ベテランの歯科医師から デジタルネイティブまで 臨床に有益なマニュアル 必ず上達 デジタル時代の歯冠修復
萩原芳幸・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 12,100円(本体11,000円+税10%)・172頁 評 者 南 昌宏 (大阪府・南歯科医院) デジタル全盛の現在においては、CAD/CAM機器、修復材料、接着セメントなど選択肢が多岐にわたり、それらの組み合わせをどうすればよいか戸惑うとの声もしばしば聞く。また昨今、歯科技工士の就労人口減によりCAD/CAM機器による技工過程の効率化も進み、デジタル化が歯冠修復治療の主流にならざるを得ない現実にわれわれは直面している。このような状況下で今回、本書が上梓されたのは必然と言えよう。 Chapter1では現在のさまざまな修復法と材料が一覧表に整理され俯瞰でき、デジタル時代の支台歯形成の鉄則が明確に示されている。しかし、そのような形成を行う際にも、基本になる全部鋳造冠の形成時の注意点は生きていることがていねいに示され、読者おのおのが再確認できるように構成されている。後半にある各種支台歯形成の削除量の違いや、形成の重要な注意点のイラストは臨床的にたいへんわかりやすい。 Chapter2〜6は本書の核となる各種支台歯(窩洞)形成の実際について、使用するバーの選択も含めて細かくステップバイステップで解説され、ミスしやすい箇所も明瞭に理解できる。各種支台歯形成の実際の写真が全部鋳造冠と比較できて形成のイメージが習得しやすい。正しく自習できるように構成されているのでぜひとも活用していただきたい。 これらの章に記されていた要件がきちんと具現化されたかをチェックできるのは、形成後のプロビジョナルレストレーション製作時である。Chapter7では、この製作法について従来のアナログ方式、口腔内スキャナーなどの機器を利用した方式のワークフローを整理し、各法の詳細な手順が紹介されている。特にCAD/CAMで製作するプロビジョナルレストレーションの利用目的に対する言及は興味深い。 CAD/CAM機器の発達とともに修復材料の種類もバリエーションが急激に増えてきた。Chapter8では、それらの材料ごとの接着方法について整理され、術者だけでなくアシスタントにもわかりやすい図解となっているため、スタッフも必読の章である。ジルコニア冠やCAD/CAM冠からPEEK冠の修復法に至るまで、接着手技のステップ、研磨法について親切ていねいに解説されていて、このマニュアルどおりに行えばまず失敗は免れるだろう。 現在ではCADが自動的に歯冠形態のデザインを提案してくれるのはありがたいことではあるが、われわれははたして適切な歯の形を明確に理解し表現できているのだろうか? そのような状況下では支台歯形成自体がかなり怪しく、おぼろげなものになり、不本意な結果を招来してしまうものと考えている。 本書は、それらの霧を除き、成功への指針を明確に示してくれていて、アナログ時代からのキャリアのある先生方からデジタルネイティブな若い先生方に至るまで、幅広い世代の臨床家にとって有益な情報整理マニュアルであると確信する。
現場力・チーム力を 高める1冊! 患者さんにしっかり説明できる 3 口腔機能発達不全症読本 基本知識・保険算定・医院実例 丸わかり
岩本 勉/齊藤一誠/松村香織/鈴木宏樹 ・監著 若槻雅敏/安藤壮吾/押村憲昭/稲吉孝介/葉山康臣/馬場 聡/竹山孝明/吉村聡美/福井朝望・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 9,900円(本体9,000円+税10%)・168頁 評 者 本田壮一郎 (熊本県・東町グラン歯科) 『患者さんにしっかり説明できる3 口腔機能発達不全症読本』は『患者さんにしっかり説明できる口腔機能低下症読本』の待望の第三弾であり、今回は小児の口腔機能発達不全症にフォーカスした内容となっている。歯科医療従事者が、患者や保護者に対して的確かつわかりやすく説明できるようになることを目的としており、現場ですぐに活かせる実用書である。開業歯科医院における臨床の現場で頻繁に直面する課題も取り上げつつ、前作以上に実践的な内容へと踏み込んでいる。 本書では、子どもの口腔機能に関する多面的な視点─摂食・嚥下機能、咀嚼、発音、口唇閉鎖、呼吸など─を統合的に捉える姿勢が貫かれている。歯科医師だけでなく、歯科衛生士や小児科医、言語聴覚士、保育関係者などとの連携の重要性もていねいに語られており、また他職種との連携もイメージしやすい内容となっている。当法人でも取り入れられることが多くあり、他職種との共通の視点を得るために非常に参考になった。 当法人では数年前より小児の予防矯正に積極的に取り組んでおり、現在は管理栄養士が5名ほど在籍している。