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歯科材料がMRI撮影に与える影響

歯科材料がMRI撮影に与える影響
歯科材料がMRI撮影に与える影響
「インプラントをするとMRI検査に影響は出ますか?」と患者さんに聞かれたら。。。
MRI検査は頭頸部領域の疾患診断において不可欠な画像検査法ですが、口腔内に金属性の補綴物・矯正装置・インプラント支持義歯などを有する患者さんでは、画像アーチファクトや診断能の低下、安全性が問題となるかもしれません。
そこで、「歯科材料がMRIに与える影響について、アーチファクト・診断能・安全性にどのような影響が生じるか」という疑問について、選択基準と検索方法を予め設定して、系統的に調べてみました。

検索データベース:PubMed
検索日:2026年5月23日
検索語(英語):
歯科材料側:dental materials, orthodontic appliances, dental implants, overdenture
MRI側:MRI
アウトカム側:artifacts, artefacts, safety
言語・出版年:制限なし
研究デザインの絞り込み:システマティックレビュー・メタアナリシス・ガイドラインのみ(PubMedフィルター使用)

検索ヒット:8本→臨床疑問との合致度を評価→直接合致:4本を採用(参考文献を参照)
対象部位・目的が異なる4本を除外:除外した主な理由は、対象が脊椎手術(歯科領域外)、前立腺生検(歯科領域外)、インプラント手術計画へのMRI応用(アーチファクト評価が主目的でない)


歯科材料がMRI画像に影響する理由は、MRI装置が発生させる強力な静磁場と高周波(ラジオ波:Radio Frequency:RF)パルスが、磁性を持つ材料と好ましくない相互作用を引き起こすためです。
この相互作用が生じると、主に3種類の問題が発生します。

第1はアーチファクト(画像の歪み・信号欠損)です。
金属は周囲の磁場を乱し、隣接する解剖学的構造の像を歪めます。
第2はRFパルスによる誘導電流に起因する局所的な発熱です。
第3は強磁性体に作用する牽引力・トルクによる補綴物の変位や脱離リスクです。
Bohner ら(2022年)のシステマティックレビューにおいて、これらの影響が頭頸部MRIの診断精度を実際に損なうことを示しました。

アーチファクトの大きさと臨床的影響は、補綴物・装置の素材によって大きく異なります。

アーチファクトリスク高い
• ステンレススチール(矯正ブラケット・ワイヤー)	
• コバルトクロム合金・ニッケルクロム合金(金属床義歯・クラスプ・インプラント上部構造)

アーチファクトリスク低い〜中くらい
• 金合金	(金属冠・インレー)				

アーチファクトリスク低い
• チタン合金(インプラント体・下部構造)
• セラミック・ジルコニア(オールセラミッククラウン)	
• セラミック・プラスチックブラケット(矯正装置)	
• レジン・複合樹脂(充填物・義歯床)			

問題なし
• リテーナーワイヤー(保定装置)				

特にステンレス製ブラケットとワイヤーの組み合わせは、アーチファクトを相乗的に拡大させることが報告されており、口腔顔面領域だけでなく、前頭葉・眼窩・下垂体領域まで診断を妨げることがあります。
一方、セラミックブラケットやプラスチックブラケットは有意なアーチファクトを生じないとされています。
インプラントについては、下部構造(インプラント体)と上部構造(クラウン・ブリッジ)を区別して考える必要があります。
Johannsen ら(2023年)によれば、チタン製インプラント体によるアーチファクトは口腔内に局在する傾向があります。
一方、上部構造にコバルトクロム合金やニッケルクロム合金などの金属系素材が使用されている場合は、アーチファクトが大きくなるため注意が必要です。
上部構造の素材はインプラント体とは独立して選択されることが多く、患者ごとに確認することが重要です。

これらの他に、4つのシステマティックレビューにはなかったものの、留意すべきは磁性アタッチメント(サマリウムコバルト磁石など)は撮影部位を問わずMRI前の除去が必要です(Criado Villalón P, et al. 2025)。
義歯床側(磁石部)は患者自身が取り外せる一方、歯根・インプラント側のキーパーは歯科医師による処置が必要なため、事前の対応計画が重要です。
磁性アタッチメント(サマリウムコバルト磁石など)はMRIの撮影部位を問わず除去が必要です。

