巨匠・Tarnow氏とChu氏による単独歯インプラントの決定版! シングル・トゥースインプラント 前歯部および臼歯部抜歯窩に対する低侵襲アプローチ
Dennis P. Tarnow/Stephen J. Chu・著 鈴木仙一/森本太一朗/脇田雅文・監訳 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 24,200円(本体22,000円+税10%)・240頁 評 者 近藤尚知 (愛知学院大学歯学部冠橋義歯・口腔インプラント学講座) インプラント治療の歴史は50年を優に超え、その間、長期安定性獲得のためにインプラント体の表面性状の改善をはじめ、多種多様なエビデンスが蓄積されてきた。それに続く臨床研究の結果も良好で、近年では、“インプラントは歯の欠損に対してもっとも効果的、かつ予知性の高い治療法”として、全人類の健康に寄与している。そして、診察・検査・診断から、埋入手術、補綴処置、そしてメインテナンスに至る一連の術式が確立され、現在、インプラントは、歯の欠損補綴を行ううえでなくてはならない治療オプションとなっている。 一方、国内では8020運動の達成率が50%を超えた頃よりインプラント治療の認知度が上がり、長所・短所が周知されてきたこともあるのか、単独歯欠損に対してインプラントを希望する患者が増えてきた。すなわち、歯を最初に欠損した際のファーストチョイスはブリッジからインプラントへと変わりつつあり、インプラントの需要も複数歯欠損から単独歯欠損に移行しつつある現状がある。このような時代背景において、『シングル・トゥースインプラント』の日本語版が発刊されたのは、まさしくタイムリーであり、これからインプラント治療を始めようとする若手歯科医師にとっては、格好の教科書となることであろう。一方、エキスパートと自負されているベテラン歯科医師にとっても、患者側の要望であり、かついまだ解決しきれない大きな課題に“低侵襲治療”があり、本書はこの“低侵襲治療”を最重要テーマの1つとして取り上げている。インプラント治療を長年にわたり手掛けてきたエキスパートにとっても、課題解決の一助となることは間違いない。本書では、低侵襲な抜歯方法についてもふれており、抜歯ひとつにおいても、そのアイデアと工夫が直感ではなく、論理的であることに敬服させられる。さらに、審美的な治療を達成するために、“Dual-Zoneマネジメント”を提唱し、前歯部のインプラント補綴をより科学的に解説している。このコンセプトは前歯部のインプラント治療、とりわけ抜歯即時埋入・即時修復を行う際にはぜひとも参考にしていただきたい。生涯学習という言葉があるように、時代の変化に取り残されぬよう研鑽し続けなければならいと再認識させられるコンセプトや症例写真が凝縮されており、目次を見ただけでも本書の奥深さが感じられる。 現代のインプラント治療は、いわゆるシステマティックな治療方法として確立をみたと感じていたが、本書を手に取ると、まだまだ発展する余地があり、われわれ歯科医師が今後もインプラント治療を発展させていかなければならないと鼓舞させられる。本書は、ビギナーから各領域のエキスパートまで、どのレベルの読者にとっても興味深い内容を包含しており、新たな治療に取り組む際、また日々の治療の再確認のためにも、ぜひとも傍らに置きたい1冊である。思ったように改善しないエンド症例を治癒に導いてくれる指南書 悩めるエンド難症例 成功する歯内療法
倉富 覚、・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 14,850円(本体13,500円+税10%)・196頁 評 者 平井友成 (福岡県・平井歯科クリニック) GPが日常臨床で日々行う根管治療では、読者の先生方は数多くの症例をこなしているぶん、治癒に向かわないような症例もきっと抱えているに違いない。本書は困った時に助けてくれる、レスキュー隊のようなものである。 本書は難症例が生じる原因を4つに分類し、それぞれについて原因と診断、その対処法を詳細に、そして明確に記載している。教科書には載っていないような盲点への対応も鋭く的確に解説されており、目から鱗で非常に参考になり、改めてエンドについて勉強させていただいた。 また、他の成書では否定されているような手法も紹介されている。