前回は、汚染された医療用具からいかに効率よく汚染物を剥ぎ取るかについてお伝えしました。 タンパク質分解酵素や界面活性剤を用いて汚染物を化学的に分解し、そこにスポンジや歯ブラシなどで物理的に擦る力を加えれば確実に除染することができます。 その際に注意したいのは、どこで擦り洗いをするかということです。 消毒コーナーの流し周りを可能な限り汚染しないように、擦り洗いをする際には、必ず洗剤に浸漬した容器の中で洗います。 つまり「液中(エキナカ)」です。 洗浄対象物を液中から取り出して擦ってしまうと、必ず飛沫(しぶき)が発生して流しの周囲を汚染してしまいます。 これを防ぐためにも、また落下による器材損傷を予防するためにも洗剤溶液の容器の中でブラッシングするようにします。 洗剤を使用して洗浄した後は、今度はその残留を防止するために十分にすすぐ必要があります。 洗剤成分とはいえ、医療用具に残留して患者さんの口腔内に持ち込まれることがあってはなりません。 大学病院の中央材料部ではRO膜(Reverse Osmosis膜)を通して、さまざまな不純物を取り除いた水を使いますが、RO水生成装置が必要になります。 流水ですすぐ際にも飛沫発生を最小限に抑えるように、蛇口からの出水量を少なくして、飛び散らないように注意します。 すすぎの後は十分に乾燥します。 乾燥不良の状態で包装したり滅菌したりということを行うと、水滴が被滅菌物の表面に付着していて滅菌不良につながってしまう危険性があります。 「オートクレーブの中は蒸気が充満するんだから、多少、濡れていても問題ないでしょ」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。 しかしながら、「蒸気」と「水」が全く別物だということを理解して初めて、高圧蒸気滅菌法という滅菌方法を使いこなせるようになるのです。 高圧蒸気滅菌法で使用する滅菌材(滅菌に必要な材料で、ガス滅菌では酸化エチレンガス、プラズマ滅菌では過酸化水素)は、私たちが引用する水と同じH2Oであり、他の滅菌材と比較して安全性が担保されています。 H2Oは固体で「氷」、液体で「水」、気体で「蒸気」となり、滅菌で用いるのは気体である蒸気です。 被滅菌物の表面に液体である水が残留していると、気体である蒸気が接触することができません。 すなわち滅菌不良の危険性が出てきます。 すすいだ後はタオルやペーパータオルを用いて乾燥してエアブロー仕上げをお勧めします。 次回は滅菌のための包装についてお伝えします。
著者柏井伸子
歯科衛生士
略歴
- 1979年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校卒業
- 1988年 ブローネマルクシステム(歯科用インプラント)サージカルアシスタントコース修了
- 2003年 イギリス・ロンドンおよびスウェーデン・イエテボリにて4ヶ月間留学
- 2006年 日本口腔インプラント学会認定専門歯科衛生士取得/li>
- 日本医療機器学会認定第二種滅菌技士
- 2009年 日本歯科大学東京短期大学非常勤講師
- 2010年 上級救命技能認定
- 2011年 東北大学大学院歯学研究科修士課程口腔生物学講座卒業口腔科学修士
- 2013年 東北大学大学院歯学研究科博士課程口腔生物学講座入学
- 2015年 ミラノにて3か月間臨床研究
- 2016年 アメリカ心臓協会認定ヘルスケアプロバイダー
- 2017年 上記更新
- 2020年 WHO Confirmation of Participation Infection Prevention and Control (IPC) for Novel Coronavirus (COVID-19)修了
近著 「よくわかる 歯科医院の消毒滅菌管理マニュアル」 ~無駄なく無理なく導入できる現実的な実践法~ 書き込み式 歯科衛生士のための感染管理の基本 http://interaction-books-information.blogspot.com/2018/04/blog-post.html