TOP>NEWS>2023年11月のピックアップ書籍

NEWS

2023年11月のピックアップ書籍

2023年11月のピックアップ書籍
2023年11月のピックアップ書籍

誕生から健康寿命を全うするまでの歯列の役割を疫学的に論じた一冊 新 咬合論&咬合誘導論新 犬歯誘導の起源:生涯にわたる咬合管理

関崎和夫・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定 価 15、400円(本体14、000円+税10%)・232頁 評. 者 行田克則(東京都・上北沢歯科)  本書を俯瞰すると、人の誕生から健康寿命を全うするまでの歯列の役割を疫学的に論じているようなイメージである。 第1部は犬歯誘導への咬合誘導が生涯に影響を与えること、第2部は咬合誘導を日本に根付かせ開花させた先人たちの論争と重要な論文を順序立てて記述している。  第1部で語られる犬歯誘導の重要性は補綴学的考察も豊富で納得できる部分が多いが、術式の記載は少ないため、2014年に著者が上梓し術式が豊富に掲載された『GPのための咬合誘導』も合わせて読みたい。  咬合誘導の重要部分では比較的達成しやすい上顎歯列の拡大と達成の困難な下顎歯列との調和をどのようにするかが本書より論点として見えてくる。 また、上顎歯列において側方歯群交換時に犬歯スペースを確保しておくことが重要だとわかる。  提示された症例を見ていくと、ほとんどの症例で経時的に下顎前歯部にわずかな叢生を認め、下顎のコントロールの難しさは明らかだ。 著者は、GPの立場から「矯正歯科専門医に相談してマルチブラケット法を応用する」と叙述するが、下顎前歯の叢生は仮に矯正歯科専門医が行っても経時的に起こりやすい。著者の症例写真は、いかに下顎前歯の拡大や安定が難しいかを長期症例において示している貴重な写真と受け取ることもできる。  さらに付け加えるなら、評者の見解ではあるが、生理的な近心移動という因子を排除したとしても、われわれが30代以降の患者を臨床で診たときに叢生のない患者はほとんどいないように思えることから、下顎前歯部の叢生は生理的な現象の一端なのかもしれないとすら思えるし、下顎歯列弓の拡大という難題を生体が提示しているのかもしれないとも思えてくる。  第2部では咬合誘導を根づかせた先人たちについて詳細に記述しているが、著者の資料収集の渉猟範囲の広さには敬服するしかない。 生々しさを感じる論争の記述もあり、学術書から逸脱する感は否めないものの、「咬合誘導」の本流を行く著者としてはこの記述は外せなかったのだろうと想像する。  記述された先人たちの論争は、結果的に胎生期にまでさかのぼる覚悟で小児を観察しもっとも理想的な成人を創造するという大きなテーマを抱えて成し遂げられている(成し遂げられようとしているという現在進行形かもしれない)。 自然科学者としての根幹部分と捉えることもでき、読み応えのある部分であった。  評者は、先人たちのこの努力は、単に小児歯科専門医として患者を短いスパンで診る、あるいは矯正歯科専門医として短いスパンで咬み合わせを仕上げるといったことではなく、ホームドクターとしてあたりまえのように長期的な観察を行うことの重要性を諭していると読み取った。  本書をとおし、著者である関崎和夫先生が果たす咬合誘導の重要性を次世代に伝える歴史のランナーとしての役割を感じずにはいられない。

