TOP>コラム>2026年5月のピックアップ書籍

コラム

2026年5月のピックアップ書籍

2026年5月のピックアップ書籍
2026年5月のピックアップ書籍

天然歯・インプラントの審美のための形成・再建外科手技のすべて! TISSUES 歯周・インプラント外科の 硬・軟組織マネジメント成功の鍵

Leandro Chambrone/ Gustavo Avila Ortiz・著 浅賀勝寛/井汲玲雄/小川雄大・監訳 福場駿介/倉治竜太郎/前川祥吾・翻訳統括 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 60,500円(本体55,000円+税10%)・624頁 評 者 浅賀勝寛 (埼玉県開業・浅賀歯科医院) 本書は、歯周・インプラント外科に必要な知識や技術を体系的にまとめた書籍であると同時に、臨床家の思考そのものを問い直す1冊である。本書の核心を示す序文において、著者のChambrone氏とAvila Ortiz氏らが述べているように、歯科医療はこの数十年で飛躍的な進歩を遂げてきた。デジタル技術、バイオマテリアル、低侵襲手技など、私たちは多くの革新的なツールを手にしている。しかし本書は、その進歩を無条件に礼賛するのではなく、それらを真に患者利益へと結びつけるためには、治療計画と処置の根幹を支える基礎原則への深い理解が不可欠であると明確に示している。 本書全体をとおして一貫しているのは、組織を「扱う対象」ではなく、「理解すべき生物学的システム」として捉える姿勢である。歯周組織やインプラント周囲組織の生物学的特性から始まり、器具の選択、フラップデザイン、移植材料、そして外科的介入へと進む構成は、単なる手技の羅列ではない。すべてが、組織の反応をいかに理解し、いかに無理なく治癒へ導くかという一点に収束していく。 臨床の現場では、治療直後には問題がないように見えても、時間の経過とともに歯肉退縮や審美的破綻、インプラント周囲のトラブルが生じる症例を経験する。本書は、その原因を術者の技量や偶発的な要因に帰するのではなく、組織の限界や治癒の原理を十分に考慮しない介入に求めている点が印象的である。組織マネジメントとは、術者が組織を思いどおりに操作することではなく、生体の反応を理解し尊重したうえで、最適な環境を整えることであるという著者らの姿勢は、本書全体を貫く核心である。 経験を重ねてきた臨床家にとって、本書はこれまでの成功と失敗を再解釈するための確かな指針となるだろう。一方でまだ経験の少ない若手歯科医師にとっては、テクニックを追い求める前に身につけるべき「組織を見る目」と「判断の軸」を示してくれる。本書は、歯周・インプラント外科を単なる技術ではなく、生物学と臨床判断の統合として捉える重要性を教えてくれる1冊である。 さらに本書の価値は、豊富な臨床写真や図版を通じて、組織の状態をどのように観察し、どのタイミングでどの介入を選択するのかという臨床判断のプロセスを具体的に示している点にもある。フラップデザインや軟組織移植、骨造成などの各手技についても、単なる術式の紹介にとどまらず、その適応や限界,術後の組織変化までを含めて解説されているため、読者は個々の症例に応じた思考の組み立て方を学ぶことができる。日常臨床において術式の選択に迷う場面は少なくないが、本書はそうした場面で立ち返るべき生物学的原則と臨床判断の基盤を改めて示してくれる。歯周・インプラント外科に携わる臨床家にとって、繰り返し参照すべき座右の1冊となるだろう。

