2009年に現地活動を始めてから、今年で15年になります。その間にはコロナ禍で海外渡航が制限された期間もありました。それでも現在まで活動を継続できているのは、われわれだけでなくカンボジアの方々もともに活動に取り組むことができたからだと強く感じています。 活動の当初から、現地の保健省や大学の歯学部にバックアップしていただいたおかげで、カンボジアの歯学部に通う学生や、カンボジアから広島大学に留学中の歯学部学生もメンバーの一員として参加いただいています。大学への進学や留学ができるカンボジアの学生は、都市部で育った富裕層の割合が高く、農村部の状況に疎いのが現状です。そこで、将来のカンボジアの歯科医療界を担う学生たちとは、国全体の歯科事情を良くしていこうという目標を掲げることにしました。そして、将来のカンボジアの自律的な歯科医療供給のために汗を流してきました。 活動の柱の1つとして、歯科疾患予防のための歯科保健指導を続けてきましたが、いつまでも日本から渡航したメンバーが主導していくのでは限界があります。日本のメンバーが現地の先生方に伝え、そこからたくさんの子どもたちに広めていくこと、また、これから小学校教員になる養成校の学生にも伝え、広範囲の小学校に広めていくこと(図1)、さらに、それらの研修の実施を、カンボジア人の歯科医師や歯学部学生の手でできるようにすることを段階的に進めています。最初は、私たちが前に立って指導することで日本から来たという物珍しさがあるのですが、やはり通訳さんを介すよりも、彼らが直接現地語で伝えられるほうが、よりきめ細やかな対応が可能となります。 図1 小学校教員養成校の学生への研修会。 カンボジアからの留学生たちが広島大学にいる間には、指導用の紙芝居の製作や翻訳などに関わってもらいました。近年では大学を卒業してカンボジアに帰国したメンバーも増え、彼らを核として指導を任せることができるようになってきました。また、現地の学生参加者の中から、卒業後も有志で手伝ってくれる歯科医師が出てきて、今では現地のコーディネートを半分任せたり、カンボジアの学生たちの取りまとめをお願いしたり、活動をともに企画して支え合える存在になってくれています。そんな仲間がいたからこそ、コロナ禍でわれわれが渡航できない期間にも、いつも訪れている小学校や地域で歯科保健指導を展開してもらうことができました(図2,3)。 図2 コロナ禍に実施したカンボジアの歯学部学生による歯科保健指導。 図3 コロナ禍に貧しい地域を訪ねての歯科保健指導(持参した米や水などの食糧が積まれています)。 2021年頃には、カンボジアでも新型コロナウイルス感染症が猛威を振るいました。その結果、強制的なロックダウンによって商業活動が行えず、歯科医院は収入がゼロになったこともあると聞きました。そんな状況においても、現地のメンバーはより困っている人々のために物資をかき集め、歯科だけに留まらない支援を届けようとしていた姿が印象的でした。2022年の後半になって、われわれが数年ぶりに現地を訪問できた時には、関係の方々や学校の先生方は変わらない笑顔で迎えてくれました。その姿を見た時に、人と人とのつながりのありがたさと温かさを痛感しました。 まだまだ厳しいカンボジアの現状と、それに対峙する人々が秘めた力強さとおおらかさから、われわれ自身も学ばせていただくことがたくさんあります。今後は、活動の主体をカンボジアのメンバーにバトンタッチし、われわれはバックアップにまわれることが目標です。それでも、ときどきは子どもたちの笑顔に会いにいきたくなります。カンボジアはそんな魅力に溢れるところだと感じています。 今年度も3月上旬頃に現地活動を実施する予定です。活動の様子は、Facebook(カンボジア歯科医療支援from Hiroshima)でもご紹介していますので、ご覧いただければと思います(了)。
著者岩本 優子 / 野村 良太
広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学助教 岩本 優子 / 広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学教授 野村 良太
広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学助教 岩本 優子
広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学教授 野村 良太
- 2009年、広島大学歯学部歯学科卒業。
- 2014年、同大学博士(歯学)
- 2016年より現職。
- 日本小児歯科学会専門医。日本障害者歯科学会認定医。
広島大学大学院医系科学研究科小児歯科学教授 野村 良太
- 2002年、大阪大学歯学部卒業。
- 2006年、同大学博士(歯学)。
- 2011年、同大学歯学部附属病院(小児歯科)講師。
- 2015年、同大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座(小児歯科学教室)准教授。
- 2022年2月より現職。
- 日本小児歯科学会専門医指導医。