砂糖の過剰摂取の害は齲蝕のみならず、全身疾患においてもよく知られ、2015年にとうとう世界保健機関(WHO)から糖類摂取ガイドライン が出版されました。その文書の中で論じられているのは ”遊離糖類 free sugars” 。この位置づけがなかなかややこしいので、糖類の分類をここで整理してみましょう。 まず、大元の炭水化物には主に4つの種類があります。 •単糖類(1 つの糖分子:グルコース、フルクトース、ガラクトース) •二糖類(2つの単糖類の糖分子:スクロース、ラクトース、マルトース) •オリゴ糖類(2〜10 の単糖類の糖分子:ラフィノース、スタキオース) •多糖類(10を超える単糖類の糖分子:でんぷん、グリコーゲン、セルロース) 注)二糖類はオリゴ糖類の中に入りますが、ここでは二糖類とオリゴ糖類を分けて考えます。 二糖類もオリゴ糖類も多糖類もすべて分解されると単糖類になります。 さて、ここでオリゴ糖と多糖類を忘れ、単糖類と二糖類だけを見ます。これらを合わせて “糖類 sugars” と呼び、人工的に食品や飲料に添加する糖類から、自然に存在する野菜、果物、牛乳などにある単糖類と二糖類をすべてひっくるめたのが ”総糖類 total sugars” です。 これに対して、”遊離糖類 free sugars” は、工場やお店や食卓で、人工的に飲食物に添加する糖類、その他に自然に存在する野菜、果物由来でもそのままの形から人工的に取り出した(遊離した)糖類が含まれます。蜂蜜、シロップ、ジュースや濃縮ジュースやピューレした野菜や果物が入ります。そのままの形が残っていれば、人工的に調理したりドライフルーツにしたりしていても、”遊離糖類 free sugars” には入りません。乳製品もこれには入りません。 また、似たような概念で、”添加糖類 added sugars” は、すべて ”遊離糖類 free sugars” に入ります。つまり、”添加糖類 added sugars” は ”遊離糖類 free sugars” の十分条件です。”遊離糖類 free sugars” のうちジュースやピュレにした野菜や果物は ”添加糖類 added sugars” には入りません。 一方、齲蝕原性については、”遊離糖類 free sugars” 以外にもあるものが存在します。ここがややこしいところかもしれません。”総糖類 total sugars” に入らないオリゴ糖類やでんぷん、”遊離糖類 free sugars” に入らないドライフルーツや生、または調理していてもそのままの形が残る果物に齲蝕原性があります。 上の図は、主要な炭水化物、”総糖類 total sugars” 、”遊離糖類 free sugars” 、”添加糖類 added sugars” の関係を示したものです。赤字は齲蝕原性があるものを示し、赤字の太字はWHOの糖類摂取ガイドラインで総エネルギー摂取量の5%未満に抑えるように推奨されている ”遊離糖類 free sugars” を示します。 さて、写真の干し柿、WHOの糖類摂取ガイドラインに入るでしょうか? はたまた齲蝕原性は? 謝辞 このコラム記事の執筆にあたって、貴重な助言をいただきました Dowen Birkhed 名誉教授に心からお礼申し上げます。 参考文献 World Health Organization. Guideline: sugars intake for adults and children https://www.who.int/publications/i/item/9789241549028 Birkhed D, Tanzer JM. Glycogen synthesis pathway in Streptococcus mutans strain NCTC 10449S and its glycogen synthesis-defective mutant 805. Arch Oral Biol. 1979;24(1):67-73. doi: 10.1016/0003-9969(79)90177-8. Giacaman RA. Sugars and beyond. The role of sugars and the other nutrients and their potential impact on caries. Oral Dis. 2018 Oct;24(7):1185-1197. doi: 10.1111/odi.12778. Epub 2017 Oct 6. Mela DJ, Woolner EM. Perspective: total, added, or free? What kind of sugars should we be talking about?. Advances in nutrition. 2018 Mar 1;9(2):63-9.
著者西 真紀子
NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー
略歴
- 1996年 大阪大学歯学部卒業
- 大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
- 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
- 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
- 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
- 2018年 同大学院修了 PhD 取得
- NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP):
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