しかしこれは、著者が師匠(尊師)である故下川公一先生から学んだ概念を引き継ぎ、そしてアレンジし、結果を出すことを第一に考えて治療を行った。臨床家ならではの回答と言えよう(とはいえ著者は開業の傍ら大学院に通い学位を取得している)。 このことは、たまたまではなく、狙って治した20年を超えるような症例が、臨床的に間違っていないことを物語っている。最終章に「経過観察の重要性」が述べられているが、“長期にわたり良好な治療結果が出ているエクスペリエンスが、揺るぎないエビデンスである”ことに私も非常に共感した。これを言うためには、治療内容のみならずデンタルエックス線の位置付けがきちんとされていることが重要で、そういった面での筆者の臨床へのこだわりも読み取ってもらいたい。 エンド難症例を解決するため、奇をてらったような処置法も本書内ではみられるが、これはけっして“良い子は、まねしないでね”と言っているのではなく、通法で行き詰まった時にこそまねてほしいというメッセージである。“こんなこと、同じようにできない”と思うのではなく、患歯を治し、患者に喜んでもらうために“結果が出るまで粘り強く行う”ことの大切さを感じてほしい。難症例をいとも簡単に治しているのではなく、多大な労力を払って治癒に導かれた症例は、そこに臨床の泥臭さ、それとともに奥深さ、おもしろさを教えてくれる。 驚くべきことは、本書の症例を含めたエンド治療を、筆者は基本的に保険診療で行っていることである。歯科治療の価値を高めるため、私は自費で根管治療を行うことに賛成であるが、筆者は最高のクオリティの治療であるにもかかわらず保険診療で(その後の補綴を自費とした症例は散見されるが)行っている、ラストサムライのような人物である。このことも、本書を通して感じていただけるとうれしく思う(近年,大学病院でもエンド治療の自費化が進んでいるようで、この点は無理にまねをする必要はないであろう)。 堅苦しさがなく、まるで講演を聴講しているかのような本書は、読後感もスッキリしていて好感がもてる。読者の皆様には、機会があれば著者のユーモアに富んだ、実践的な内容の講演をぜひ聞いていただきたい。樹脂情報,設計例が大幅に追加・刷新されたアップデート版 ノンメタルクラスプデンチャー 増補新版 長く使える設計の原則からメインテナンスまで
谷田部 優・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 13,200円(本体12,000円+税10%)・200頁 評 者 大久保力廣 (鶴見大学歯学部口腔リハビリテーション補綴学講座) 超高齢社会の進展と残存歯数の増加から部分歯列欠損の患者が増大しており、パーシャルデンチャーの重要性が再認識されている。ところが、保険診療を含めてパーシャルデンチャーのほとんどが金属クラスプを利用しており、必ずしも患者満足度が高いとはいえない。患者の要求がさらに多様化、高度化してきたことから、いわゆるノンメタルクラスプデンチャーが患者に喜ばれる義歯として広く欠損補綴臨床で普及してきた。しかし、審美性のみを優先してパーシャルデンチャーの設計原則が無視されれば、残存諸組織に重篤なダメージを与えることになるはずである。 2013年、(公社)日本補綴歯科学会は当時「ノンクラスプデンチャー」と呼称されていた弾性義歯を補綴学的に分析、評価し、多くの疑問に有益な示唆を与えるポジションペーパーを作成した。その中心でご尽力されたのが本書の著者・谷田部 優先生である。谷田部先生は20年近く東京医科歯科大学の部分床義歯補綴学講座でパーシャルデンチャーの臨床、教育、研究に従事された著名な補綴医で、リジッドサポートを含めわが国のパーシャルデンチャー補綴を牽引された先生である。当時、不明な点が多かったノンメタルクラスプデンチャーに関する臨床家への適切な指南書が望まれていたことから、谷田部先生は2015年に『ノンメタルクラスプデンチャー 長く使える設計の原則からメインテナンスまで』を執筆された。ノンメタルクラスプデンチャーの設計や素材、適応症、製作の要点、メインテナンスに関して詳しく解説されており、出版時から大好評を博して4回にわたり増刷された。 今回、発刊から約9年が経過したことから、その間の臨床経験や研究論文をもとに、新たに設計の考え方を追加した増補新版が刊行された。