学生時代、保存の模型実習では軟化牙質を除去し充填を行ってきた。 そのため、歯科医師の頭には“齲蝕”直ちに“削って充填”という回路が形成されている。 しかし小児歯科臨床は、そうはいかない。 中でも、理解力のない低年齢児はたいへんだ。 軟化象牙質を除去すると抜髄となるケースがある。 無理すると大泣きし、処置は困難を極める。 そして診療後、やるせない気持ちに陥る。 この様なケースでは、従来の思考回路を変える必要がある。 それは、齲蝕の進行を止めること。 すなわち“齲蝕を慢性化”することだ。 これは火事に例えるとわかりやすい。出火時に行うのは、家を建てる(充填)ではない。 まず行うのは消火である。 砂糖入りの食べ物は、火に油を注ぐようなものだ。 慢性化させる課程で、小児が歯科診療に慣れ、理解力が高まる。 さらには、二次象牙質の形成促進により露髄を防げる。 良いこと尽くめではないか。 さて、火事の消火液の一つとして、サフォライドがある。 筆者は、現在でも非常に優れた薬剤だと考えている。 これは、38%フッ化ジアミン銀の溶液で、歯質中のタンパクを固定させたり、無機質と結びつき歯質の脱灰を防ぎ石灰化を促進させる。 また細菌のタンパク質を固定し抗菌作用・プラーク形成を抑制する。 さらに、象牙細管に深く浸透し、細管の封鎖作用もある。 そのため、主に乳歯齲蝕の進行抑制剤として広く使われてきた。 本剤は、小児歯科に入局した1978年当時、多用されていた。 しかし、次の3つの欠点があった。 第1は、刺激性が強いため、齲窩が深いと歯髄炎を惹起する。
第2は、苦味を嫌がり泣き出す。 第3は、軟化象牙質が黒変する。
これらの欠点をどうクリアすれば良いのだろう? 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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