9歳の男児が来院した。前歯部には多量の歯垢が付着している。前回、歯磨き指導をしたのに、この有様だ。 これでは、すぐに齲蝕や歯肉炎になることが目に見えている。 我々は、惨憺たる気持ちになる。 この様に、いくら指導をしても、思うように磨いてくれない。 これだけ言ってあげたのに、磨いてくれない・・・なんと“かわいそうな私”と思った事はなかろうか? ここには“かわいそうな私”と“困った患者”という関係がある。 しかし、何かアプローチをしなければ「かわいそうな私」と「悪いあなた(患者)」の問題は解決しない。 ところで、聞き入れてくれない患者は、本当に悪者でだろうか? かわいそうなのは、私ではなく患者ではないだろうか。 悪者は、あくまで齲蝕・歯周疾患・歯垢である。 例えば、病気で入院中の方がいたとする。 かわいそうなのは、その方だ。 悪者は、あくまで病気なのである。 歯が痛くて泣いて、治療をさせてくれない4歳の子どもがいたとする。 悪いのは分別のつかない子どもだろうか。 筆者は、齲蝕やそれを起こした背景だと思うことにしている。 我々の仕事は、その様な方の手助けだ。 病気を退治するために、何をすべきかを考えることが仕事である。 どうも我々は、患者を悪者にするクセを持っているようだ。 悪者を齲蝕や歯周疾患にし、患者を味方にした方が得策ではないだろうか。 まず“相手に対して何ができるか”をもう一度、整理し考え直す必要がありそうだ。 そのためには、指導する立場の我々自身が変わる必要がある。

著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
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