本書は13章から構成されており、1〜3章はノンメタルクラスプデンチャーの概要、樹脂の種類、適応について、4〜10章に設計の考え方や具体例と臨床の実際、11〜13章に患者指導、メインテナンス、術後経過が、たくさんの写真やイラストを用いて非常にわかりやすく記載されている。とくに19ケースの設計例は秀逸で、咬合支持を中心とした症例の特徴と設計の考え方が示されているので、実際の臨床でパーシャルデンチャーを製作する際の非常に有益な指標となるはずである。また、数多くある樹脂材料の特徴と使い分けを明示しており、目の前の症例に対する樹脂選択の一助となるようになっている。また、金属床義歯の製作過程や経過症例も大幅に加筆されているとともに、Q&Aコーナーも設けられ、とても見やすい患者説明用BOOKまでも用意されている。 本書は単にノンメタルクラスプデンチャーの解説本にとどまらず、パーシャルデンチャー全般の基礎から臨床に精通する貴重な一冊であると思われる。多様化する患者ニーズにエビデンスベースの インプラント治療解説を Q&Aでわかる インプラント治療ガイド2 ー患者さんがわかりやすい治療計画ー
勝山英明・監修 甘利佳之/安斉昌照/大谷昌宏/小川秀仁/ 上浦庸司/河合竜志/川﨑雄一/北林秀一/ 佐久間 栄/高野清史/田中博子/新村昌弘/ 松山文樹・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 3,630円(本体3,300円+税10%)・88頁 評 者 田中譲治 (千葉県・田中歯科医院) 本書を手にとった際に感じたことは、まさにインプラント治療を手がける臨床家が待ち望んでいたガイドブックではないかということである。本書は,1つの質問と回答を見開きで構成し明確にまとめ上げている。患者さんからよく聞かれることや疑問に思うであろうことを1〜6章に分けてあり、吟味された計40の質問が各見開き左上に記載され、答えは各見開き右上にわかりやすく端的に記されている。そして、その下には答えの裏付けがエビデンスとともに詳述されている。2022年に出版された「Q&Aでわかる 専門家が作った患者さんのためのインプラント治療ガイド」の専門的内容をよりふみ込んでアップデートした本である。 私ごとであるが、40年近くインプラント治療の世界に携わり日々インプラントに関して患者さんとやりとりをしているが、すべての質問にエビデンスを基に的確に答えることは困難である。すなわち、本書は初心者の先生はもちろん、ベテランの先生にとっても非常に有用の一冊である。さまざまな症例や多様化した患者さんのニーズに対して、エビデンスに基づいた治療計画を理解してもらうことができるのである。 本書の活用法として、待合室に置いたり、これはという患者さんに差し上げたりするだけでなく、スタッフに配布することもお勧めする。前述した見開きの上のQ&Aを読んでもらうだけでも大いに診療のプラスになるだろう。ご存知のように患者さんが気軽に聞けるのが院内スタッフなので、歯科衛生士、歯科助手、そして受付の方がインプラントのことや治療内容を聞かれた時に自信をもって答えられることがインプラント患者の増患につながるといえよう。 具体的な内容に触れてみると、まず最初の質問が「インプラント治療は他の治療法と比べて,どう優れているの?」である。よくある質問だが読者の先生方はうまく答えられるだろうか? 本書では入れ歯、ブリッジ、インプラントそれぞれの生存率だけでなく、前後の歯の10年生存率が56%、92%、98%であることも示している。インプラントは周囲の歯を守ると単に説明するだけでなく、エビデンスを基に明確に答えることができるのである。2番目の質問は「インプラントって一生ものなの?」である。正確で適切な回答に悩む先生も多いだろう。ぜひ本書を読んで学んでもらえればと思う。このような患者さんの関心が高い多くの質問に的確に答えており、まさに臨床家にとってうれしい書籍である。 監修の勝山英明先生をはじめ執筆陣の顔ぶれを見れば、本書がいかに信頼あるエビデンスを基にし、臨床に即したQ&A形式のガイドブックであるかが伺える。勝山先生の序文にあるように日本のインプラント治療の浸透率は先進諸国の1/3程度、韓国の1/10である。欠損治療として患者さんに多くの福音をもたらすインプラント治療が本書を通じて正しく広く普及することを期待したい。ぜひ一読をお勧めする。