臨床の即戦力となるクラウン・ブリッジ診療のバイブル本 驚くほど臨床に深みが増す! こだわり補綴サブノート

佐々木 猛/宮前守寛・監修 伊藤貴彦/小谷洋平/寺尾 豊/ 中野 浩/水野秀治・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 13,200円(本体12,000円+税10%)・164頁 評 者 十河基文 (大阪大学大学院歯学研究科附属イノベーティブ・デンティストリー推進センター) いきなり偉そうなことを言ってしまうが、これは補綴臨床、なかでもクラウン・ブリッジにおいて臨床即戦力として活用できる一冊である。 ところでJIADSというスタディクラブをご存じだろうか。米国の歯周病専門医Dr. Myron Nevinsらの下に留学した小野善弘先生が、評者が大学を卒業した1988年に日本でスタートした勉強会だ。JIADSと聞くと歯周病治療のイメージが強いかもしれないが、米国の歯科臨床では各専門医が寄り合って1人の患者の口腔内を包括的に治療する。それゆえ、当時「歯周補綴」といわれたクラウン・ブリッジは、故・中村公雄先生が担う形で研修コースを作ってこられた記憶がある。 しかし日本では多くの場合、専門医というよりもすべての臨床を1人で行うGP(General Practitioner)が一般的なスタイル。そのため、中村先生ご自身も考え方を変化され、さらに同スタディクラブの先陣の先生方の考えも加わっていった。そんな意思を受け継いだ現在のJIADS補綴コースを代表した5人の先生方が、本書の著者となっている。JIADSで培った臨床と自分たちのこだわりを交えて、患者さんにとって多くの歯科医師が質の高い臨床ができるように、具体的に、簡潔に、明瞭に、解説している。 私は歯学部卒業後も大学に残り、臨床研修医の指導を担う教室に在籍していたが、もし今も現役で教えているのであれば、間違いなくこの本を「クラウン・ブリッジのバイブル」として使っていたことだろう。 臨床経験がまだ浅いという先生は、端から読破していただきたい。ただ、多忙な日々、1冊を端から読破するのはなかなか簡単なことではない。であれば、本書は臨床に沿って体系だった目次で各章が構成されており、またクリニカルクエスチョン、いわゆるQ&Aが左上に記載されているので、まずそこを読み、わかりやすい写真やイラストと図説を読んでいくのもよいだろう。また臨床経験豊富な先生方も、調べもの的に活用できる。「今一度、この部分を振り返ろう」「自分の臨床は合っていたのかな?」等と思った際、読みたいところから読んでいくのも有用である。 さて、患者さんのために質の高い歯科診療をするには臨床のこだわりも大事だ。それもしっかりとしたエビデンスに基づく「知識」と「技術」が重要である。しかし、エビデンスとまではいかなくともうまくいくことも実際の臨床では多々あるが、批判を考えるとなかなか表には出てこないのも事実。そのため、誰とも話をすることなく1人で臨床をしていると間違った理解をしていることに気づかないことがある。 そこで、まずは知識・技術のベースとなる本書を読み、論理的に考えて、同級生、先輩、後輩と「情報交換会」ならぬ「醸泡交換会」で本書を「おつまみ」的に使って、臨床談話で盛り上がる1冊とするのもよいであろう。

摂食嚥下を“臨床を豊かにする武器”に変えてくれる1冊 患者さんにしっかり説明できる4 摂食嚥下リハビリテーション読本 診療室でも実践できる 簡単ガイド

谷口裕重/松村香織/鈴木宏樹・監著 齋藤貴之/森下元賀/多田 瑛/副島隆太/ 藤井佑季/大塚あつ子/水谷早貴・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 10,450円(本体9,500円+税10%)・176頁 評 者 押村憲昭 (愛知県・かすもりおしむら歯科・矯正歯科・口腔機能クリニック) 嚥下という分野に対して、評者はこれまで“難しい”“専門的すぎる”という先入観を抱いていた。これまで読んできた関連書籍の多くは、解剖学や脳神経学の詳細な説明が中心で、知識としては重要だと理解しながらも、臨床にどう落とし込めばよいのかがみえづらく、読み進めるのに相当なエネルギーを要していたからである。つまり、理論は理解できても、実際の患者さんの前でどう生かせばよいのかがイメージしにくい——そんなもどかしさを感じていたのが正直なところであった。 しかし本書は、その印象を大きく覆してくれた。難解な理論を前面にだすのではなく、まず臨床現場で直面する具体的な事例が提示されているため、自然と内容が頭に入ってくる。“なぜこの反応が起こるのか”“どこに着目すべきなのか”“どのように評価し、どのように介入するのか”といった流れが、非常に整理されており、読み進めるうちに自分自身の診療風景と重ね合わせながら理解を深めることができた。 それでは、簡単に本書を紹介しよう。CHAPTER1「摂食嚥下障害の基礎知識」では、その原因とメカニズムを体系的に整理している。CHAPTER2「摂食嚥下障害の原因となる疾患・薬について」では、嚥下障害の原因について、主要な疾患および薬剤とを解説している。CHAPTER3「診療室でも実践できる! 摂食嚥下障害を疑う方法」では、自覚症状、全身所見、口腔所見、咽頭所見の4方向からのスクリーニング方法が提示されている。CHAPTER4「診療室でも実践できる! 摂食嚥下機能評価」では、特別な機器や専門知識を必要としない、摂食嚥下機能評価の手法を示している。CHAPTER5「診療室でも実践できる! 評価に基づいた摂食嚥下リハビリテーション」では、摂食嚥下の5期モデルに応じたリハビリテーション方法を具体的に提示。CHAPTER6では、摂食嚥下に関する保険算定項目が学べる。 とくに印象的だったのはCHAPTER7「医院の状況に応じた嚥下障害への対応について」において解説される、口腔機能や嚥下に課題を抱える症例に対するアプローチの具体性である。抽象的な理論ではなく、実際の臨床で再現可能な視点と手順が示されているため、「これなら明日から試してみたい」と素直に思える内容であった。難しい概念も図解や平易な言葉でていねいに説明されており、これまで感じていた心理的なハードルが一気に下がったように感じる。 嚥下や口腔機能への治療に悩みを抱えている先生方、あるいはこれから体系的に学び直したいと考えている先生方にとって、本書はまさに最初の1冊として最適である。理論と実践を橋渡ししてくれる、非常にバランスの取れた良書としてお勧めしたい。摂食嚥下を“難しい学問”から“臨床を豊かにする武器”へと変えてくれる、そんな価値ある書籍だと感じた。

