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医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第5回:私が2011年を歯科のメモリアル・イヤーと位置づけるわけ

医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第5回:私が2011年を歯科のメモリアル・イヤーと位置づけるわけ
医科歯科ボーダレスな診療を目指して 第5回:私が2011年を歯科のメモリアル・イヤーと位置づけるわけ
消化器内科を専門とする私、「みえる情報」をできる限り読み取るように心がけてきました。みえる情報とは、直接視診はもちろん内視鏡検査・超音波診断装置・CT検査などの画像診断に至るまですべてです。では、みえているとはどういうことでしょうか?上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)に例えれば、記録した画像に写っていることと診断できていることは違います。胃粘膜の状態(これを背景粘膜といいます)については、Helicobacter pyloriの胃炎があるのか、過去にあったのか、未感染なのかなどを読み取ることと、そこに凹凸不整や色調の変化があれば、それは胃がんなのか違うのか、そこまでわかってこそ胃がみえているといえます。これは歯科における口腔内視診でも同様ではないでしょうか?網膜に写っていることと診療のレベルでみえていることは全然違いますよね。

胃がん検診としての胃部X線検査、いわゆるバリウム検査ですが、健診センターなどの施設内で検査する場合は、食道造影も撮影するためバリウムを飲み込んですぐの食道入口部から頸部食道付近も撮影します。この時に上顎骨・下顎骨も映り込んでいますので、残存歯数、補綴や根管治療、インプラントなどの歯科治療状況もある程度把握可能です。

その情報は食道~胃~十二指腸というこの検査本来の診断領域の診断には直接かかわるわけではありませんが、患者さんの情報として把握することは、意味と価値があります。知っているから認識できるということは、何も医療に限ったことではありません。さらには知らないもの、わからないものをもみる力が必要です。

1983年に胃粘膜表層にHelicobacter pyloriの存在が発見されました。酸性の強い胃内腔の粘膜表面に細菌などいるはずがないという先入観が発見を阻んでいたと推測されます。少なくとも内科、小児科、耳鼻咽喉科など日常診療で口腔内をみる医科医師にとって、歯科口腔と歯科医学を知ることは重要だと思っています。同様に、歯科医師も全身の生理・病理を含めた歯科以外の医学を知ることがきわめて重要だと思います。

そもそも医科と歯科の境界は、いつ、誰が決めたのでしょうか?医学部・歯学部での医師・歯科医師育成のための教育システムとして、また国家資格として明確に分かれていますが、それは制度上の都合とも思えます。医科歯科分断された歴史的背景は違う機会に譲ります。ともかく、研究室からベッドサイド(チェアサイド)の双方において、医科歯科ボーダレスなスタンスが必要なのではないかと考えています。

日々の診察や検査において、口腔およびその周辺の観察をルーティンで行うことを心がけています。対象は来院するすべての受診者であり、さらには同伴のお子さんのお口をみせていただくことも少なくありません。ワクチン接種で来院された時に「ちょっと口をみせてもらってもいいですか?」という私を奇妙に思っても当然ではありますが、待合室に貼った「なぜフロスすべきなの?」、「歯科口腔と全身の健康」というポスター、16種類もの歯ブラシが展示・販売されているのを見たうえでのことなので、受け入れは良好です。

約30年、ずっとこの領域に関心をもち、このようなことを実践してきました。内科医の私でも歯科医療を取り巻く環境の変化を感じています。今回のテーマにもふれたように、2011年は歯科医療界にとって記念すべき年(メモリアル・イヤー)だと思っています。この年には「口腔保健の推進に関する法律」(歯科口腔保健法)が公布されました。歯科口腔保健の推進に関する法律|e-Gov法令検索

その第一条に、「口腔の健康が国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしているとともに、国民の日常生活における歯科疾患の予防に向けた取組が口腔の健康の保持に極めて有効であること」が明記されていることは、歯科の先生方には釈迦に説法かと思いますが、医師をはじめとする医科医療者や一般の方に周知されているとは思い難いです。皆様も今一度読み返してみてはいかがでしょうか。

また2012年には「健康日本21(第2次)」が公表されました。ここにおいて、歯・口腔の健康は、健康寿命の延伸と健康格差の縮小、生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、生活を営むために必要な機能の維持及び向上、健康を支え守るための社会環境の整備という4項目を実現し、国民の健康増進を形成する基本要素のひとつとして位置づけられています。

従来までの歯・口腔の健康づくりは、「歯科保健」として歯科保健医療従事者を中心に取り組まれてきましたが、今後は保健と医療にかかわる多職種が連携して、個人、集団および地域レベルの口腔保健の改善へとパラダイムシフトする必要性を支持するものと理解しています。私の歯科口腔への情熱の源泉は、患者さんの将来の人生を健康的でより良いものにしたいという思いに他なりません。

口腔の健康は全身の健康につながる
口腔の健康の問題が全身の健康の問題を引き起こす

医聖ヒポクラテスが紀元前に指摘していたこのことは、2000年以降になってようやく数々のエビデンスが構築されつつあります。今後ますます医科歯科共同の臨床研究・疫学調査が進むことを願っており、微力ではありますが、そのお手伝いができればと思っています。2011年は私にとっても記念すべき年です。この年に開業しました。それに次ぐ、あるいはそれ以上に大きな出来事がありました。それはK先生の著書との出会いです。「何にもしていないとき人間の上下の歯は接触していません」という一文を読んで「眼から鱗の落ちる思い」でした。

この続きは次回(最終回)にて。

著者細田正則

ほそだ内科クリニック 院長・医師・医学博士

略歴
  • 1964年 米国ミシガン州生まれ
  • 1990年 京都府立医科大学卒業
  •     医師免許取得
  •     京都府立医科大学第三内科(現在の消化器内科)入局
  • 1998年 京都府立医科大学大学院修了 医学博士号取得
  • 2011年 ほそだ内科クリニック 開院
所属学会・専門医など
  • 日本内科学会認定内科医
  • 日本消化器病学会認定消化器病専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医
  • 日本医師会認定産業医
細田正則

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