インプラント治療の重要論文を提示しつつ22症例を徹底解説した一冊 審美インプラントの治療戦略成功に導く22のレシピ

飯田吉郎・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定. 価 14、300円(本体13、000円+税10%)・216頁 評 者 閔 成弘(テキサス大学歯学部ヒューストン校歯周病学講座) 評者は歯周病インプラント専門医として米国に15年住み、各分野におけるエキスパート達ともたくさん議論してきたが、エキスパートに共通するのは物事についてサイエンスを用い論理的に分析し自分自身で的確な臨床判断を作れることである。 米国専門医教育課程では論理的に歯科治療を考え、適切な治療計画を立案できるようにトレーニングが行われるが、著者である飯田吉郎先生は日本の開業医ながら、米国専門医のように論文に精通しているのが今回の書籍から明らかに証明されている。 書籍の中で引用される重要論文の紹介と解説など、米国臨床大学院生が読むものばかりで圧巻である。 日頃より志高い学友とともに論文を読み合い、世界のトレンドを意識しながら学術のアップデートをしてきた著者の努力の賜物ではないだろうか。サイエンスを用いると同時に、巧みな技術も持ち合わせる臨床家は世界的にも稀少で、著者の存在は日本歯科界の宝である。  本書籍は、インプラント治療を行う歯科医師にとって、サイエンスと豊富な臨床経験が融合して繰り広げられる症例の完成度に圧巻され、長期症例からも学ぶことが豊富な聖書ともいえる一冊になるだろう。 とくに「本症例のポイント」での症例に対するフィードバックは、読者に対する贅沢な教育材料である。 症例に対して真摯に向かい臨床結果を批評的に振り返る著者の姿勢は、まさに若手歯科医師の目指すべきお手本になるものだといえる。 そして、世界で活躍する歯科技工士と繰り広げられたマスターピースに魅了され、グローバルで活躍したいと考える歯科医師は今後ますます増えるのではないだろうか。  また、臨床経験と日々論文を熟読することから生まれた著者独自のインプラント審美治療に対するアプローチ「ソケットシールドを用いた歯槽堤保存術」が2023年に『International Journal of Esthetic Dentistry』に論文掲載された。 それはインプラント審美治療に大きなインパクトを与え、世界で活躍する海外講師陣から賞賛の嵐であった。 論文を鵜呑みにするのではなく、批評的に捉え自身の考えと照らし合わすことができるのは、自身が持つ臨床哲学というバイアスだけに左右されずに日頃から論文に目を通し、的確にポイントを理解できている証拠であろう。 まさに現代の歯科界を牽引するオピニオンリーダーの姿である。 さらに、書籍で解説される長期症例からは、いかに著者が早い時期から世界トップレベルでイノベーティブな治療を実践しオピニオンリーダーと肩を並べてきたかがよく理解でき、手がける症例は繊細さと華麗さが融合し目を見張るものばかりである。 常日頃から意識されている“目指すべき歯科医師は、同業者から上手いと感心される歯科医師になるべきだ”という信念が深く伝わってくる。 著者のように、世界で活躍したい、インプラント最先端を学びたい方に必須の書籍である。

長年、議論した「矯正とインプラントのどちらが先か」その知識が本書に 矯正が先か? インプラントが先か?欠損補綴の治療計画を極める

松尾幸一・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定 価 11、000円(本体10、000円+税10%)・164頁 評 者 上野博司(東京都・上野歯科)  実は著者の松尾幸一氏とは大学入学以来30数年来の友人である。そして同じスタディグループに所属しており、互いに切磋琢磨してきた。 この度、遂に彼の著書が刊行されたので、はやる気持ちを抑えて本書のタイトルを見てみると、『矯正が先か? インプラントが先か?』のフレーズがまず目に飛び込んできた。その直後、思わず「こうきたか!」と唸ってしまったのである。 というのも、著者とは常日頃より臨床上の出来事や、時として互いの自慢の症例について喧々諤々と意見交換してきたが、このタイトルについてよく話題にしてきた経緯があったからである。 そう、まさしく「症例によって矯正歯科治療とインプラント埋入は、どちらを先にするのか、どう判断するのか」なのであった。  この判断には、まず基本的な咬合についての知識、治療の流れ、なぜ矯正歯科治療を取り入れる必要があるのか、さらには咬合再構成をする目的についてなど、さまざまな基礎力や知識が必要になる。 本書ではそれらへのきめの細かい解説や知識、手技が自然と身につくようにしっかり網羅されているので、ビギナーからベテランの臨床家まで幅広く学んでいただけると思う。豊富な美しい臨床写真やイラストに加え、術式の詳細が紹介されており、臨床に直結した知識がすぐに得られるであろう。  本書は、CHAPTER1~3から成り、CHAPTER1と2は前述した概論的内容と矯正歯科治療および修復治療の考え方、CHAPTER3は、さまざまなパターンの8症例が掲載されており、各々についての診査、診断、矯正orインプラントどちらが先?、治療術式と解説、考察で構成されており、これが実践編として非常に読み応えがあり疑似体験することができて参考になる。  タイトルの話に戻ろう。矯正歯科治療をするうえで、強固なアンカーとなるインプラントは歯を動かすための強力な助っ人となるが、治療終了時にその埋入ポジションが理想とならずに仇となってしまっては元も子もない。 つまり、術前の綿密な診査、診断や治療計画がよほどしっかりしていないと、本書にあるような臨床例は成り立たない。 「矯正が先か、インプラントが先か」は、臨床家としてかなりの総合力が問われる難しい選択なのである。 本書では、その考え方がチャートを用いてわかりやすく解説されており、状況別にインプラントの埋入時期を適切にシミュレーションする術が得られる。  ちなみに評者は、本書のさまざまな症例について、治療前の口腔内写真やエックス線写真をじっくりと見て、かつチャートを参考にしながら、自身ならどのような治療計画を立てるか予想したうえで本文を読み、著者の考えと合致するかしないかを確認しつつ楽しんで読み進んだ。 提示されている臨床例が多いので、そんな見方も一興である。  本書は、一般臨床家、矯正専門医の両諸兄にぜひお手にとってご覧いただきたい良書である。