管理栄養士は入社当初、歯科助手業務が主であったが、現在は乳児・小児への食事指導や栄養指導のほか、適切な成長発育を促すアクティビティプログラムも歯科衛生士とともに担当している。彼女たちにもぜひ本書を読んで勉強してもらいたいと感じた。 先ごろ、骨太の方針2025が閣議決定され、9年連続で歯科の文言が記載されている。加えて、数年前より歯科の分野の中でも口腔機能低下症は重点項目の一つとなり、国の方針としても嚥下や口腔機能に重きを置いていることが見受けられ、保険診療において小児口腔機能管理料などの算定可能な内容も拡充されてきているように感じる。本書は、その口腔機能発達不全症の診断と保険点数算定にも触れているため、わかりやすく有用である。 そのほか、保護者との対話例といった具体的な説明に関する工夫や、実際の診療場面を想定した記述が豊富に盛り込まれているため、すぐに日常臨床に応用できる内容となっている。これは患者との信頼関係の構築にも大いに役立つことと思われる。さらに、図解やイラストも効果的に用いられており、新人のコデンタルスタッフでもスムーズに読み進められる内容である。 本書は、口腔機能低下症に対する理解を深めるだけでなく、それをどのように他者に伝え、行動変容を促すかというコミュニケーションの技術を高めてくれる一冊でもある。現場で「どう説明したら伝わるのか」と悩んでいる歯科医療従事者にとって、非常に心強い実践的なガイドブックであり、まさに“現場力”を高めるための必読書といえるだろう。前シリーズとともに、本書の購入をおすすめしたい。
実践してきた試行錯誤の 記録であるからこそ、 説得力がある1冊! 予防最前線! 定期管理型歯科医院の つくりかた すぐに使える55の実践ノウハウ
牧野泰千・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 6,600円(本体6,000円+税10%)・88頁 評 者 天川由美子 (東京都・天川デンタルオフィス外苑前) 日本の歯科医療において「予防」という考えが注目されるようになったのは、評者の認識では2000年頃からである。「治療中心の歯科医療から、守る医療へ」というパラダイムシフトは、当時の歯科界にとって衝撃的であり、「治療よりも予防」という考えは、まるで今の仕事を否定されるような印象さえあったと記憶している。 しかし、それから25年。今や「予防歯科」は広く認知され、定期管理型歯科医院も全国に次々と誕生している。その背景には、初期からその価値を信じ、苦労を重ねながら実践を積み重ねてきた歯科医師たちの存在がある。本書の著者、牧野泰千先生もその1人である。 牧野先生は評者にとって、かねてより親しくさせていただいている後輩であり、その成長の過程を間近で見てきた。開業当初は、診断力と治療技術の向上に全力を注がれていたが、ある時期から予防型の歯科医院を本気でめざし、診療システムの転換に取り組み始めた。その後はMTM(メディカルトリートメントモデル)やリスク評価の考え方を学び、実際の臨床にどう落とし込むかを真剣に模索していった。誰よりも素直に学び、ていねいに形にしていくその姿は、外から見ていても「かならず成功するだろう」と思わせる力があった。 本書は、そうした牧野先生の実践知が詰まった1冊である。構成は「院長の条件」から始まり、ブランディング戦略、データ活用と行動変容、組織づくり、そしてスタッフが安心して長く働ける環境づくりと各職種の役割まで、幅広くかつ具体的に語られている。 単なる理論ではなく、自らのクリニックで実践してきた試行錯誤の記録であるからこそ、説得力がある。とくに、スタッフに関するCHAPTERは、多くの院長にとって関心の高いテーマであり、PDCAサイクルの活用や評価制度、歯科衛生士・受付それぞれの明確な役割分担など、すぐに応用できる要素が豊富だ。 著者のスマイルケア西八王子デンタルクリニックは、今や地域で信頼される存在となり、「この歯科医院に行きたい!」と子どもたちが泣いて頼むというエピソードが象徴するように、患者との関係性においても高い評価を得ている。もちろん、ここまで来るには多くの困難があり、システムづくりやスタッフマネジメントで悩みながらも、1つひとつ課題を乗り越えてきた軌跡が、本書を通じて浮かび上がってくる。 本書は、単にマネジメント手法を紹介する本ではない。診療の本質、スタッフとの信頼関係、地域とのつながり、そして「守る医療」に向かう覚悟と哲学が詰まっている。予防型歯科医院をめざす方はもちろん、治療中心の歯科医師にもぜひ手に取っていただきたい。診療の視野が広がり、医院運営のヒントがきっと得られるはずである。 牧野先生の今後のさらなる飛躍を願い、筆を置く。















