎮痛薬の適正使用指導」や「患者への服薬指導とフォローアップ」を求めている一方で、歯科医師側は薬剤師に「歯科治療に関連する薬剤の適正使用の助言」や「相互作用のチェック」を期待しています。しかし、こうした相互の期待が現場で十分に共有されていないため、連携が形骸化しやすいという課題があります。 最近では、高齢者のお薬手帳を拝見することが、日常臨床では珍しくない風景であり、問診時の既往歴と一致しないことに対して、薬局への問い合わせを行うこともあります。また、患者が服用している薬剤の情報を把握しながら治療方針を決定するケースも増えています。このようなやり取りは、情報共有料として保険収載されています(薬局側も調剤で保険収載される)。医科歯科連携の強化による地域医療への貢献
地域医療の中で歯科が担うべき役割を広めるためには、病院との連携強化が不可欠です。入院患者の行先は主に自宅、施設、病院(転院)であり、この情報を共有するには入院患者のカンファレンスに歯科医師が積極的に関与し、チーム医療に口腔健康管理の重要性を伝えることが重要です。また、地域の医師や看護師、介護スタッフ、薬剤師との連携を深めることで、歯科医療に対して患者の健康状態を総合的に維持するシステムつくりが可能となると考えます。おわりに
これからの地域医療において、歯科の役割は伸びしろが大きくあります。多職種との連携を強化し、歯科職種が協働して患者さんを支援することで、より質の高い医療を提供することが可能になります。薬剤師や管理栄養士との多職種連携も含めた医科歯科連携を深めることで、患者さんの安全を守りながら適切な治療を実践することが求められています。
TOP>コラム>病院歯科から地域へ―開業医からみた病診連携・高齢者歯科医療の実践― 第1回:地域医療における多職種連携の重要性

著者寺中 智
あやせほりきり中央歯科口腔機能クリニック院長(東京都葛飾区)
所属・資格
- 日本補綴歯科学会専門医
- 日本老年歯科医学会専門医・指導医・代議員・理事
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士・評議員)
- 日本有病者歯科医療学会
- 日本プライマリ・ケア連合学会(高齢者医療・在宅医療委員会、生涯学習委員会)
- 日本病院総合診療医学会
- 東京科学大学大学院 高齢者歯科学分野 非常勤講師
- 東京科学大学歯学部附属病院臨床研修歯科医指導医
- 日本ACLS協会BLSインストラクター
- 2003年3月 神奈川歯科大学卒業
- 2003年4月 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野
- 2007年3月 東京医科歯科大学大学院修了 歯学博士
- 2007年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院 スペシャルケア外来 医員
- 2010年4月 東京医科歯科大学大学院特任助教 摂食リハビリテーション外来(両兼任)
- 2013年12月 足利赤十字字病院リハビリテーション科
- 2020年2月 足利赤十字字病院リハビリテーション科 口腔治療室長
- 2024年7月 足利赤十字字病院リハビリテーション科 副部長
- 2025年4月 現在に至る 著書に『別冊 ザ・クインテッセンス 病院歯科の現在地』(クインテッセンス出版・共著)がある。
略歴
