これまで歯科医師は、“子どもの敵ではないことを理解させ”、“いつの間にかチェアーにあがり大きな口を開け”、しかも“いつの間にか器具に慣らせる”方法について述べてきた。さて筆者が、このような工夫をしてきたのには背景がある。 かつて、勤務先の大学病院小児歯科には、心臓血管外科から重度の先天性心疾患を持った低年齢児が多く紹介されていた。 術前には、病巣感染の可能性がある齲蝕のチェックがある。 もしあれば、処置が終了するまで手術は延期となる。 困難な手術なので、リスク要因はすべて排除しておきたいのだ。 ・3歳でも歩く体力のない子。 ・血中酸素飽和濃度が70%をきる子。 ・教科書でしか見たことのない“太鼓バチ状の指”をしている子 などが来院していた。 歯科処置もリスクが高いので、心臓手術を先に行なって欲しいだが、そういう訳にも行かない。
さらに心臓の予備能力がないので、大泣きをさせると事故を起こす可能性がある。 細心の注意を払いながら処置を行ってきた。 あまりのストレスで、筆者が心不全に陥りそうだった。 ・・かといって、トレーニングのみで終わると齲蝕は確実に進行する。 手術が遅れると、さらに心臓の負担が増し予後が悪くなる。 そこで、診療に慣れさせながら、処置を行なう必要があるのだ。 成人であれば、ここまで神経質になる必要はないだろう。 また、術後の心臓には強い侵襲が加わっている。 この状態で、急性症状が出たら予後に大きく影響する。 このような切羽つまった状況があった。 常に、処置を有利に進める方法がないか考え続けてきた そこで思いついたのが齲蝕を慢性化させ、進行を遅らせることであった。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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