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新たな視点を養う歯科公衆衛生学 第3回:歯科疾患の健康格差

新たな視点を養う歯科公衆衛生学 第3回:歯科疾患の健康格差
新たな視点を養う歯科公衆衛生学 第3回:歯科疾患の健康格差

健康格差とは?

読者の皆さんは、「健康格差」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「健康格差」とは、人々を取り巻く生活環境の違いにより生まれる健康の差のことで、特に社会経済的状況の違いによる健康上の差などが知られています。健康格差を縮小することは、国の保健政策の目標にも含まれています。しかし、なぜ生活環境や社会経済状況の違いが健康に影響するのでしょうか。

健康格差を生む3つの経路

健康格差が生まれる学術的な経路には、大きく分けて、①物質的経路、②行動学的経路、③心理社会的経路の3種類があると考えられています。①物質的経路とは、経済的困窮が住環境や身体的労働環境のような物理的環境の差を生み、健康に影響するというものです。②行動学的経路とは、喫煙や不健康な食事といった健康行動が社会経済的状況により異なるため、健康に影響するというものです。③心理社会的経路とは、社会経済的状況の違いが慢性的なストレスとなり、直接的に健康に影響するというものです。これらの経路に対して、医療アクセスなどの社会制度が重なり、ライフコースをつうじて健康に影響すると考えられています。これらの経路は明確に分けられるものではなく、重複するものとして理解していただければと思います。

健康格差の本当の原因は何か?

少し専門的な話になりますが、社会経済状況は本当に健康に影響するのか、それとも、もともと不健康である人が勉強や就職がうまく行かず、その結果、社会経済的に不利な状況にあるのか、という議論がありました。「健康状態」と「社会経済状況」のどちらが原因でどちらが結果なのかによって対策すべきことが変わるため、これを明らかにすることは大切です。 この疑問を解決するために、私が携わった研究の結果をご紹介します2。この研究では、イギリスで過去に導入された義務教育を延長する政策変化に着目しました。義務教育が延長されたことで、その対象となった人たちは最終的な教育年数が上昇しています(図1)。

図1 英国では、義務教育延長政策により教育年数が平均0.6年上昇した(参考文献2を基に作成)。

この政策の対象となったかどうかで高齢期の無歯顎者の割合を比較したところ、教育年数が1年長くなるごとに無歯顎割合が9%ポイント低くなることが示されました(図2)。

図2 英国の義務教育延長政策と高齢期の無歯顎の関係。教育年数が1年長いと、高齢期に無歯顎になる割合が9.1%ポイント低下した(参考文献2を基に作成)。

つまり、義務教育を延長するという教育政策が、高齢期の口腔状態にまで影響したということを示しています。このようなことから、社会経済的状況が口腔の健康に影響することは確かだと考えられます。

患者さんの社会的背景に目を向けよう

「健康格差」について解説しました。歯科疾患は、小児期(う蝕)、成人期(歯周病)、高齢期(歯の喪失)と、あらゆるライフステージで罹患しうる病気です。このため、健康格差が早期から現れやすいことでも知られています3。 臨床においても、非常に多くのう蝕に罹患した子どもを見たことがある先生も多くいらっしゃるだろうと思います。ぜひ、患者さんの社会的背景にも目を向けていただければと思います。 引用文献 1. Solar O, Irwin A. A Conceptual Framework for Action on the Social Determinants of Health. https://www.who.int/publications/i/item/9789241500852 (2026年7月31日アクセス) 2. Matsuyama Y, Jürges H, Listl S. The Causal Effect of Education on Tooth Loss: Evidence From United Kingdom Schooling Reforms. Am J Epidemiol. 2019 Jan 1;188(1):87-95. 3. Watt RG, Mathur MR, Aida J, Bönecker M, Venturelli R, Gansky SA. Oral Health Disparities in Children: A Canary in the Coalmine? Pediatr Clin North Am. 2018 Oct;65(5):65-979.

著者松山 祐輔

東京科学大学歯科公衆衛生学分野准教授

略歴
  • 2012年 東北大学歯学部卒業
  • 2017年 東北大学大学院歯学研究科博士課程を修了し博士(歯学)を取得、東京医科歯科大学・日本学術振興会特別研究員(PD)、ラドバウド大学客員研究員
  • 2018年 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン客員研究員
  • 2019年 東京医科歯科大学国際健康推進医学分野助教
  • 2024年 東京科学大学歯科公衆衛生学分野准教授
所属団体
  • 日本口腔衛生学会
  • 日本公衆衛生学会
  • 国際歯科学会 (International Association for Dental Research)
  • 日本疫学会
松山 祐輔

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