ニッチなタイトル、 しかしスタンダードな 普遍書 別冊ザ・クインテッセンス 上顎側切歯の治療戦略 意外に難しい上顎側切歯への対応のすべて

北九州歯学研究会・編 樋口 惣/松木良介/松延允資・監著 青木隆宜/河島紘太郎/倉富 覚、/ 小松智成/榊 恭範/瀬戸泰介/竹中 崇/ 田中憲一/筒井祐介/津覇雄三/中島稔博/ 芳賀 剛/樋口克彦/樋口琢善/力丸哲哉・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 6,930円(本体6,300円+税10%)・132頁 評 者 平井友成 (福岡県・平井歯科クリニック) 「北九州歯学研究会」、この名前は歯科関係者であれば、一度は耳にしたことがあるのではなかろうか? 昭和46年に創設された由緒あるこのスタディグループが、年1回開催する発表会を筆者は毎年楽しみにしており、継続して参加し聴講させていただいている。私が聴講に行きはじめた平成の頃は、歯科界の大御所であった故 下川公一先生が、一般の参加者が多数いる発表会という場であるにもかかわらず、壇上の演者を叱り飛ばしていたことを、今でも鮮明に覚えている。そこには現在ではパワハラともいわれかねないほどの緊張感があったが、これは真摯に臨床に取り組む姿勢の現れであった。令和の現在、当時のような厳しさはなくなったものの、高い臨床レベルを保ちながら、会員が相互に切磋琢磨している姿は伝承されており、筆者は畏敬の念をもってみている。 本書は「第47回北九州歯学研究会発表会」で行われた講演を基に、書籍化したものである。そしてその内容は表題の通り、上顎側切歯というニッチな部位への対応に特化している。大臼歯の治療に対する成書はみかけることがあり、当誌でも2016.6 Vol.35にて「第一大臼歯を保存せよ」という特集があったりもした。しかし私の知る限り、上顎側切歯に特化した書籍や特集は目にしたことがない。マニアックなところが多分にあるスタディグループだとは思っていたが、この歯種のみでの発表会を企画したことに驚きを覚えたものである。 実際に素晴らしい発表会であり、それを思い起こして書籍を見てみると、発表会の内容がさらにグレードアップし詳細にまとめられている。根管の解剖学の観点より紐解いた歯内療法やその外科的対応、歯冠形態や歯根形態の特徴から考える修復処置と歯周治療、先天欠損や顎骨の状態に基づいた欠損修復処置、そして上顎側切歯の治療を含む全顎症例という内容で構成されている。さまざまな分野に対し、造詣の深い先生が多数所属するスタディグループだけに、高度な内容でありながらも、わかりやすく解説されていることに感銘を受けた。 また、書籍中にいくつもあるColumnやQ&Aは、発表会でのディスカッションを彷彿させるものであり、非常によいアクセントとなっている。ともすれば単調になりがちで読み続けるのが辛くなるような書籍も散見するが、本書はこのおかげでリフレッシュして読み続けることができる。 上顎側切歯の病状に対する診断や考え方、それに基づく治療の実際は、他の歯種への処置でも当てはまる内容が多々あり、一般診療に必要とされる手技が幅広く網羅されているため、この表題ではある、「歯内療法、歯周治療、補綴治療全般にわたる指南書」といえよう。他の歯種における治療で迷った際も、本書で答えをみつけることが可能であろう。参考書代わりに手元に置いていただきたい一冊である。

tags

関連記事