小児歯科診療で行きずまった場合にはパターンを、パターンを変えるのも一つの方法だ。 これまで何度も失敗してきたのだから、これまでのパターンを変えない限り成功するはずがない。 これまで“小児への対応”や“言葉がけ”について述べてきたが、保健指導も同様である。 “もう一度言えばわかるだろう”という淡い期待を捨て去って考えよう。 “押してもダメなら引いてみな。それでもダメなら廻してみよう”という発想である。 そこでアドラ-心理学の登場である。 この心理学は、「嫌われる勇気」で一躍有名になったので、ご存じの方もおられるだろう。 スタッフや患者とのコミュニケーション作りに非常に役に立つ。さて一般的な心理学は、“何らかの原因”が“現在の行動につながる”と考える。 例えば、“めんどくさい”・“歯に対する意識が低い”等の原因があるから、“歯を磨かない”という行動にでる。 ところがこの心理学では、「過去の原因が現在を決めるのではなく、頭の中にいだく未来の目標に向かって、われわれは進んでいくのであり、未来の目標が現在を決める」と考える。 すなわち具体的なイメージできないから“歯を磨かない”となる。 だからこそ、未来をイメ-ジできる伝え方が大切だ。 例えば、低年齢児で乳前歯に齲蝕が初発したとする。 このままでは乳臼歯にも広がり、治療が困難となる。 そこで例え話で、未来をイメ-ジできる話をする。 「ミカン箱のミカンが一つ腐ると、周りも腐りはじめる。乳前歯に1本でもむし歯ができるのは、これと同じ状態です」と伝えると、このままではマズイなと思うだろう。
相手を変えるには、まず自分自身の伝え方を変える必要があるのだ。 自分が変えられないのに、相手が変わるはずがない。 これまでの指導は、磨いてもらおうと思い、恐怖心をあおることが多かった。 それは、”相手に歯を磨いて欲しいから”という思いからの言葉であった。 でも、これは本当に正しいのだろうか? この様な伝え方を続けていると人間関係はどうなるだろう? そこで、アドラー心理学を保健指導に応用して考えてみよう。

著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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