Dobai ら(2022年)は、固定式矯正装置を対象に、アーチファクト、発熱、脱離の3側面を網羅的に検討したシステマティックレビューを発表しました。
発熱については、一部のワイヤー素材でやや高い温度上昇が確認されたものの、患者に危害を及ぼすレベルではないとされました。
ただし、温度上昇が大きいワイヤーを使用している場合には、ワイヤーを取り外すか、装置と口腔粘膜の間にスペーサーを挿入することが提案されています。
脱離についても同様に、臨床的に問題となる事例は報告されていません。
アーチファクトの大きさこそが、MRI検査実施の可否を左右する最も重要な要因であると結論づけられています。

Hasanin ら(2019年)のシステマティックレビューでは、矯正装置が頭頸部MRIの診断能に与える影響に絞り、より踏み込んだ分析を示しました。
ステンレス素材の使用量が多いほど、また撮影したい部位に近いほど、診断能の低下が顕著となるため、撮影したい部位が矯正装置に近い場合には除去を推奨しています。
ただし、ガイドラインの策定にはさらなるエビデンスの蓄積が必要であるとも述べており、個々の症例に応じた慎重な対応が求められます。

Johannsen ら(2023年)および Bohner ら(2022年)はいずれも、インプラント支持義歯や補綴修復物に関するエビデンスは、矯正装置に比べて研究数が少なく結論が出ていない部分が多いことを指摘しています。
また、各研究間で使用MRI機器・磁場強度・評価指標・対象素材が大きく異なっており、横断的な比較が困難な状況です。

今後の研究課題として、まず近年普及が進む高磁場MRI機器への対応が挙げられます。
現在の臨床現場では磁場強度1.5テスラ(T)の機器が標準的ですが、大学病院や専門医療機関では磁場強度3Tの機器も広く使われるようになっています。
Bohner ら(2022年)はターボスピンエコー(TSE)シーケンスがアーチファクトを軽減することを示しており、磁場が強いほど画像の解像度は向上する一方でアーチファクトも大きくなるため、3T機器での歯科材料の影響に関する研究のさらなる蓄積が求められます。
また、インプラント支持義歯や補綴修復物を対象とした研究はいまだ少なく、新素材(ジルコニア・PEEK系材料など)のMRI適合性についても今後の検討が必要です。

歯科医師は素材の把握・事前の除去・放射線科医との連携を徹底することが求められます。
また、将来的なMRI撮影の可能性を踏まえた素材選択も、重要な臨床的視点のひとつでしょう。


参考文献
選択した4つのシステマティックレビュー
Johannsen KM, de Carvalho E Silva Fuglsig JM, Hansen B, Wenzel A, Spin-Neto R. Magnetic resonance imaging artefacts caused by orthodontic appliances and/or implant-supported prosthesis: a systematic review. Oral Radiol. 2023;39(2):394–407. 

Bohner L, Hanisch M, Sesma N, Blanck-Lubarsch M, Kleinheinz J. Artifacts in magnetic resonance imaging caused by dental materials: a systematic review. Dentomaxillofac Radiol. 2022;51(6):20210450. 

Dobai A, Dembrovszky F, Vízkelety T, Barsi P, Juhász F, Dobó-Nagy C. MRI compatibility of orthodontic brackets and wires: systematic review article. BMC Oral Health. 2022;22(1):298. 

Hasanin M, Kaplan SEF, Hohlen B, Lai C, Nagshabandi R, Zhu X, Al-Jewair T. Effects of orthodontic appliances on the diagnostic capability of magnetic resonance imaging in the head and neck region: A systematic review. Int Orthod. 2019;17(3):403–414. 

磁性アタッチメントについてのナラティブレビュー
Criado Villalón P, Herrera Calvo G, Medina del Valle J, Caubet Sáez-Torres I, Arroz García de Eulate A, Vázquez Gutiérrez B, García Reija MF. MRI safety of magnetic overdentures and implants: a review of current evidence and recommendations. J Maxillofac Oral Surg. 2025 Aug 23:1–4

画像:いらすとや

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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