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超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第5回:抗血栓療法中の患者さんへの対応

超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第5回:抗血栓療法中の患者さんへの対応
超高齢時代に役立つ 歯科に必要な全身疾患の基礎知識―病気をもった患者さんが歯科医院に来たらどうする?―第5回:抗血栓療法中の患者さんへの対応
一般歯科診療所で観血的歯科治療を行う際に対応に困ることが多いのは、抗血栓療法中の患者さんではないでしょうか?日常の歯科診療において、全身的になんらかの配慮が必要となる基礎疾患のうち、もっとも頻度が高いのは循環器疾患患者です。循環器疾患患者では抗血栓療法を行われていることが非常に多く、今回は抗血栓療法中の観血的治療について取り上げます。

抗血栓療法とは?

抗血栓療法とは、血栓が血管内に形成され循環系における血流が閉塞する血栓症の発症を抑制する治療法です。血栓は血小板が主に関わっている動脈内血栓と、主に凝固因子が関わる静脈内血栓に大別されます。抗血栓療法は、血小板や凝固因子の働きを抑えることを目的とする抗血小板薬ならびに抗凝固薬と、血栓除去を目的とした血栓溶解療法に分けられます。 抗血栓療法中の患者さんは観血的治療時の出血に注意が必要です。しかし、現在の診療ガイドラインでは抜歯などの口腔内観血的治療時の抗血栓薬休薬は推奨されていません(日本有病者歯科医療学会、他2学会:『抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年改訂版』)。総合病院内に勤務していると、他科の医師から歯科診療所からの照会状に関する相談を受けることがありますが、問題となる内容で多いのは歯科診療所からの抗血栓薬休薬依頼です。 特に心房細動の患者さんで心腔内血栓予防のため抗凝固薬を使用している場合、休薬すると心原性脳梗塞という大きな脳梗塞を引き起こすことがあります。また、冠動脈ステント留置後の抗血小板薬を休薬すると、重篤なステント内血栓を形成することがあります。抜歯の際は医科に抗血栓薬の休薬を依頼するのではなく、しっかりと止血できるようわれわれ歯科医師側が準備を整えることが重要と考えます。

抗血栓療法中の観血的歯科治療はここに注意!

では、抗血栓薬を休薬せず抜歯する場合にどのような対策をしたら良いでしょうか?まず、事前準備として薬剤ごとに服薬状況、コントロール状況を確認します。ワーファリンはモニタリングの指標であるPT-INR値を確認し、治療域である1.6~2.6にコントロールされていることを確認します。PT-INR値は、少なくとも72時間以内の値を確認し、可能であれば抜歯当日に測定することが望ましいとされています。治療域を超えている場合は処方医へ投与量の調整を依頼します。DOACの場合は半減期が短く、血中濃度がもっとも低下しているタイミングで抜歯を行うのがポイントです。薬剤によって半減期は前後しますが、当院では内服6時間以降経過したタイミングで抜歯を行うようにしています。 また、重要なのは患者さんへの十分なインフォームドコンセントです。当院では術前にICを行う際に、後出血のリスクはあるが勝手に抗血栓薬の内服を中止しないこと/出血時のガーゼ圧迫のしかた/止血できない場合は当院できちんと対応すること/皮下血腫が出現する可能性があること/などをお伝えし、同意書を取得しています。 抜歯操作の際には周囲組織の挫滅を避け、出血の原因となる不良肉芽をきちんと処理します。出血時はガーゼでの圧迫を行い、圧迫で止血した後にスポンゼルなどを填入したうえで縫合するようにしています。複数の抗血栓薬服用中の患者さんや、骨削合をともなう抜歯など、後出血が予想される場合は抜歯窩のガーゼタイオーバーや止血床の装着を考慮します。このように事前に十分に対策を考えておくことで術後の出血トラブルを最小限にすることができると思います。 最終回となる次回は、ビスフォスフォネートなどの骨吸収抑制薬使用中の患者さんの歯科観血的治療時の注意点についてご紹介します。

著者松村香織

公立八女総合病院歯科口腔外科 医長

略歴
  • 2005年、九州大学歯学部卒業。
  • 同年、九州大学病院第一口腔外科に入局。
  • 2011年、九州大学大学院博士課程修了(歯学博士)。
  • 2016年、九州大学病院顎口腔外科助教。
  • 2018年より現職。
  • 日本口腔外科学会専門医、日本有病者歯科医療学会専門医、
  • 日本小児口腔外科学会指導医、日本抗加齢医学会専門医、
  • 日本顎関節学会暫定指導医、日本口腔科学会認定医、
  • 日本化学療法学会認定歯科医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、
  • 日本口腔ケア学会評議員。
松村香織

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