大好評書第2弾! 患者説明力に自信が持てる1冊! このまま使える Dr。もDHも!歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本 2患者も納得のトピック15

天野敦雄/荒川浩久/石橋 淳/稲垣幸司/井上高暢/押村憲昭/加治彰彦/河井 聡/黒嶋伸一郎/里 美香/佐藤文明/澤瀬 隆/白水雅子/砂田勝久/高柳篤史/谷 名保美/築山鉄平/寺崎崇人/西村英紀/野間俊宏/浜野美幸/平尾直美/牧野亜紀子/矢野貴子/米田俊之・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部)定価 7、590円(本体6、900円+税10%)・152頁 評 者 若林健史(東京都・若林歯科医院) 『歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本』をご存知だろうか。2017年に出版された、言わずと知れたベストセラーだ。 今回はその第2弾として、最新の15トピックスをまとめた『歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本 2』が完成したと聞き、私も興味深く読ませていただいた。  本書で取り上げられている15のトピックスは、患者さんから質問されることの多い分野のうち、とくに私たちが「何となく知っている」けれどはっきりと説明しづらいもの、いわゆる諸説あって返答が曖昧になりがちなもの、口で説明するだけではわかってもらいにくいことなど、まさに「どう説明すればいいの?」と迷ってしまうところに全力でフォーカスされている。 フッ化物応用や加熱式タバコ、小児の口腔機能発達不全症、成人の矯正治療、金属アレルギー、PMTCや歯周病に至るまで、多くのトピックスがまとめられているが、どれも「患者さんにどう説明するか」という目線で書かれているので、非常に読みやすい。 そして、さらに知識を深めたい読者に対しては、より詳しい内容も併記されているのがありがたいポイントである。 私も歯科医師として勤務する前日に禁煙して成功してから早41年のため、流行りの加熱式タバコと電子タバコの違いや、日本で認可販売されているものと海外販売品の成分の違いなど、新たに勉強になることも多かった。  さらにこのシリーズで特筆すべきは、巻末の付録である。それぞれのトピックに対して1枚の患者説明用シート(切り離して使えるA4サイズ)が付いてくるのだが、それが非常に使いやすく考えられている。 たとえば、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の説明用シートには、「これらの薬を飲まれていませんか?」として、MRONJを引き起こすリスクのある薬が包装シートの写真付きで示されている。 これを見れば、歯科医師もお薬手帳と照らし合わせて確認できるのはもちろん、患者さんも自分が服用している薬があればすぐに気が付くことができるはずだ。他にも、「きれいな歯並びのチェックポイント」のシートでは、乳歯列から永久歯列にかけての理想的な歯列の写真とともに、何歳頃にどのようなポイントをチェックすればいいのかが一目で分かるようになっている。 「金属アレルギー」のシートには、金属アレルギーの特徴的な症状がいくつかイラストで紹介されており、院内に掲示しておくのもよいだろう。  読者の皆さんは、勉強熱心で、さまざまな分野を学び、つねに知識のアップデートをされている方が多いと思う。 そのような方々にも、1冊で幅広い分野にわたって最新の知見が得られる本書のような書籍は、非常に有用であろう。 また院内に1冊あれば、スタッフによって説明が異なるなどの問題も起きづらく、わかりやすい説明を求める患者さんの期待にも応えられるはずである。 ぜひ一度、手に取ってみてほしい。

