疫学研究における「関連」と「因果関係」とは
口腔疾患は全身疾患のリスクになると言われています。今回は、口腔と全身の研究結果について紹介し、疫学研究を読み解くうえで重要になる、「関連」と「因果関係」の違いについて解説します。 まず、「関連」とは「Aが高いとBも高い(低い)」というように、2つの要因が一緒に変化することを指します。「因果関係」とは、「Aが原因となってBを引き起こす」というように、2つの要因の間に原因と結果の関係性があることを指します。 Austin Bradford Hillは1965年に、関連と因果関係を区別するための考え方を提唱しました(図1)。口腔疾患と全身疾患の間には、一見関係があるように見えても、必ずしも口腔疾患(原因)が全身疾患(結果)を引き起こすとは限らないため、このような視点に基づき注意深く見ていく必要があります。![]()
図1 Hillの因果関係ガイドライン(参考文献1を基に作成)。
交絡因子とは
「関連はあるが因果関係はない」例として、交絡因子の影響があります。交絡因子とは、原因と結果の両方に影響を与える第3の要因のことです。たとえば、もともと健康状態が悪い人は、口腔疾患と全身疾患の両方に罹患しやすい可能性があります。 第3回で紹介した社会経済状況も口腔と全身の健康の両方に影響を与えるため、交絡因子になりえます。口腔疾患と全身疾患の関係を正しく理解するには、この問題を解決しなければなりません。自然実験の有用性
ランダム化比較試験は、研究参加者に対して介入をランダムに割付けることで、交絡因子の影響を除外し、介入と結果の因果関係を検証できます。一方で、歯の喪失など長期経過をたどる要因には適用するのが難しいという限界もあります。この限界を補うため、私たちは「自然実験」という研究手法を用いました。「自然実験」とは、政策変化などの出来事を「実験」とみなすことで、ランダム化比較試験に近い状況をつくり出し、因果関係を明らかにする研究手法です。ちなみに、第4回で紹介した教育歴と無歯顎の研究も、英国の義務教育政策に着目した自然実験研究です。米国での自然実験研究から見えたもの
私が所属する研究チームは、米国における水道水フロリデーションの地域差に着目した自然実験研究を行いました。 本研究では、米国の大規模データを分析することで、子どもの頃に水道水フロリデーションに曝露されていた人は、成人期に歯が多く残っていることがまず示されました。さらに、水道水フロリデーションにより歯が1本多く保たれるごとに、うつ症状を有する割合が0.8パーセントポイント(%pt)低下することおよび、循環器疾患既往を有する割合が1%pt低下することがわかりました(図2)。![]()
図2 歯の喪失と全身疾患の自然実験研究(参考文献2、3を基に作成)。 水道水フロリデーションによって歯が1本多く保たれるごとに、循環器疾患既往を有する割合が1%pt低下した。
この結果は、口腔の健康が循環器疾患リスクを低下させることを支持することを表します。このことから、口腔の健康を保つことは、ひいては全身疾患リスクの低下にも寄与する可能性があります。つまり、臨床での予防や治療と公衆衛生的アプローチの双方による歯科介入が、患者さん個人や社会全体の健康の向上につながっているといえます。 参考文献 1. Hill AB. The environment and disease: association or causation? 1965. J R Soc Med. 2015 Jan;108(1):32-7. 2. Matsuyama Y, Jürges H, Dewey M, Listl S. Causal effect of tooth loss on depression: evidence from a population-wide natural experiment in the USA. Epidemiol Psychiatr Sci. 2021 May 25;30:e38. 3. Matsuyama Y, Jürges H, Listl S. Causal Effect of Tooth Loss on Cardiovascular Diseases. J Dent Res. 2023 Jan;102(1):37-44.
著者松山 祐輔
東京科学大学歯科公衆衛生学分野准教授
略歴
- 2012年 東北大学歯学部卒業
- 2017年 東北大学大学院歯学研究科博士課程を修了し博士(歯学)を取得、東京医科歯科大学・日本学術振興会特別研究員(PD)、ラドバウド大学客員研究員
- 2018年 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン客員研究員
- 2019年 東京医科歯科大学国際健康推進医学分野助教
- 2024年 東京科学大学歯科公衆衛生学分野准教授
- 日本口腔衛生学会
- 日本公衆衛生学会
- 国際歯科学会 (International Association for Dental Research)
- 日本疫学会













