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歯磨き直後のとっておきの方法

歯磨き直後のとっておきの方法
歯磨き直後のとっておきの方法
フッ化物配合歯磨剤を使った歯磨き直後の行動について、どのようにするのが齲蝕予防効果を高めるのかを論じたレビュー論文があります(Pitts et al. 2012)。カリオロジー(齲蝕学)界の大物たちが著者に名を連ねたこの論文では、歯磨き後に水で洗口することで、せっかくのフッ化物を洗い流してしまうリスクについて警鐘を鳴らしていました。

Pitts N, Duckworth RM, Marsh P, Mutti B, Parnell C, Zero D. Post-brushing rinsing for the control of dental caries: exploration of the available evidence to establish what advice we should give our patients. Br Dent J. 2012 Apr 13;212(7):315-20. 


ここで推奨されていたのが次の3つの方法です。

1.「Spit, don’t rinse」法:歯磨き後にしっかり吐き出して、洗口は行わない。

2.「Post‐brushing Slurry Rinsing(PBSR)」:歯磨き剤を吐き出さず、少量の水(10ml)を加えてスラリー(糊状の液体)を口腔内に行き渡らせた後、吐き出す方法。

3.「フッ化物洗口液によるうがい」:歯磨き後に水ではなくフッ化物配合洗口液を用いる。


これらはいずれも、口腔内のフッ化物保持を最大化することを目的とした手法であり、患者指導において非常に重要なポイントです。

ところで、実際に水で洗口した場合としない場合で、唾液中にどれだけフッ化物が残るのかを比較した最近のランダム化比較試験(Albahrani et al. 2022)
を紹介します。

Albahrani MM, Alyahya A, Qudeimat MA, Toumba KJ. Salivary fluoride concentration following toothbrushing with and without rinsing: a randomised controlled trial. BMC Oral Health. 2022 Mar 3;22(1):53.

この研究では6種類の歯磨剤(フッ化物なし(コントロール)、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム+モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ+フッ化ナトリウム、アミンフッ化物)を用い、洗口の有無を条件に、唾液中のフッ化物濃度を90分後まで測定しました。結果として、洗口を控えたとしても、1分後をピークに唾液中のフッ化物濃度は急速に低下し、わずか15分後で、10分の1くらいに下がりました。水洗口の有無による唾液中のフッ化物濃度に統計的に有意差があった(P ≤ 0.05)のは、アミンフッ化物の1分後と、フッ化ナトリウムの1分後と、モノフルオロリン酸ナトリウムの15分後、30分後、60分後、90分後だけでした。つまり、15分後以降において、モノフルオロリン酸ナトリウム以外の歯磨剤は、水洗口の有無が統計的に影響しなかったのです。

・表
・歯磨剤別、水洗口の有無別の唾液中フッ化物濃度(ppmF)の平均値。※表中のアスタリスクはP ≤ 0.05を示す。



洗口の有無にそれほど差がなかったというのは意外な結果ですが、あくまでも実験対象は成人で、唾液中フッ素濃度の短時間的変化のみを対象としていますので、臨床的効果の保証ではありません。よって、「歯磨き後に水洗口をしてもいいのだ」とは誤解しないでください。歯磨き後の簡単な介入がむし歯予防に寄与するなら、日常臨床での患者指導やセルフケア提案に活かすべきでしょう。

この結果を見て、私は第2の方法、PBSRの優位性をさらに強く感じるようになりました。PBSRでは少量の水(10ml)を加えるのが特徴ですが、第1の方法、「Spit, don’t rinse」法よりもフッ化物濃度がそれだけ薄まるのではないかと少し懸念していたものの、このランダム化比較試験の結果から、それほど問題ではなさそうです。また少量の水(10ml)を加えることで、第3の方法「フッ化物洗口液によるうがい」と同様に歯間部にフッ化物を行き渡らせることができるため、コストパフォーマンスに優れています。

PBSR法を開発されたDowen Birkhed名誉教授は、フッ化物配合歯磨剤を使った歯磨き方法「2+2+2+2テクニック」も開発されました。PBSR法を「2+2+2+2テクニック」と合わせて実践するものとして、わかりやすくするように、私は一つ、Birkhed先生に提案をしました。PBSR法のスラリー(糊状の液体)を口腔内に行き渡らせる時間を1分間や30秒間など、文献により異なるところを、22.22秒間に統一してはどうかと。Birkhed先生も笑って同意してくださいました。

最後にPBSR法の方法を詳述します。

1.歯磨き中は吐き出さず、歯面にしっかりフッ化物を塗布する。
2.歯磨き終了後に10mlの水を加えて口腔内でスラリーを形成し、頬の筋肉を使って22.22 秒間、活発にうがいする。フッ化物が歯間部に行き渡るように。
3.その後、吐き出すだけで水洗口は行わない(必要があれば最小限の洗口に留める)。
4.その後、2時間の飲食制限が推奨される。

西 真紀子, Dowen Birkhed.「ニューノーマル 口腔ケアはどう変わる? 第11回 むし歯予防のために大切な歯磨き後の行動」よぼう医学. 2023年冬号 https://www.yobouigaku-tokyo.or.jp/yobou/pdf/2023_01/2023_01.pdf


著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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