小さな子を持つ親から歯科医療従事者まで、睡眠を知るのに最適な1冊 眠りで子どもは変わる─健康な子どもを育むメソッド─

Sharon Moore・著日本小児口腔発達学会/井上敬介・監訳小川裕一郎/川島大輝/佐藤泰隆/佐藤 涼/鈴木隆太郎/山口陽子/渡邊有沙/渡邉一樹・訳クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 3、300円(本体3、000円+税10%)・240頁 評 者 外木守雄(亀田総合病院睡眠外科・睡眠医療歯科専門医) “寝る子は育つ”という言い伝えどおり、子どものより良い成育には、適切な質と量の睡眠が大切である。 本書は、米国の言語治療訓練士(speech pathologist)であるMs。 Sharon Mooreにより、子どもの睡眠衛生指導について一般人を対象に書かれた教書である。  欧米では、言語治療士、睡眠心理士、作業療法士などが睡眠衛生指導を行うことが多い。 本書の内容は、睡眠医療に携わる専門家には“ごく当たり前の事”ではあるが、日本の臨床歯科医療の現場では馴染みの無い内容ではないかと推察する。 しかし、本書で書かれていることは、歯科医師が睡眠歯科治療を行ううえで知っておくべき内容で、歯科衛生士も含めて睡眠衛生指導を行う場合、必須の内容である。さらに、自分の子育てにとっても有益な情報である。  日常の歯科診療では、睡眠医療にあまり馴染みはないと考えているかもしれないが、実は多くの歯科治療が、密接に睡眠関連呼吸障害(SDB)と関連している。歯冠補綴、欠損補綴、歯列矯正などで歯列が変わることで口腔容積が容易に変化し、舌位置の変化をともなって、結果として気道に変化が起こり呼吸通気性を阻害することがある。 こうして睡眠時の呼吸が悪くなると、睡眠の質も悪化することが知られている。  現代日本では、人々は質の良い睡眠を取るためにさまざまな情報を求めている。子どもたちは、成長発育のために多くの酸素を必要としており、生理的に呼吸努力が強く、大人のような無呼吸は発生しづらいといわれている。 すなわち、子どもたちは大人に特徴的な「閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)」、つまり息が止まることは起こしにくいが、上気道に何らかの問題があると「イビキ、低呼吸」の症状が特徴的な「上気道抵抗症候群(UARS)」を起こしやすい。 このUARSは、子どもの成長発育にとってさまざまな障害をもたらすことが知られている。しかも、その原因の多くは歯・口腔・顎顔面にある。  本書の「専門家との連携」の項(P185)で「歯科医師は、SDBやOSAの症状に対する気道のスクリーニングをすると同時に、口や顔の成長、そしてそれが気道に及ぼす影響を特定することができます」と記載されている。 多くの歯科医師がMs。 Sharonの期待に応えて、口や顔の異常に気づき、それが気道に及ぼす影響を特定して、適切な治療を行えるようになってほしいと切望する。  OSAに関する医学が進んだ今、治療に抵抗する高血圧症や理由が不明な循環器疾患について、循環器科医はその背景にOSAがあることを考えて診療したほうが良いといわれている。 そのように、歯科でも通常と違う様相、とくに顎骨の発育異常、歯・咬合の変化があった場合、OSAを疑うように習慣づけてほしいものである。Airway Dentistryを提唱する。 『眠りで子どもは変わる』は、多くの歯科医療従事者にとってとても有益である!

tags

関連記事