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閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第10回:睡眠不足ほど食欲が増える?睡眠と体重の関係

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第10回:睡眠不足ほど食欲が増える?睡眠と体重の関係
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第10回:睡眠不足ほど食欲が増える?睡眠と体重の関係
「睡眠不足は肥満のもと」という話をよく見かけませんか? 世界のさまざまな地域で実施された調査では、睡眠時間が7 時間未満の人は過体重や肥満になるリスクが高まることがわかってきています。

これは子どもにもいえます。富山県の児童およそ一万人を対象にした調査では、毎日10時間以上睡眠をとっている子どもに比べて、8時間以下しか眠っていない子どもは、3倍近くも肥満の度合いが高くなっていました。

また、近年日本で行われた疫学調査「ながはまコホート」でも睡眠呼吸障害や肥満は重症度が高くなるにつれて、睡眠時間は短くなることがわかりました(図1)。

図1 睡眠障害と糖尿病および高血圧との関連。参考文献1より引用・改変。

さて、睡眠と体重の間にはどうして深い関係があるのでしょうか? その関係に関わる1つの要因が、覚醒と睡眠を制御する「オレキシン」です。

オレキシンとは、視床下部の摂食中枢に局在し、オレキシンを動物に投与すると摂食量が顕著に増えることから食欲の制御にかかわるものであると考えられていました。オレキシンとはギリシャ語で「食欲」を意味する「オレキシス」(orexis)という語に由来します。

オレキシンは覚醒を安定化させているといわれています。たとえば1日に何度も睡魔に襲われ、自分の意志とは無関係に突然寝てしまうナルコレプシーという病気の要因のひとつは、オレキシンの欠乏ということがわかってきています。

また、オレキシン作動性ニューロンは全身状態をモニターすることができ、さらに栄養状態によってその活動を変化させることが明らかになってきています。たとえば長く食物を摂らないでいると、血液中のグルコース濃度(血糖値)が低下していきます。この変化は、そのまま脳脊髄液中のグルコース濃度の変動につながります。グルコース濃度が低下すると、オレキシン作動性ニューロンの発火頻度は増えます。

逆に、脳脊髄液中のグルコース濃度が上昇すると、オレキシン作動性ニューロンは抑制されてしまいます。たとえばマウスにしばらく餌を与えないようにすると、本来なら休眠期であるはずの昼間にも動き回るようになります。

そして、そのオレキシン作動性ニューロンは食欲のコントロールに関与する物質(食欲を抑制するレプチンや亢進するグレリン)によって影響を受けることがわかりました。レプチンはオレキシン作動性ニューロンを抑制し、グレリンは興奮させます。睡眠不足になるとレプチンが減少し、グレリンが増えるため、食べる量が増えてしまうのです。

一方、睡眠不足だった人が十分な睡眠(特に深い眠りであるノンレム睡眠ステージ3)をとると血糖値が下がったり、さまざまなホルモンの分泌量が正常化するという報告もあります。

このように睡眠と体重または食欲には深い関係があるのです。また、体重過多は睡眠時無呼吸における重大な危険因子です。中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の約60%は肥満によるものと推定されています。体重が増加するにつれてOSAの危険性は高くなります。体重が10%増加するとAHIは32%増加し、また体重が10%減少するとAHIは26%減少するとの報告もあります(図2)。

図2 体重の変化と無呼吸低呼吸指数の関係。参考文献3より引用。

したがって、睡眠歯科治療をするうえで、口腔内装置製作や口腔内の検診に集中するだけではなく、体重の増加といった患者さんの全身的な変化にも気をつけなければならないのです。

参考文献
1.	京都大学.睡眠障害と糖尿病および高血圧との関連を実証 世界最大級、7000人以上を調査した「ながはまコホート」資料から.https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-05-09(2023年5月9日アクセス)
2.	櫻井武.睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか.東京:講談社ブルーバックス,2017.
3.	宮地舞.歯科医師のための睡眠時無呼吸治療.東京:クインテッセンス出版,2022.
4.	睡眠の教科書 増補第2版.眠りの科学で、最高のパフォーマンスを手に入れる.東京:ニュートンプレス,2021.
5.	Peppard PE, Young T, Palta M, Dempsey J, Skatrud J. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000 Dec 20;284(23):3015-21.

著者宮地 舞

DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA
歯科医師

経歴
  • 2015年 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
  • 2016年 東京医科歯科大学歯学部病院第二総合診療部 臨床研修終了
  • 2018年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 保存修復分野プリセプタープログラム修了
  • 2020年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 口腔顔面痛・睡眠歯科学専門医コース修了
  • 2020年 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学病院 歯系診療部門 口腔機能系診療領域 義歯科 
  • (専)快眠歯科(いびき・無呼吸)外来 
  • 2023年―現在
  • 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
  • 摂食嚥下リハビリテーション学分野 
宮地 舞

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